第26話 長い間お疲れ様でした~~~!!!
「「「長い間お疲れ様でした~~~!!!」」」
ゴンに集まった客から一斉に慰労の言葉。そして、
パン! パパン!
と、打ち鳴らされるクラッカーの破裂音。
パチパチパチパチと、雨音のように鳴り響く拍手。
そんな音の洪水が一斉に今日の主役――クイーン・キャッスルこと、城山先生に襲いかかった。
今日の戦いで、城山先生の出番は終わり。
そこで打ち上げをしよういう話が――どこから持ち上がったんだったかな?
今、店の中で主役を差し置いて大盛り上がりしている、あの濃い集団から出てきたことは間違いないとは思うけど。
穿った見方をすれば、そういう裏方の楽しみをやってみたかったという、そんな下心もあったかもしれない。
だけど――なかなか良い企画だよね。
エクレンジャーの全員には無理矢理出席させた。
石上教授には金を出させた。
もちろん、岸田さんもいる。
料理は、親父さんと有沢さんが腕によりを掛けてくれた。
「う、うわ、ちょっと面倒だと思ってたけど、これは凄いわね――ありがとう、と言っておくわ」
バラの花束を受け取りながら、城山先生が本音混じりの言葉を漏らす。
実際そんなものだろうね。
「ま、こいつらは騒ぎたいだけの連中だから。面倒になったら適当なところで切り上げればいいですよ。ウチの料理だけは楽しんでいってください」
さすがに親父さんは如才がない。
僕もそろそろ挨拶しておこう。
城山先生は、岸田さんと緑陸の側の席に腰掛けている。
この面子の中では無難で、仕方のないところだろう。
そこで城山先生から、僕に向けて一言発せられた。
「来たわね、この悪党」
現役の正義の味方に何という言い種だろうか。
「おかげで、あのバカ騒ぎから抜け出られたわ。ありがとう」
おかしいな。今のつなぎ方日本語として正解か?
とにもかくも差し出された右手を握りしめて今日の――そして今までの――健闘を称える。その感情に偽りはない。
「確かに、赤月は悪党だ」
そこに割り込んできたのは黄涯だった。
こいつには――言われても仕方がないか。ただ世の中には便利な言葉があるだろ。
嘘も方便、って。
多分、使い方間違っていると思うけど。
しかし、悪党悪党と言われて、それを黙って受け入れているのはどうだろう?
さすがにまずい気がしたので、ちょっと抗弁を試みることにした。
「とんだ濡れ衣だ。僕は普通に皆と話をして、それで出来るだけそれを生かして、言われたことをやり遂げようとしているだけだ。どこに“悪”の要素がある?」
「そうやって、自分の行いから巧妙に“悪”を隠蔽するところでしょ」
緑陸が混ぜっ返してきた。
「具体的に言ってくれないか?」
「それをさせないようにしているから、悪党なのよ」
ええい、なんと可愛げのない。
とか思っていたら、拍手の音が聞こえてきた。
黄涯が拍手をしていやがる。それだけではなく青鹿先輩に桃生まで。
「良いじゃないですか先輩。無能な善人よりは、有能な悪党の方が良いですよ。女の人はそういうのに弱いですから、コロッといけます」
桃生の日本語はいつもおかしい。
「色々同意できない部分はあるが、赤月が有能であることは疑いようのないところだ」
先輩そんなこと笑顔で言われたら、また無茶ぶりの要求かと思うじゃないですか。
「おお、我らがレッドに乾杯だ!」
勝手に盛り上がっていた濃い人達が音頭を取るが、そんなことされたら、僕の出来ることは一つしか無くなってしまう。
「いいですね。僕もレッドに乾杯しましょう」
「お前、ぶれないなぁ」
黄涯があきれ果てたように言うが、僕は言われたことは守るのだ。
その時、こらえきれないというようにくすくすと笑い声が聞こえてくる。
何事かと思えば、岸田さんが笑っていた。
「ごめんなさい。赤月君って、そういう人なのね」
そういう人も何も、人として真っ当なことしかしていませんが。後ろで桃生が「コロッとコロッと」いってるが、それは気にしない方向で。
それよりも、濃い人達がそろそろ気付きはじめるな。
レディ・ニュクスがここにいることに。
もっとも、ただの慰労でここに来ていると考えているのかもしれないけど。
さて、どうするか……
「とにかくレッドに乾杯よね。誰が音頭を取るの?」
「普通、主賓はしないわね」
「よし、俺に任せろ!」
料理は良いんですか、親父さん。
だけど、その乾杯の合図がレディ・ニュクスの正体がばれようとしていた雰囲気までも吹き飛ばしてしまった。
そしてそれを合図に店内は混沌と化した。
――いや、僕は未成年ですからね。
それだけは主張しておかないと。
☆
さて最終回までの話数をどうしようか、というところは悩みどころではあるんだよね。
戦隊ものの美学に則れば、このまま最終回という展開は余りよろしくはない。
一本か二本は、間を取るべきだろうけど現実的な問題として、夏休みが近い。
ちなみに期末考査は終わってる。結果はまだ出ていない。
どうせ終わるのなら、まだ学校に出かける用事が残っている――実際は試験休みだけど、終業式はあるからね――間に片付けてしまいたいと思うのも人情だ。
そこまではわかるんだけどね。この事態は予測してなかった。
「どうするんだ、リーダー」
僕にそのあたりの判断を丸投げにしてくるとは。
あの打ち上げから三日ほど経過している。
夏の日差しから逃げ込むように転がり込んだのは、やっぱりゴンで、何故学校の近くに来ていたかというと……職業病というのも変だし、ヒーロー病と言うべきなのか。
急な出動要請に対応できるのはやっぱり学校の近くなので、どうしても足が向いてしまうのだ。
ここに来れば黄涯に捕まることもわかってはいたんだけどね。
それはそれで暇つぶしになるかと思っていたが、黄涯は店の手伝いで忙しいらしい。なにしろ周りには必死でノートのコピーをやりとりしている大学生が一杯で、中にはここで勉強道具一式広げている人までいる。
そんなに大きな店でもないし、ファミレスじゃないんだからさ。
……とはもちろん言わないけど、そんなに居心地はよくないね。
そんな中、注文のクリームソーダを持ってきた黄涯の台詞が例の丸投げだったわけだ。
「少しは考えてくれ」
不機嫌である事を隠そうとしないで僕が文句を言うと、黄涯は椅子を引っ張ってきて座り込んでしまった。
こいつの就業態度はこれで良いのか?
「考えるにしても、俺達には材料がないんだ。どうなんだ? すぐにも最終回出来そうなのか?」
「一応その準備はしてある――すぐに最終回の方が良いのか?」
「お前は夏休み前に終わらせたくないのかよ?」
「それは、たまたまそうなっただけの話だから。そこで欲をかくのは、何か間違っているような気がする」
「気分の問題だけか?」
「いや。実際のところレディ・ニュクスの発明がどうなるかよくわからないんだ。あの鞭は完全にアドリブだったろ?」
「そういえば……そうだな」
よかった。これで、少しは考えてくれるだろう。
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