第7話 枕が欲しい 1
とりあえず元服も初陣もまだだし、戦に行かない方法を考えるより先に解決したいことがあった。
それは枕だ。
いやもう、この時代の人たちってよく木の枕で寝られるよな。普通の枕だとチョンマゲが邪魔になるとはいえ、木の枕じゃ硬くて寝られないと思うんだけど。
とはいえ、ワタがないんだよ、ワタが。
木綿の服なんかは高級品として存在してるから、ワタもどっかで栽培してるのかと思ってたんだけどさ。明から貿易で手に入れてるから、あるにはあるんだけどとっても高価なものらしい。
え? あれ? 木綿ってワタから作るんだよね? ワタって綿って書くよね、確か。でもって木綿は木の綿だよね。木の綿ってことは、木綿とワタは別物なのか?
ここは俺の記憶を信じて、同じものだってことにしよう。
一応、信長兄上が探してくれるって言ってくれたから、見つけてくれるのを祈るしかないね。神様? 仏様? なんでもいいや。ワタをプリーズ。
探しやすいようにと思って、ちゃんと説明したからきっと大丈夫だろう。実がぽんとはじけて、ぽわっとした白いワタが出てくるから、一目でわかるってね。うん。いい仕事したな俺。
それにしても、探すのって忍者なのかな!?
……忍者。忍者かぁ。やっぱり男なら一度は忍者に憧れるよね。忍法、隠れみの術! ってね。一度、本物を見てみたいもんだな。
でもワタが見つかるまではこのままの枕か……
うーん。何かいい方法はないかな。
一番欲しいのは低反発枕だ。でもそれは絶対に手に入らないだろう。いくら俺だってそれくらいは分かる。
そして、次の候補は羽根枕だ。
でもなぁ。羽根枕って使ったことあるけどさ、安いのを買うと、中から羽根が出てきちゃって頭に刺さるんだよ。どう考えてもこの時代の織の粗さじゃ、羽毛の根元のとがったとこがぴょんぴょん出てきて頭に刺さりそうだよな。
あと他に何かなかったか?
そうだ。そば枕っていうのがあったはずだ。いやちょっと待て。そば枕なんて名前じゃない。
思い出せ、思い出すんだ俺! がんばれ脳細胞!
…………。
…………。
そばがら! そうだ、そばがらだ!
よし、ナイスだ俺。いいものを思い出したぞ。そばならこの時代にもあるもんな。
いやでもちょっと待てよ。そばがらの「がら」って何だ?
よし、分からないことはその辺にいる熊にでも聞こう。
この世界で目が覚めてから、なんかいつも目につくところにいるのは気のせいだってことにしておこう、うん。
「そばがら、で、ござるか?」
「そうそう。そばの何かなのは分かるんだけど、何か分かる?」
「それはそばの実を取った後の殻ではないでしょうかな」
熊こと、柴田勝家三十三歳に聞いてみると、やっぱりそこは年の功なのか答えが返ってきた。
「なるほど! 勝家殿は物知りだね!」
褒めてあげると、熊がデレた。顔を赤くして、いや、それがしは……なんて照れてる。薄目で見るとちょっとかわいく……は、ないな。うん、普通にきもい。
でも俺も最近知ったんだけどさ。熊は別に俺に惚れてるとか、そういうのはないみたいなんだよな。ただこの顔に弱いっていうかなんていうか。
ここだけの話。熊はさ、一応奥さんはいたみたいなんだよ。だいぶ前に死んじゃったらしいけど。でもって子供はいないらしい。そんな寂しい独り身の熊は、どうやら俺の母の土田御前が好きみたいなんだよ。まあ確かに性格はともかく、美人であるのは確かだ。子供を何人も生んでるとは思えないくらい若々しいし。
ただ、なぁ。俺からすれば性格はちょっとなぁと思う。
基本的に俺と母上はあんまり会わない。廊下でたまにすれ違って軽く挨拶をする程度だ。
母上の子供は信長兄上、信行兄上、市姉上、犬姉上、俺、三十郎の五人なんだけどさ、俺と信長兄上は母上の中ではいらない子扱いなんだよね。
信長兄上はうつけもので、俺も孫十郎叔父上の家臣に矢を射られて落馬した、っていうのが武士の子にしては情けなさすぎるらしい。
だから信行兄上と弟の三十郎には優しいけど、信長兄上と俺はさらっと無視されるんだよな。
そんな母上はかなりの美人だ。
そしてその美貌を受け継いだのが、市姉さまと俺だ。
だから熊は俺と市姉さまには弱いんだよ。
そういや、本能寺の変で信長兄上が殺された後、柴田勝家って秀吉と後継を争ったんじゃなかったっけ。で、市姉さまを嫁にもらえるっていうんで、後継を秀吉に譲ったって、歴史オタクの山田が言ってたような気がする。しかもその一年後に勝家は秀吉に滅ぼされて、市姉さまも一緒に自害するとかなんとか。
やばい。ダメじゃん、それ。熊はどうでもいいけど、可愛くて綺麗で優しい市姉さまが自害とかは許せん。
いや、そもそもそれを言うなら、信長兄上が死んじゃう本能寺の変を起こしちゃダメだよな。
くーっ。歴史オタクの山田の言ってたことを、オタクの知識自慢だとか笑ってないで、ちゃんと聞いてりゃ良かったなぁ。そうすればもっと歴史を色々覚えてただろうに。
歌って踊れる本能寺の変で覚えた、本能寺の変が起こるのが1582年ってことくらいしか覚えてないよ。しかも今が何年か分からんし。そもそも、この時代は西暦を使ってないしな。今は弘治元年だ。どうせなら西暦使ってくれよ。そしたら本能寺の変が何年後か正確に分かるのに。
いや、それよりも枕だ、枕。
そばがらがそばの殻だとすれば、これは結構簡単に入手できるんじゃないか!?
よし。善は急げで手配しよう。
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