第3話 織田さんちの八男になりました その2
なんて、思ってた時がありました。
確かに転生ではあるんだと思うけど、俺が転生したのはどうも織田家の六男らしい。いやだって喜六、っていうんだから六男なんだろうなぁと思うだけだけどね。
で、俺こと喜六はお伴を一人も連れずに馬で走ってたら、川で狩りしてた叔父である織田ノブツグって人の家臣でスガサイゾウって奴に、不審者ってことで弓で射られたらしい。
馬から落ちた俺を見て、ノブツグ叔父さんはそりゃもう驚いた。なんといっても主家の織田家の六男を、勘違いとはいえ射殺しちゃったんだから、当然だよね。ちなみに馬から落ちた俺は、心臓も止まってたんだって。末森に着いた時にはまた心臓が動いてたらしいから、馬の背で自然と心臓マッサージでもされてたのかね。よく分からんけど。
そんでもって死んだと思われた俺をとりあえず俺が暮らしてる末森城に運んだ後、ノブツグ叔父さんは、家長である信長の報復を恐れて籠城してるってことらしい。←イマココ
弟に怪我させたってことで末森城を治めてるノブユキ兄ちゃんは、ノブツグ叔父さんのいる守山城を焼き討ちしろと叫んでて、それを勝家、つまりノブユキ兄ちゃんの家来である柴田勝家がなだめているという状況なのだ。
いや、まあいいんだけどさ。俺、一応けが人なのよ。肩も痛いし、頭も痛いし。だから枕元で二人で怒鳴りあわないでくれないかなぁ。
そんな俺の願いは、ある意味かなえられたけど、更に状況はひどくなった。
体が起こせないからよく分からんけど、パーンと襖だか障子だかが一気に開け放たれた音がしたと思ったら、ドシドシと畳を踏む音がして、ヌゥっとそのまま俺を見下ろした男がいた。あの、頭のてっぺんがハゲてるチョンマゲじゃなくて、バカ殿みたいなチョンマゲの男だ。でもその顔はバカ殿とは似ても似つかない。鷹のような目とでも言うんだろうか。眼光が鋭く、威圧感に満ちていた。
「兄上!」
「殿!」
うん。それでもうこの男が誰だか分かっちゃうよね。
馬を飛ばして駆けつけてきた、家長の織田信長が到着したのだ。
さすが戦国時代最大のヒーロー、織田信長さんだ。マジでパネェ威圧感だぜ。
しかも信じられないことに、転生? した俺のお兄様である。
いや、もしかしたら、これって現実じゃなくて長い長い夢を見てるだけかもしれんけど。夢だとしたら、起きても覚えてるといいんだけどな。こんなにリアルな夢なんて、そうそう見れないだろうしな。
「喜六郎。供回りの一人もつけずに、なぜ松川へ行った」
なぜって言われてもな。目が覚めるまでの記憶がないんだよな。記憶喪失なんです、って言ったら、赦してくれるかな。
「答えよ、喜六郎!」
ビリビリと辺りが震えるほどの声に、まだズキズキしてる頭が更に痛みを訴える。思わず顔をしかめると、俺を庇うようにノブユキ兄ちゃんが俺の顔の前に左手をかざした。
うわぁ。この激おこ状態の信長サマに立ち向かえるって、ノブユキ兄ちゃんは勇者だな。
「兄上。喜六は先ほど意識を取り戻したばかりです。そのように無体はなさらないでくだされ」
「喜六は幼いといえども織田の者だぞ。お主のように甘やかしていては、立派な男にはなれん」
「それよりも守山の焼き討ちを命じてください。誤射であったとはいえ、喜六を殺そうとした罪、許せませぬ」
いきり立つノブユキ兄ちゃんに、信長サマは眉間に皺を寄せた。
「……ならぬ」
「は? 今なんと」
「焼き討ちはならぬ、と言った」
「ではこのまま許すということですか!? でも、それでは道理が通りません!」
「喜六を射た洲賀才蔵は斬首及び一族も追放とするが、信次叔父はしばしの謹慎とする」
「そのように甘い仕置きでは、織田家が侮られます!」
「しかし、こたびの件は喜六にも責がある。焼き討ちまでしては、後の禍根になろう」
「しかし―――!」
「こらえよ、信行。わしも思う所がないではないが、大和守を討ったばかりで、まだ領内が落ち着いたとはとても言えぬ。ここで家中を割る事にでもなれば、これ幸いと仕掛けてくる者がいよう」
「ですが―――」
そのまま兄弟喧嘩が勃発しそうな勢いに、俺は慌てて口をはさんだ。
ケンカをやめてー。俺の為に争わないでー。
「ノブユキ兄上、兄上のおっしゃる通りです。私にも悪い所がありました。それに幸い、命は助かったのです。これ以上の争いは避けたく思います」
なんかボーイソプラノの声で喋ってるな、俺。
それに敬語とか使い慣れてないんだけど、こんな感じでいいのかね。お兄さんズは普通に聞いてるからいいんだろうな、きっと。
あと、信長サマってなんて呼べばいいんだろうね。柴田勝家が勝家で、ノブユキ兄ちゃんも多分、織田ノブなんとか、って名前だろうから、多分通称で呼んでるっぽいんだけど、信長の通称ってなんだっけ。あ、あれだ、三郎信長。ってことは三郎兄上って呼んでればいいのかな。
「それからスガなにがしも、家族までは罪に問わないでください。本人も斬首ではなく―――」
と、言いかけたところで、ノブユキ兄ちゃんが凄い顔で振り返ったから諦めた。
ああ、うん。これ以上の減刑は無理ぽ、ってことね。
「喜六の心根が優しいことは知っておるが、それはならぬ。本来は威嚇するだけで良かったのを肩に当てたのだからな。当たり所が悪ければ死んでいるところだった。喜六と知っておりながら、翻意をもって射たのだと言われても仕方がないことなのだぞ」
「分かりました。ではすべて兄上たちにお任せします」
そう言うと、どっと疲れが全身を襲った。
いやもう、夢なら夢で覚めて欲しいんだけどな。そうでないとしたら……この先、どうなるんだろうな。
「薬湯を用意させた。それを飲んでゆっくり養生するといい」
眉間の皺を緩めた信長サマが、いつの間にかノブユキ兄ちゃんの反対側に陣取って俺の顔を心配そうに覗きこんでいた。
これはあれだな。ツンデレってやつだな、きっと。
俺はにこっと信長サマに笑ってみせると、そのまままた気絶するように眠った。
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