第8話 枕が欲しい 2
食事中の方は閲覧注意でお願いいたします。
一週間後、俺はそばがらを手に入れて、それを特製巾着に詰めていた。寝心地が良ければちゃんとした枕っぽく仕立てればいいしね。
枕にしてみた感じは、なかなか良かった。
いいぞ、これで戦国時代を乗り切る第一関門をクリアしたぜ!
と、思ってたんだけど、さ……
さらに一週間後。
俺は枕から出てきた得体のしれない虫に悲鳴を上げた。日本の夏を甘く見ちゃダメだった。暑いし湿気あるしで、虫さん天国なんだよ! でもって、そばがらは虫さんにとっては栄養満点なんだよ!
穀物は涼しくて暗い所で保管しましょう。間違っても寝汗で湿る枕の材料に使ってはいけません。
うええええええええ。
ダメだ。思い出しちゃいけない……
うーん。他になにかいいアイデアはないものか。
そうだ。布を巾着型に縫ってもらって、その中にボロ布を入れたら枕っぽくならないかな。着古した着物の布なら、ほどよくヘロヘロになってていいんじゃないか?
で、だ。試してみたんだけど、中の布が片寄っちゃってダメだった。まあ木の枕よりはだいぶいいんだけどな。
片寄るのがダメなんだとしたら、片寄らないようにするのがいいんだろう。
どうすりゃいいんだろうね。
いいアイデアが出ないままずっと考えていたんだけど、やっとこれならいけるかな、っていうのを思いついた。パッチワークだ。あ、違う。ハワイアンキルトだ。
前に課長の奥さんがはまってるとかで、作品の写真をたくさん見せられたんだけどさ。素敵なパッチワークですね、って言ったら、これはハワイアンキルトで全然違うって怒られたんだ。見た目は変わらないと思うんだけどな。でもハワイアンキルトは中に綿が入ってるから、ただのパッチワークとは違うものらしい。
未だにワタは見つかってないけど、四角い袋を作って、その中に端切れを細かくしたのを入れたら、綿の代わりになるんじゃないかな。
とりあえず試してみるか。
まず最初に手の平サイズの四角い布をたくさん用意した。それを縫い合わせて袋状にしていった。
男が裁縫なんて、って白い目で見られたけど、最近の俺の奇行は末森城内でも有名になりつつあるので、皆見て見ぬふりをしてくれた。呆れて、見放されてるだけとも言うかもしれない。
いいんだ。武士の子が針仕事などとんでもありません、って止められるより、白い目で見られるほうがいいんだ。
べ、別に悲しくなんてないから。
市姉さまだけは面白がって手伝ってくれたけどね。
「本当に喜六は面白いことを考えますね」
ほほほ、と笑う市姉さまはそろそろ誰かと結婚するって話が出てもおかしくないお年頃だ。まだ十三歳だけど、この時代の結婚って本当に早いんだよ。十三とか十四とかさ。早い子は産まれてすぐに結婚相手が決まってるものらしいからね。
市姉さまは美人だし、性格がいいし、もう少し大きくなったら引く手あまたなんだろうと思う。実際の史実でもそうだったしね。今だって、色んなところから嫁に欲しいって言われてるらしい。
ただ、信長兄上のうつけの噂で、あんまり有力な武将からの話はないらしい。
この時代の結婚は家と家の結びつきだからね。結婚してメリットがなければダメなものらしい。信長兄上と濃姫も政略結婚だしな。
うちの場合は信長兄上が本物のうつけだったらすぐに織田家が滅びるだろうから、結婚して親戚になるメリットがないってことなんだろうな。
「でもどうせなら快適に生活したいじゃないですか」
「ほほほ。快適な生活ですか」
「そうですよ! 市姉さまもこの枕が成功したら同じのを作ってさしあげますからね。そしたら快適な生活の素晴らしさが分かるはずです」
「楽しみにしていますね」
市姉さまの協力もあって、キルト枕試作品第一号はほどなくできた。細長い座布団みたいなキルトをくるくる丸めて紐で結べば完成だ。これなら多少湿気ても、平たく伸ばして干しておけばカビないと思うんだ。
後は寝心地だな~と思って、市姉さまの隣に枕を置いて、ごろんと寝転がる。
おお、これだよ、これ!
完ぺきとは言い難いけど、枕だよ、これ。
やったー! 今日から快適安眠タイムだー!
それにさ、これもっと大きいのを作ったら敷布団とか掛布団になるんじゃないか? そりゃあ綿の布団ができるのが一番いいけど、綿の木? が見つかるまでどれくらいかかるか分からんし、見つかったとしてもそれから栽培が軌道に乗るまではもっとかかるだろうからな。
それまではキルトの布団で我慢すればいいな。
と、思ってたら、今度は市姉さまから話を聞いた信長兄上にキルト枕を取られました。
毎日快適な眠りを得られているそうです。
うわあああああん。
俺のキルト枕くん、かむばあああああああっく。
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