第30話 ……きっと大丈夫だ!

 携帯の呼び出し音が響いたのが午後九時。


 僕がエクレンジャーになってから、二回目の夜出動だ。そしてこれが最後となるだろう。


 すでに、思いついたようにフラッと夜に外に出たところで無用な心配を掛けるような年齢でもないし、治安の悪い街でもない。


「ちょっと出てくる」


 と、それだけ声を掛けて家を出た。


 前に住んでた場所なら、五分も歩けばコンビニにたどり着ける立地条件だったが、ここではそうはいかない。


 色々合わせて、多少遅くなってもさほど心配はしないだろう。

 僕の両親の暢気さなら、もしかしたら先に寝てるかもしれない。


 ……よし。


 全力での気休め終わり。


 そうやって気合いを込めて家を出たところで、気合いがこもりまくった軽自動車に轢かれそうになった。


 な、何事!?


「赤月君! 乗れ!!」


 か、管多さん? 


「この日の担当が本当に僕で良かった。さぁ、今から青鹿邸に向かうぞ」


 この有無を言わせぬ迫力。何だかわからないが従っておいた方が良い。


 もたもたと助手席に乗り込むと、免許を持っていない僕でも明らかに危険を感じる速度で車がはじけ飛んでいく。


 凄いGだ! 


 ……こんな台詞実際に使うことになるなんて。


「当番って何ですか!?」


 僕は怒鳴り声で尋ねる。


 よくわからないことばかりだが、そこのところをはっきりしておかないと、管多さんにストーカー容疑を掛けねばならなくなる。


「ゴンのマスターが独自に組織した、少年エクレッド隊での当番だ。少年エクレッド隊とは、エクレンジャーの援護組織。エクレンジャーの使命を影ながらサポートするのがその使命だ!」


 意味はわかるけど、日本語をしゃべっていると思えないのは何故だろう?


 しかし、これで謎はおおかた解けた。


 黄涯のところにも当然連絡は行っているだろうから、この迅速さは一応納得できるとしておこう。

 そうだ、そうしよう。


 そしてそれ以上質問するのはやめた。


 まだ続いていた管多さんの説明を聞けば聞くほど。不穏当な単語がどんどん出てくる。


 それに、いったい何だ? 少年エクレッド隊というのは。


「なぁ、赤月君。レッドに伝えてくれないか? レディ・ニュクスを倒したらその時は、正体を明かして欲しい、と」


 何だか開けてはいけない扉が開きかかっているようじゃないですか、管多さん。

 だけど締めのシーンとして、全員が素顔をさらすのは悪くないな。


 僕が言うのも何だけど――どうせ正体はバレバレなんだから。


「そうですね。レッドに伝えておきましょう」

「おお、そうか!」


 管多さん達にも随分助けられたし、これぐらいのお願いは聞いてあげてもバチは当たらないと思う。それに確かに妙案に思えてきた。


 正体を明かさない事、という縛りを自ら破ることで終結宣言にもなるしね。


「よし、ではさらに飛ばすぞ!」


 これで捕まると、今日は最終回を迎えられそうにないわけだけど、無事に青鹿邸に辿り着き、そこから引き返して鐘星高校へ。


 結局、着替え場所をもっとフレキシブルにする案は通らなかった。


 そしてそこからは、管多さんの助けはいらない――というより借りられない。


 レディ・ニュクスが最後の部隊として選んだのは定番のあの場所。


 大学構内中央の広場。


 最後の最後に走って現場到着も、またエクレンジャーらしい。


「よし、行くぞみんな!」


 更衣室を出て、一同が揃ったところで“らしい”気合いを入れてみる。すでに、終わった後にマスクを取るアイデアは話してあって、それも了承を得られた。


 最後の武器は特殊弾頭がセットされた上で、現場近くにすでに運ばれていることは確認済みだ。


 ――手配をしてくれた城山先生も結局最後まで付き合うことになったか。


 確かに、ここまで来たのに最後の一戦だけ蚊帳の外じゃ、ひどすぎる話だしな。


 それと問題なのが、三津佐大学だ。


 この夜中に、しかも試験中であるのに、限定的ではあるが広場付近を解放してしまったらしい。


 それに加えて、大学に泊まり込むような先生達までが悪のりして、現場は人だかり、そして広場もライトでショーアップされて、さながら舞台と化しているという報告も来ている。


 だが、それでも――


 正義の味方は行かねばならぬ!


