第37話 こんにゃくじゃなくて、婚約だと!?
「それからお前の
さらっと言われた信長兄上の言葉に、はぁ? と熊と顔を見合わせて、同時に固まった。
え? なに? いいなずけ、って婚約者ってことか!?
だだだだ、だれと!?
「千姫だ。この間、会ったであろう?」
あ~。千姫。千姫ね。うん。
あれだ。徳川家康が凄く可愛がってた孫娘だね。徳川幕府の二代目、徳川秀忠の娘で、母親のお江は信長の妹のお市と浅井長政の間に生まれた三女だ。
それでもって、豊臣と徳川の政略結婚で豊臣秀頼に嫁ぐけど、大阪夏の陣で落城する大阪城から助け出される悲劇の姫だな。
確か美人で有名だよな。
でもまだ生まれてないよな。
だとすると誰ダロウ。
他に俺と婚約する千姫なんて、イナイジャナイカー。アレ、オカシイナー。
「あの……もしや、と思いますが、信光叔父上の忘れ形見であられる千姫さまのことでございましょうか?」
「他におるまい。喜六より三つほど年上だが、なに、嫁は年上のほうがうまくいくものだ」
わっはっは。って笑うけど、信長兄上の奥さんの濃姫は、兄上より一歳年下じゃないか! なんの根拠もない説だな!
「ですが、その……千姫さまは、私のことは嫌っていらっしゃると思いますが……」
信長兄上だって、千姫が信光叔父さんのお葬式の最中ずっと、俺の事を睨んでたのを知ってるじゃないか。なのに、なんでそんな相手と婚約しなくちゃいけないんだよ!
「そうか? 千姫は嫌とは言わなんだぞ」
ちょっと待ってくれよ。千姫には先に聞いたってことか? なんで俺に先に聞いてくれないんだよ。おれは恋愛結婚したいんだよ! 恋愛どころか、マイナスから始まってるじゃないか。
それに千姫だって父親が死んで庇護者がいなくなってるんだから、当主である兄上の言うことに逆らえるわけないじゃないか。
うわぁ。最悪だ。仮面夫婦になる未来しか見えん。
「千姫は松平の血も引いておるからな。無下には扱えん。その事で松平に難癖をつけられてはたまらんからな。だが松平の血を引くゆえに、嫁ぎ先はよく考えねばならん」
いや、それは分かるけどさ。松平の血も、織田の血も引いてるからな。これでもし松平と裏で繋がってる家にお嫁に行ったりでもしたら、千姫の子供を正当な織田の跡取りとして、織田に対して戦を起こす大義名分になるのは確かだ。
えー。でもなー。なんで俺なんだよ。
「それに叔父貴には世話になった。他に千姫の相手にふさわしき相手がおらんのだ」
父上の息子ってあれからちゃんと数えたら十一人もいたんだよな。ちなみに娘は十四人だ。父上……ほんとがんばったな。
その中でも正室である母上の子供で男なのは、信長兄上、信行兄ちゃん、俺、三十郎の四人だ。
でもって信長兄上には正室の濃姫がいるけどまだ子供が生まれてないから、側室を持つのは憚られる。信行兄ちゃんはこの間、御坊っていう嫡男が生まれたけど、既に正室だけじゃなくて側室も何人かいるんだよなぁ。
うん。信行兄ちゃんは確実に父上の血を引いてるな。嫡男も生まれたし、絶対これからベビーラッシュだ。
で、そんな相手に嫁がせられるかっていうと……他にも選択肢があるならそっちにするよなぁ。美貌に自信があって寵愛を受けるぞっていう自信があるなら別かもしれないけど、この時代の美人って顔じゃなかったしな。
そう考えると俺しかいないのか。三十郎はまだ小さいしな。
でも、嫌いな相手でも正室がいいって……考えるものか?
考えないだろう。……考えないよな? いくら政略結婚がほとんどだって言っても、選ぶ自由が少しでもあるなら、好きになれそうな相手がいいよな?
現在進行形で嫌ってる相手と結婚しようなんて、思うものかね?
だとしたら俺には理解できんよ。後で市姉さまにでも聞いてみよう。
「でも私が元服するまでお待たせしてしまうことになります。花の盛りを無為に過ごさせてしまうのは申し訳ありません」
うん。遠回しに断ってみた。
だってなー。俺はほのぼの癒し系が好きなんだよ。嫌われている相手とほのぼのできるとは思えん。
「たかだか三、四年であろう。問題にはならん。それまでにはどこぞの城を与えねばならんと思っていたが、龍泉寺に築城するゆえ問題はないな」
「いやでもあの、その兄上。ですからね―――」
「明日にでも機嫌伺いに行くが良い。あれで、なかなか可愛いところもあるぞ?」
えーえーえー。
なんでいきなり婚約者が決まっちゃうんだよ。しかもあの千姫だろ? 俺の事嫌ってる相手なのに、勘弁してくれよ!
男の夢の一国一城の主になれるって喜んでたのに、いきなりオプションで人生の墓場がついてきちゃったよ。
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