第31話 「最弱はピンクよ!」
「ええい、くそ! どうなっても知らないぞ!!」
イエローは手近にあったベンチの残骸を持ち上げる。
……それ、投げられるんだ。かなり大きいんだけど。
ちょっと予想外。ぶつかると洒落にならないと思うが、今更止めようもない。
「グリーン、回路を外すために回り込んでくれ。定番だとは思うが、首の後ろあたりが怪しい」
「了解」
うん、ちょっと声に張りがないけど、いつも通り言えばいつも通りか。
「ブルー、ピンクは僕と行くぞ。イエローが投げたアレに触手がからみついた瞬間をねらって押さえ込むんだ」
「え、ええ? 僕もですか?」
「贅沢言うな! イエローは残りの触手を引きつけるための囮になるんだぞ!」
「おい! 聞いてないぞ!」
「その役目、私がやりたかった……」
マジな戦いのさなかでは、個人の意見が殴殺されることままあるものだ。
……だけど役割的に確かに適材適所とは言い難いな。
「よし、じゃあ途中でブルーとイエローは交代してくれ。ブルーはイエローがこっちに来てから囮役だ。順番間違えるなよ」
「承知!」
「了解だ!」
「僕は!?」
うるさい。お前の意見は殴殺だ。
段取りが決まったところで、一斉に動き出すエクレンジャー。
周りの観客もヒートアップする。
久保田投手の投入タイミングで話が合わないクラスメイト、木村の姿も見える。あの暇人め。
まずは三人で恐怖に青ざめているジェネラル・ストーンに突進。
その背後から、ものすごい風切り音。駆け寄る僕たち三人の頭上を飛び越えて、ベンチの残骸が飛んでいく。
このスーツに、パワーアシスト機能はついてなかったよな?
そして僕の想像よりも早く、素早く触手が反応した。
ざっと数えて五本以上――恐らく五本。
ジェネラル・ストーンめがけて飛んでいくベンチの残骸めがけて、触手がそれを横からさらおうと伸びてくる。
あの触手、ロボット三原則に準じて作られてるんじゃ無かろうか?
視界の端でグリーンが回り込んでいることも確認。ついでに足音が減っていないことも確認。
身体能力の高いブルーが、触手のからみついたベンチの残骸にすでに手を掛けていた。
僕とピンクもそれに続く。
そして、ほとんどタックルする勢いで触手にのしかかって、厄介な現実が理解できた。
この触手パワーが半端無い!
2.5人でのしかかっているのに、それでも暴れようとする。
「よし、俺も組み付いた!」
という掛け声と同時に負担がグンと軽くなる。
さすがのイエローだ。
「よし、ここは任せたぞ」
ブルーが離脱して、負担はまた増えるが、イエローがいる分さほどのこともない。
残った触手は……三本。ということは合計で八本か。
蛸と言いたくなるのもわかるが、驚くべきはその触手を制御しているあの回路の方だな。
素人の僕でもわかるぞ。
いったい、どれだけの性能を秘めていると言うのだろう?
石上教授がとりつかれるのもわかる気がする。
「おのれ、エクレンジャー猪口才な!!」
レディ・ニュクスが思い通りにならない触手に苦しみながら、ブルーの動きに悪態をついている。
うん。やたらに難しい日本語使うのも正しい悪役のつとめだね。
それに引き替え石上教授――いやさ、ジェネラル・ストーン。
もう少し何か動いてくれないものか。まぁ、これで最終回だから良いし、どちらかというと有能でない方が生き残るのも、これまたパターンだから良いか。
これで確かに、触手は引きつけることが出来た。三本も相手にして、引けを取らないブルーの動きには、ほとほと感心させられるけど、問題はグリーンだ。
今までは怪人を完全に無力化した状態で、回路を外していたけど、今のレディ・ニュクス自身は抵抗することが可能なのだ。
つまりグリーンは、ここに来て初めて“事後処理”ではなくて“戦闘”をしなければならなくなる。
今の状態のグリーン――緑陸で大丈夫か?
いや……大丈夫にしてみせる!!
『天に輝く戦いの赤い星!! エクレッド!!』
まったくもって格好がつかない状況で、僕は突然名乗りを上げた。
もちろん打ち合わせにはない行動だ。
だが、ここで緑陸にグリーンとしての、エクレンジャーとしての自覚を強力に動かせるなら――これしかない。
僕はマスク越しの強い視線を、華麗に触手をかわし続けるブルーへと送る。
次にブルーが名乗らないと、この強引な流れが形成できない。
今までで最大級の無茶ぶりだが、きっとブルーは――青鹿先輩は応えてくれる。
そんな願いを込めた僕の視線の先で、ブルーは迫り来る触手を鋭すぎる手刀をひらめかせることで迎撃していた。
そして、同時に二本の触手をたたき落とし、残る一本をトンボ返りをしてはじき返す。
ええい、黄色い声援がうるさいぞ!
そして着地の瞬間、ブルーはやってくれた。
『いかに悪の激流が激しくとも、青き流れは断ち切れぬ!! エクブルー!!!』
こうなればこっちのものだ。
後の二人は僕の近くにいる、蹴っ飛ばしてでも名乗りを続けさせてやる。
そして実際、黄涯――イエローを蹴飛ばし名乗りを続けさせた。
今まででどんなときよりも、みっともない格好をしている状態でだ。
『たとえこの身体は黄色い土に汚れようとも、正義の心は汚されぬ!! エクイエロー!!!』
ナイスアドリブだ!
さすがに親父さんの息子!
次のピンクは……
あ、この野郎触手を放して一人だけ立ってやがる。
そのくせ、こっちの負担が一向に増えたように感じないのは、男としてどうなんだ桃生――いや、エクピンク!
『戦いのない、桃色の花が咲き乱れる世界こそが私の望み!! エクピンク!!!』
ンッキャーーーーーーーー!!!!
声が固形物となって、襲いかかってきた。
あのバカの女達か。
あいつが考えている桃の花のイメージを、この場で具現化してやりたいが――とにもかくにもこれでグリーンへの道はできあがったぞ。
さぁ、グリーン――いや、緑陸!
何を悩んでいるのかは知らないが、今ここで躊躇いを捨てろ。
これはお前がやり出したことでもあるんだぞ!
エクレンジャーのメンバーも、この場の観客も、そして秘密結社ニュクスの面々でさえ、次はグリーンの順番であることを知っている。
自然、全員の視線がグリーンへと向けられる。
よし、これでグリーンのエピソード回だと後付も出来る。
『わ、若葉の……』
ついにグリーンが名乗りをはじめた。
『若葉の頃の緑の思い出を守るため。――エクグリーン!』
……よし、これでいける。
「グリーン、回路を戦ってもぎ取るんだ!」
言わずもがなのことを周囲に宣言して、さらにグリーンの行動を束縛する。
あとで恨まれるかもしれないが、それもリーダーの役目のウチだ。
僕のその指示にグリーンは確かにうなずくと、レディ・ニュクス――岸田夜子に背後から組み付いた。
「おのれグリーン! 最弱の貴様が生意気な!!」
「最弱はピンクよ!」
お、調子が戻ってきたな。
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