 僕は先頭を切って走り出し、その背後に続く四人の足音を背中に感じていた。


                 ☆


 夜の闇に包まれた長い林道を抜け、視界が開けた大学の構内へ。


 そして目印代わりになってしまう、光の差す方向――おなじみの広場へと向かう。


 ほとんど習慣と化している行動になっているので、夜であっても行動に支障はない。それはつまり広場での戦闘でも問題ないということだ。


 そして、何だか人が鈴なりになっているのが、闇の中でもわかる渡り廊下のアーチをくぐり抜けると――


 ひどい破壊工作が行われていた。


 ジェネラル・ストーンはただ呆然と立ちつくしている。


 ひどいのはレディ・ニュクスだ。


 あの羽織った学ラン状の何かの下から数えるのがイヤになるほどの触手がうねうねと荒ぶっている。


 その触手が広場にある、ゴミ箱やベンチを片っ端からひっつかんでは振り回し、投げつけ――本物の戦隊ものでもなかなか見ないぞ、というぐらいの惨状を作り出していた。


「せ、先輩! 洒落になりませんよ! あれ!」


 まったく同感だが、ここまでヒーローの美学を貫いてきたのに、回れ右で逃げ出したら話がおかしいだろ。


「わーっはっはっはっは!! 恐れ戦いたかエクレンジャー!!」


 いつかも聞いたこのフレーズ。

 地味にレディ・ニュクスのお気に入りなんだろう。


「我がオクトパス・テンタクルの凄まじさをとくと見よ!」


 ……オクトパス・テンタクル?


 それって……


「バカなの? それそのまま直訳したら単純に『蛸の触手』じゃない。英語で言えば何でも格好良いと思ってるの?」


 あ。


 グリーンが突っ込んでしまった。


「ば、バカとか言うな! ヒーローのくせに!!」


 駄々っ子だ。ひどい駄々っ子がいる。


 だがまぁ、ネーミングセンスは性能と関係ない。


 おおかた、クイーン・キャッスルの鞭改造から単純に思いついただけの代物だろうけど、数が多い分だけ非常に厄介だぞ。


 戦いは数だ、という格言もある。


「レッド、どうする? 前みたいな手は使えないぞ」


 さすがにブルーは鋭い。


 一人一本で触手を担当しても、他の触手が自由であれば回路を取り外すところまではもっていけない。

 つまり触手をまとめてしまえば良いんだが……


「ピンク、世の中に必要なのは女性と男性どっちだ?」

「女の子ですね!」

「では仕方がない。イエロー、投げることが可能で出来るだけ大きいものを――」


 僕はビシッと目標を指さした。


「――ジェネラル・ストーンに向かって投げつけろ!」


 レディ・ニュクスに向かって投げれば間違いないとは思うが、万が一の可能性がある。ここは男性に危険を引き受けてもらおう。


「いや、だってそれは……」


 躊躇するイエローに、僕はさらに言葉を重ねた。


「何を迷うイエロー。奴は悪の秘密結社の大幹部ジェネラル・ストーンだぞ! 今ここで僕たちが躊躇っていては、誰が地球の平和を守るんだ!!」


 要は、相手は悪役やってるんだから気にするな、ということである。


 問題は触手を動かしている回路が、ジェネラル・ストーンを仲間認定しているのか、という問題だけなんだが、あの触手の竜巻の中で被害に遭っていないのだから……きっと大丈夫だ!

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