第11話 御坊のお宮参り 1

 最近、信行兄ちゃんが遊びに来ないなぁと思っていたら、なんと驚愕の事実が判明いたしました。

 信行兄ちゃん、パパになってました!

 うおー。いつの間に!?


 でもうっすらと残る喜六の記憶を思い返せば、確かに信行兄ちゃんは結婚してたわ。しかも美人さんと。

 くそー。リア充め。

 M・O・G・E・R・O!


 はっ。信長兄上にも美人の奥さんいるじゃん。濃姫さま。

 くううう。

 ダブルで、M・O・G・E・R・O!

 ついでにH・A・G・E・R・O!


 それはさておき。信行兄ちゃんにお宮参りに行くから一緒に来い、って言われました。俺みたいに元服してない子供でも、織田一族が馬に乗ってお供するだけで、箔がつくんだそーです。そんなの知らんがな。


 でもお宮参りに行くのは熱田神宮だってことなんで、そこはちょっと期待してたりする。現代でも熱田神宮って人気スポットだしな。


 それに歴史オタク山田の情報によると、確か信長兄上が桶狭間の戦いに行く前に熱田神宮で戦勝祈願してたはず。いや、ここは過去形じゃなくて未来形か? うーん。ややこしいな。


 まあ、どっちにしても行くしかないよね! 信長兄上より一足先に、熱田神宮で祈ってやるぜ!


 名前が熱田神宮じゃなくて、熱田神社って言ってるんだけど、熱田神宮の偽物じゃないよね? 本物だよね?


 お宮参りに行くのは、俺、信行兄ちゃん、奥さんの千代義姉さん、信行兄ちゃんの長男の御坊くん、俺たちの母上の土田御前。信行兄ちゃんの家臣の熊、津々木蔵人、佐久間盛次、その他の家来のみなさんと女中の皆さんだ。


 市姉さまと犬姉さまは、残念ながらお留守番だ。

 城下町か、近くの城くらいならいいけど、熱田までは遠いからダメって信長兄上に禁止されたんだ。


 もし万が一さらわれたら大変だからね。


 考えるだけでも許せないけど、無理やりさらって嫁にすれば、織田家の血を引く子供が生まれちゃうからな。生まれたてでも、その子を旗印にして家督を奪う、なんて話がないわけじゃない。はあ。ほんとに戦国時代ってクソだよな。


 っていうか、最初は亡き父上が京都にある北野天満宮から菅原道真の木像を頂いて分霊わけみたましてもらって那古野城に造営した、桜天神社にお宮参りに行くって話だったんだ。今は那古野城のちょっと南にあるらしいんだけどな。


 末森から那古野までなら、駕籠に乗ってもすぐ行けるから市姉さまたちも行けたんだけど。


 でも母上がさ、そんな歴史のない神社にお宮参りだなんて格式が低いって言いだしちゃったらしい。しかもお寺の中の一角にある神社だし。


 でも普通にお寺の中に神社があるとか不思議だよな。日本全国、わりとよくあるけどな。仏さまと神様って喧嘩しないんだろうか。実は仲良しなのかもしれんな。戦国武将も見習うといいのに。


 いや、でもちょっと待てよ。お寺って言っても、桜天神社のある萬松寺って、父上のお葬式をやったお寺じゃないか。ほら、あれだよ。父上のお葬式で、信長兄上が位牌に抹香を投げつけたエピソードの舞台のお寺。

 ってことは、織田家と縁が深いお寺の一角にあるわけだし、神社だって父上が作ったんだから、お宮参りは桜天神社で十分じゃないのかねぇ。


 それに織田家の当主とか嫡男とかならともかく、信行兄ちゃんは次男にすぎない。だから長男が生まれたとはいえ、普通だったら子供のお宮参りは桜天神社で十分なんだけどなぁ。母上が譲らなくて、信長兄上が渋々認めた形になった。


 それで熱田神社まで行くことになったんだけどさ。生まれたての子供をそんな遠出させていいのかね。


 母上と千代義姉さまはそれぞれ別の駕籠に乗っているけど、揺れるよな、きっと。新生児ってあんまり揺らしちゃいけないんじゃないのか。心配だな。


 母上は本当は輿に乗って行きたかったらしいけど、さすがにそこまでの身分じゃないから諦めた。というか、普段は母上に頭が上がらない信行兄ちゃんが、がんばって諫めた。


 なんていうか、我が母ながら、結構わがままな性格だよな。


 信長兄上もダメならダメってはっきり言えばいいんだけどさ。なんか母上には強く言えないんだよなぁ。

 しかもその母上には嫌われてるもんだから、はたから見てると可哀想になる。いつも強気な信長兄上がさ、振り返りもしない母上の背中をじっと見つめてるんだよ。ま、まあ、マザコンとも言えるけどな。


 でもなぁ。母上の兄上に対するあの仕打ちはないと思うんだ。前世の記憶を思い出してからの俺もそうだけど、廊下ですれ違っても凄い嫌な顔をされるだけなんだよ。いくら実の母親でも、あれは結構むかつくし傷つく。特に信行兄上に向ける優しい顔も知ってるから、なおさらだ。


 俺はさ、まだ小さい頃は優しくしてもらった記憶もあるし、今となっちゃ前世の記憶のほうが影響しちゃってるから、今さら母親に嫌われようとどうってことないんだけどさ。信長兄上は一度も優しくしてもらったことがないんだろうしなぁと思うと、なんとも切ない気分になる。


 聞いた話によると、信長兄上は生まれたばっかりの時に、おっぱい飲んでて母上の乳首を嚙み切っちゃったらしい。

 多分、それは大げさに言ってるだけだと思うけど。

 嚙み切っちゃったら、その後に生まれた俺たちは母上のおっぱい飲めてないわけだし。いやだって、乳首って再生しないよね!?


 で、その後も乳母の乳首を嚙み切っちゃって大変だったらしい。やっと池田の恒興つねおき、通称ツッチーのお母さんが乳母になるまで、何人も乳母が交代したとか。


 きっと、信長兄上って生まれた時から歯があったんだろうなぁ。たまーにそういう赤ちゃんがいるらしいんだよな。


 いや、前世の職場で、部長の娘さんとこの子供がやっぱりそうだったみたいで、おっぱいあげるのが凄く大変だったって聞かされたからさ。おっぱい飲もうとして、歯が当たっちゃうから乳首から血が出ちゃうんだってさ。ひいい。想像しただけで痛そうだよ。

 でも現代ではおっぱいを搾乳する機械みたいなのもあるし、足りない分は粉ミルクをあげたっていいし、なんとかそれで乗り切ったらしい。


 話を聞いた当時は、独身一人暮らしのアラサー男におっぱいの話振るとかどんな拷問だよって思ったけど、一応その知識が役に立ってるから、よしとしよう。うん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る