第53話 三点セットの使い方
「おっしゃる通りに作らせましたが、これはまた随分変わった農具ですなぁ」
生駒家長さんが、備中クワを手にしてしげしげと見た。そして次にシャベルを手に取る。
「こっちは平クワの一種でしょうか。これもまたおもしろい形をしていますね」
最後にツルハシを手にして首を傾げた。
「これは……種を撒く時の穴を開けるためのものでしょうか?」
「いえ、違います。土を耕す時に岩などがあれば、大きすぎたり硬すぎなければこれで砕けます。それから木の根を掘り起こすのにも重宝すると思います」
そう言うと、信長兄上が横からツルハシを奪って「ふむ」と考えこんだ。
「城攻めに使えるか……?」
ツルハシで壁を壊すのか? うーん。RPGゲームでは隠し部屋を見つけるのにツルハシは必需品だったけど、城壁はどうかなぁ。壊せないんじゃないかな。
龍泉寺城を造るから勉強したんだけどさ、お城の城壁ってかなり頑丈に作られてるんだよ。壁の厚さは大体一尺から二尺、つまり約30センチから60センチもあるからな。
攻撃を受ける前提で作られた壁は防火機能も備えた土壁で、竹を格子状に組んだ骨組みに荒縄をからめて土がつきやすくする。そしてその荒縄の上に、短く切った藁を混ぜた粘土を乗せて、土台になる荒壁を作るんだ。
荒壁ができたら、裏返し荒壁塗り、チリ廻り塗り、底埋め塗り、中塗り、上塗りっていう工程をして、仕上げに、見栄えと防水の為に白漆喰を塗る。
そうして白く塗った城壁で有名なのが、今はまだ建築されてない播磨国の姫路城だ。建てたのは藤堂高虎と黒田官兵衛のどっちだっけな。
どっちにしても、あんなに綺麗な城だからな。築城名人が造ったに違いない。
そういえばTVで平成の大修理の特集やってたけど、真っ白に生まれ変わってたよなぁ。さすが白鷺城の別名を持つお城だよ。これから建つなら、出来立てホヤホヤを見に行きたいもんだ。
見たいっていうなら、熊本城も見てみたいもんだ。日本一難攻不落の城って言われた城で、明治に起きた西南戦争で砲撃を受けても、薩摩軍を一兵たりとも城内に侵入させなかったらしいからな。さらに言えば、2016年に起こった熊本地震でも、崩れたのはほとんどが新しく積んだ石垣と新しく建築した天守の屋根で、建築当時から残る部分は無事だったらしい。
凄いよな、熊本城。あ~。前世で見に行ってれば良かったな。
もう建ってるのかな。俺が城を建てる時の参考にしたいもんだけど、熊本って肥後か。ってことは今は大友の支配地か? とすると、もう建ってるにしても、見に行けるようになるのは当分先だろうなあ。
「櫓門(やぐらもん)からの、良い弓の的になりましょうな」
「ふん。つまらん」
家長さんに言われて、信長兄上は興味を失ったようにツルハシを投げた。
うわっ。危ない!
サクッと地面に刺さるツルハシを、俺と熊と家長さんが見て、そして互いの顔を見つめあって、苦笑した。
うん。なんていうか、いつも苦労してる者同士、分かりあった気分だよね。
「こちらのクワは、土をよくかき混ぜるので、作物がよくできます。こちらのシャベルは穴を掘ったりするのに便利ですよ。それにここの端を鋭くしておけば、武器にもなります」
「ほう」
信長兄上の目がキラリと光った。
なんていうか、ヤンチャ坊主がおもしろいもの見つけたぞ、って顔だよな。もう二十三歳だけど、まあ、男はいつまでも子供の心を忘れない純真なところがあるってことさ。
それにしても、たかがシャベルって思うだろうけどさ。実はこれ、最凶の武器になりうるんだぜ。
俺の従妹の実家が田舎にあるって話は前にしたと思うんだが、冬になると結構寒いから道が凍ったりするんだけどさ。それをシャベルでガシガシ削るわけだ。
で、だな。
そのシャベルで木とか朽木まで切ってたんだ。
見た目はちょっと黒っぽい普通のシャベルなんだけどな。
どこでこんなシャベル見つけたんだよ、ってびっくりしてたら、従妹が普通に大手のネットショップで売ってたって言うんだ。それで見てみたら、本当に売ってた。
なんかかつては軍事用に開発されてた特製のシャベルらしい。説明文に「バランスがいいので投擲も可能です」って書いてあってさ。いや、投擲って、明らかにシャベルの用途じゃないよね!? って突っ込みたくなったよ。
しかも次の説明に「相手を銃で攻撃した場合、銃で反撃されますが、このシャベルを投擲した時はかなりの確率で敵が戦意喪失します」って書いてあったんだぞ……
うん。何度も言うが、普通のネットショップで売ってた。
ちょっと調べたら、そのシャベルって旧ソ連の特殊部隊が武器として使ってたらしい。しかもシャベルを使った格闘術があるとか。
凄いな、シャベル……
この戦国時代でも最凶になっちゃうかな。でも、絵にならないけどな。
信長兄上にシャベル……。
うん。想像するのを後悔するレベルで似合わないな。
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