第5話 うどんにダシは必要だよね 1

 転生して、織田さんちの八男になって2カ月がたちました。今になってみると、長かったような短かったような気がするな。


 とりあえず転生した利点を生かそうと考えた俺のアイデアの数々だけども。


 うん。ハゼの実もムクロジの実も、実っていうくらいだからこの季節にはほとんど落ちてなかったんだよ。だからロウソク作りも石鹸作りもまだできてない。


 それでも未練がましくロウソクを作りたかったからハゼの実を集めてもらったんだけどさ。中身がちょっとスカスカになってても、油っぽいのが取れればそれで作れるし、作れるのが分かったら今年の秋にはたくさん収穫することもできるし、って思ったんだけどな。

 とりあえず拾ってきてもらったハゼの実の油を取ろうとして、そこで挫折しちゃったんだよ。


 甘く見てたわ、戦国時代。

 油取るのをどうするのかな、って思って見てたらさ。竹筒みたいなのに入れて、棒でつついてつぶしてるんだよ。

 ちょ、おま、それじゃいつまでたっても油なんて取れないだろう! って叫ばなかった俺を、誰か褒めてください。

 当然のことながら、ロウソクにするほど油は取れなかった。ちくしょう。


 農家なアイドル五人組が出てる人気番組の「剛腕でGO」で見る限り、なんか大きなネジみたいな装置を使って圧搾してたような気がするなと思って聞いてみたけど、そんな装置はまだ発明されてないらしい。


 とりあえず俺が地面に棒で書いた装置に興味を持ってくれた信長兄上が、誰かに作らせるって言ってくれたから、そのうちなんとかなりそうだけどな。


 そうだ。装置ができたら椿油とかも絞りやすくなるんじゃないかな。いやそれよりも、油っていったら菜種油か? なんかあれは雑草みたいなもんだから、すぐ生えてきそうな気がするぞ。


 でもって、油がたくさん取れれば、テンプラが作れるんじゃないか!?

 衣……は、小麦粉か。麦も確か作ってたよな。じゃあいけるな。ん、待てよ。ツナギに卵がいるんじゃないか?


 卵かぁ。この時代って仏教で肉を食べちゃいけないって言われてるから、ほとんど肉を食べないんだよな。鶏肉も食べないから、当然卵を食べる習慣がない。完全栄養食なのにな。何が完全なのかは聞かないでくれ。俺にもよく分からん。


 そもそも肉食禁止は、仏教に基づいて昔の天武天皇って人が五畜、つまり牛、馬、犬、猿、鶏は食っちゃいかんという禁止令を出したのが原因らしい。なんでも、牛は田畑を耕すから人間の役に立ってるし、馬は人を乗せて働いて役に立ってるし、犬は番犬で役に立ってるし、鶏は時を知らせる神聖な生き物で、猿は人間に似ているから食べちゃダメだってことなんだけどね。犬と猿は食べなくていいから、あ、馬肉は俺も好きじゃないから食べなくていいけど、牛と鶏は食べてもいいことにしようよって思っちゃうよ。

 いつかは食べたい、スキヤキと親子丼。だってこの二つは、日本人のソウルフードだからね。異論は認める。


 まあ信長兄上なら、健康にいいってことが分かれば食べてもいいよって言ってくれそうではあるけどさ。

 ただ、今の勢力じゃちょっと弱いかなぁ。尾張も統一してないしな。


 今のところ、まだ信長兄上は各宗教勢力とも仲良くやってるっぽいし。別にここで坊さんたちにケンカ売ることもないから、もうちょっと大人しくしてるか。それか、こっそり食べるか。うん、そうだ、それがいい。こっそりスキヤキだな。


 そして尾張温泉も、蟹江町ってとこにあるらしいから探してもらおうと思ったんだけど、どうもその近くにあるらしい蟹江城ってとこが今年の頭に松平広忠という武将に落とされちゃったらしい。

 松平って名前からして、多分、徳川家康の身内で、そんでもって桶狭間以前の家康は今川の味方。つまり、蟹江城を取った松平広忠は今川方ということで。

 尾張温泉なのに、今川勢力とか、そりゃないよー! と暴れたくなったのも無理はないと思う。


 これはもう、沸かす風呂を開発するしかないのか!? 

 確か五右衛門風呂っていうのがあるよな。あれだとこの時代でも作れるのかな。だけど周りが鉄じゃ、浴槽に寄りかかれなくてお湯につかった気にならない。いやでも、そこまで釜は熱くならないのかもしれん。下だけ熱いとか。


 うむ。これも信長兄上に相談案件だな。


「ところで喜六郎さま、これは何を作ってらっしゃるので?」


 そういえば、信長兄上に実験を手伝う人を貸してください、ってお願いしたら、案の定、藤吉郎さんが来たよ。後の世の豊臣秀吉さんですな。足軽として働き始めたばっかりで、暇そうだからってここに寄こされたらしい。

 でも顔は猿より鼠に似てるんだよな。ちょっと前歯が出っ歯だし。


「うどんを作ろうと思ってさ」


 うどんの作り方はそんなに難しくない。小麦粉にちょっぴり塩を入れた水を入れて、練る。そして練る。ひたすら練る。力がないから足で踏んで練ってもいいんだけど、さすがに口にするものを足で踏みたくはない。

 ので、ひたすら手でこねて練る。

 俺じゃなくて藤吉郎が。


 いやだって、こういう力仕事の時の為に、猿がいるんだよね!? 力仕事とかは任せてもいいよね!


 生地をつついて、ちょっと跡が残る程度なのを確かめて練るのを止める。後はちょっと寝かせておくんだったかな。これも例の剛腕でGOで見たんだけどな。

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