第47話 熊改造計画

 熊と市姉さまの間を取り持つキューピッドになろうとしてる俺は、最近、熊改造計画にも着手しようとしている。

 いつも身ぎれいにして、市姉さまの前では大声を出さない。常に穏やかにニコニコしてろって言ってる。後は……もう、頼りがいがあるとか、甲斐性があるとか、そういう方面でアプローチしていくしかないよなぁ。


 それから誠実さのアピールか。熊はこう見えて史実でも一途だからな。この時代では側室を持つのが一般的だけど、やっぱり女性としてみたら、自分一人だけが妻、っていうほうが嬉しいんじゃないだろうか。


 できた妻は、夫にふさわしい側室を自ら薦めるのがいいって言われてるけど、実際、全く嫉妬せずにそんなことできるのかねぇ。


 別に側室を絶対に持たなくちゃいけないってわけじゃないし、実際に千姫の父の孫三郎叔父さんも正室しかいない。


 そこら辺をどう思ってるのか、市姉さまと犬姉さまがいる時にちょこっと聞いたんだけどさ。


 犬姉さまは「正室一人だけを大事に思う殿方は好ましい」って言ってたんだけど、市姉さまは「わらわたちの婚姻は殿がお決めになる事です。それが織田家の為になるならば、たとえ末席の室であろうとも、有難くお受けせねばなりませんよ」と、たしなめてた。


 市姉さま、大人だな。どこかの暴言吐いた姫に見習ってほしいところだ。


 っていうか、市姉さまがそういう覚悟を持ってるってことはさ、信長兄上を説得すればいいってことだよね。


 あの兄上を説得かぁ。結構難易度が高いような気がするんだが、気のせいだろうか。


 そもそも兄上って、浅井長政のことを凄く気にいって市姉さまと結婚させたんだよな。だけど長政のどこを気に入ったんだろう。


 浅井長政は、一般的に義理堅いってイメージだよな。朝倉への義理と、織田への義理の間で悩んで、結局朝倉への義理を立てた、って印象だ。


 確か現時点で浅井家って、南近江の六角左京大夫義賢の家臣って扱いなんだよな。それでその六角氏との戦いに、元服したての長政が出陣して奇跡的な勝利を挙げるんだったか。


 ん? じゃあまだ現時点では、長政は元服してないってことになるのか? 

 そういえば、まだ長政の名前を聞いたことがないぞ。ってことは、市姉さまと同い年か年下かってとこか。


 イケメンかどうかは分からんなぁ。TVで見る長政は、わりとイケメン俳優が演じてたから、やっぱりイケメンだったのかな。柴田勝家役の役者とはちょっと違ったよな。


 柴田勝家はあれだ。イケメン俳優じゃなくて、個性派俳優って呼ばれてる役者が演じてることが多い。

 しかも個性派の中でも、顔も個性的な役者だよな。


 武勇、で言うなら熊も負けてはいないけど、年齢とイケメン度で負けてるってことか。


 それじゃ長政に勝てる気がしないぞ。


 そしたら後は、女心をくすぐるプレゼント攻撃しかないじゃないか。

 しかし、女心をガッチリつかむプレゼントってどんなのだろう。


 前世も今世も、年齢=彼女いない歴の俺にはさっぱり見当がつかん。

 しかも織田家は裕福だから、市姉さまも大概のものは持ってるだろうしなぁ。銅鏡も良いのを持ってたし。


 絵巻なんかは喜ばれるけど、熊が絵巻かぁ……似合わんな。

 だけど意外性ってことでいいのかもしれん。いっそ、百人一首を手書きで作るとかどうだ?


 思いついたら即実行だ。単に圧搾機ができてなくて、ロウソク作りができないせいで暇だと言う話があるが、それは気のせいだ。

 なんといっても毎日月谷和尚さまからお勉強を教わってるからな。そんなに暇じゃないからな。


 幸いなことに、熊を呼んでもらったら、今日は末森にいた。最近はよく清須に行ってるんで、こっちにいて良かったよ。


「喜六さま。お呼びと伺い申したが、どうなされましたか?」

「お聞きしたいことがあったのです。勝家殿は、絵はたしなまれますか?」


 がさつで無神経そうに見える熊だが、これで意外と武家の教養に堪能だ。


「多少は心得ておりますが」


 ふむ。

 熊が多少って言うってことは、結構できるってことだな。熊のくせに、結構、謙遜するからな。


「では今度、一緒に歌がるたを作りませんか?」

「歌がるた、でござるか?」


 歌がるたっていうのは、いわゆる「いろはカルタ」のことじゃなくて「百人一首」のことだ。読み札に作者の名前と上の句が書かれていて、取り札には下の句が書かれている。


 読み札には歌を詠んだ歌人の絵が描かれていることもあるから、今回はそれを作ってみようと思うのだ。


 紙は信行兄ちゃんにもらった。別に誰にあげるとかって話もしてないんだけど、勝手に千姫に送るものだと思ったらしく、二つ返事でOKしてくれた。


 別にあげてもいいんだが、すぐに捨てられそうじゃないか? せっかく作っても捨てられちゃうんじゃ、ちょっとなぁ。


 まあ、他にあげる相手はいないけど……熊が市ねえさまにあげるなら、俺は犬姉さまにあげてもいいな。

 とりあえず作ってみるのだけやってみよう。


 ぐふふ。俺のプラモ塗りで鍛えた筆さばきを見て、驚くなよ、熊。





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