第54話  黒鍬衆改め黒シャベル衆もいいな

 ところで、現代で言う工兵に当たる黒鍬くろくわ衆っていうのがいる。いわゆる土木専門の集団だ。黒い鍬を持ってるから黒鍬衆って呼ばれてるんだが、その黒鍬は通常のクワより刃が厚くて幅が広いんで、打ち下ろした時に深く土に食い込むようにできている。


 黒鍬衆の仕事は、陣地や橋を造ったり、塹壕を掘ったりすることだ。あ、塹壕っていうより、落とし穴とか溝に近いかな。


 後は戦の後に死体を埋める穴を掘るくらいか。


 基本的に戦で死んだ人は、首を取られた状態で戦場に残されてるんだけどな。そこに農民たちが「戦場狩り」に来る。農民たちは田畑を戦場にされて荒らされてるから、戦場狩りをして所得の保証をされないと、作物の収穫がなくて暮らしていけなくなるんだ。だから戦場狩りは暗黙の了解として許可されてる。


 死体から剥ぎとられるのは、鎧、槍、刀はもちろん、フンドシまで取られた。


 血に染まったフンドシなんて、誰がはくんだよとか思うけど、洗って使うらしい。ついでに言うなら、血染めの着物も洗って糸をほどいて反物にして売るらしい。これも地球に優しいリサイクルってことなのかね。


 でも何かって言うと、祟りだ呪いだって言うのに、そういうところは平気っていうのが謎だ。


 俺からすれば自然現象である雷より、血染めのフンドシの方が怖いよ……


 それで剥ぎとられて丸裸の死体を穴に入れて埋めて、地元の坊主に供養してもらうんだけど、その穴を掘るのも黒鍬衆の仕事だ。


 で、だ。

 黒鍬で穴を掘るより、どう考えてもシャベルのほうが仕事がはかどるだろう。つまり、黒鍬衆ならぬ、黒シャベル衆だ。語呂が悪いけどな。


 しかも武器になるからな。黒鍬衆に兵糧も守らせられるんじゃないか?


「しゃべる、と言ったか。奇妙な名前だな」


 あ、しまった。シャベルって外来語か!? 馴染みがないから聞きなれないかもしれないな。


「別に他の名前でも良いと思いますよ。そうだ、兄上が新たに名づけられてはいかがでしょう?」

「ふむ……」


 そう言うとまんざらでもないようで、顎に手を当てて考えこんだ。


ふかクワではどうじゃ」

「おお。良き名ですな」


 そ、そうか?

 でも速攻で頷いた家長に続いて、熊も頷いている。真面目にいい名前だと思ってるみたいなんで、俺も頷いておいた。


 歴史が変わった瞬間だな。

 お前の名前は今から深クワだ! シャベルって呼ばれる未来はもうないぞ!


「よし。では家長。三又みつまたクワと深クワとその鶴はしとやらを作らせろ」


 うんうん。これでコメの生産量が上がるといいねぇ。あ、あとは塩水選(えんすいせん)をすればもっと収穫が上がるんじゃないか!?


「あ、兄上。もみがらのついたままの米と、お水と塩が欲しいのですけど」

「何をする気じゃ」

「収穫が上がる種もみを選ぶ方法を試してみましょう」

「……やってみよ」


 信長兄上が顎をしゃくって指示すると、家長さんがさっそく家人を呼んで用意させた。なんていうか、常日頃の信長兄上への接し方が分かるような素早さだ。きっといつも兄上に無茶ぶりされてるんだろうなぁ。


 すぐに用意された種もみと水と塩を受け取る。ついでに大きなたらいと木さじも用意してもらった。


「まずこのたらいにますで計って水を入れます。そこにこの種もみを入れると―――」

「これがどうした」

「浮く種もみと沈む種もみがありますよね。浮く種もみは、中身がスカスカなので浮くんです。沈んでいる物はたっぷり実がつまっているので、発芽率が高く、根っこにも活力があります」

「ほう」


 たらいの上に浮かび上がった種もみを取り除く。そして今度はたらいの中に木さじ一杯の塩を入れる。


 剛腕でGOだと、生卵を浮かべて頭がのぞくくらいの濃度がいいって書いてあったんだけど、その肝心の生卵がないからなぁ。水の中にどれくらい塩を入れたらいいかを、色々試してみないといけないよな。


「この中に塩を入れるんですが、水と塩の比率がちゃんと分からないと、次に塩水選をした時の基準が分からなくなるので、ます木さじ一杯の塩を入れます」


 塩を入れてかき混ぜると、更に浮く種もみがあった。これもまた取り除く。


「これを何度か繰り返すと、一斉に種もみが浮くのですが、その一回前の塩の分量を覚えておいて、次からは、まず水でもって種もみを浮かせた後は、木さじで計った先ほどの全部沈む量の一回分手前の量まで塩を入れてかき混ぜ、それでもまだ水に浮かない種もみを使って田植えをすれば、中身がぎっしり詰まった良い米が収穫できると思います」


 それから、木さじは同じものを使う事。その後は米を真水でよく洗って、日陰で8時間ほど乾かすっていう説明もした。


 ああ、そうだ。水に浸して発芽させてから田んぼに植えるといいらしいから、それも教えておかないとな。……何でいいんだったかな。剛腕でGOで説明してたっけな。他の細かいところは覚えてたりするんだけど、何でいいかは忘れちゃったなぁ。


 水に浸す時間なんかは覚えてるんだけどな。

 これは水温によって違うらしい。水温×日数で積算温度っていうのを出すんだが、発芽に必要な積算温度は100度だ。だから水温が20度なら5日間水に浸して、水温が13度なら8日間水に浸す。


 水温が高い方が早く発芽して良さそうなもんだけど、急に水を吸収するから、発芽にムラができるんだそうだ。だから、低温でじっくり発芽させたほうがいいらしい。


 剛腕でGOでは、わざわざ地下水をくみ上げた冷たい井戸水で発芽させてたな。あんまり冷たくても、今度は発芽しなさそうだから、これは何度もチャレンジしてどれがいいかを比較しないとダメだろうなぁ。


 前世の知識があっても、すぐに結果が出る物って案外少ないんだよな。


 こう、魔法でも使えたらパパってチートができるんだろうけどさ。


 前世は別の意味で魔法使い見習いだったけど、そこは転生して考慮されなかったみたいだな。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る