第五章 終わりの始まりの終わり
第25話 謂わば、終わりの始まりですね。
突然ですが、いきなりクライマックスです。
何しろ今日はクイーン・キャッスルが殉職――殉職なのか?――する、いよいよ戦隊ものの末期症状が始まるエピソードが消化予定ですから。
謂わば、終わりの始まりですね。
先だってのエピソードで、レディ・ニュクスへの叛意を露わにしてしまったクイーン・キャッスル。その後も陰に日向にと策謀を巡らせるが、ついにジェネラル・ストーンと結託しての反乱を決意。
だが忠誠心厚いジェネラル・ストーンはそれを拒否。
かくして反逆者となったクイーン・キャッスルはレディ・ニュクスの手によって心奪われ、怪人に仕立てられ、最強最悪の怪人となってエクレンジャーの前に立ちはだかる!
……大体こんな感じ~~
というわけで、いつにもまして秘密結社との盛んな交流がありまして、今日はかつてなかった秘密結社二大幹部のそろい踏みです。場所は鐘星高校の校舎裏。
レディ・ニュクスとジェネラル・ストーンは変わらぬ出で立ちだけど、クイーン・キャッスルは設定の都合上、同じ格好というわけにはいかない。
身体の線も露わな、全身真っ黒なスーツ。
武器の鞭は右手に融合して――独りでにうにゅうにょと蠢いている。
どんな姿になるのかは、完全にレディ・ニュクス任せで、秘密だとまで言われてしまったが、これは岸田准教授とレディ・ニュクスの合作なのではないだろうか?
あの鞭が、どこからどう見ても今までの怪人の手足の動きにそっくりすぎる。岸田さんの知識がより有効に活用されているとしか思えない。
これは……
「おいレッド。単純に考えて、あれはマジで強敵じゃないか?」
イエローのくせに生意気な。
その可能性に気付くとは。
「恐れ戦いたかエクレンジャーども!!」
学ランのような上着を翻して、レディ・ニュクスは宣言する。
「この不出来な部下に罰を与えようと、無理矢理改造してやったが、思わぬ成果でなぁ。最初から幹部どもを改造しておいた方が手間が省けたかもしれん!!」
うわ~~~。
ド悪役の台詞。
いや、石上教授。それぐらいのアドリブで本気でびびらないでくださいよ。
「ブルー、まずはお前が当たれ!!」
ボーッと向き合っていても仕方がないので、リーダーとして非情の決断をしてみる。
「レッド! それはあまりに無茶な……」
「いや、僕に任せてくれ」
イエローが上げた非難の声を、ブルー自身が制する。
ブルーにとってはこれ以上ないご褒美でもあるからなぁ。
ブルーは、えいやっとジャンプして改造クイーン・キャッスルへと向かっていく。
「……先輩、この辺打ち合わせしなかったんですか?」
ピンクが僕を非難する声音で尋ねてきた。
「この場合、悪いのは向こうだ。アドリブであんな怪人作り出すなんてことありえるか、普通?」
「で、ブルーを犠牲にするわけ?」
「このスーツがあれば、とりあえず怪我はないだろ。そうなると怖いのは絡みつきからの――」
と言った先から、ブルーが鞭に絡まれて、そのまま地面に二度三度と叩きつけられている。
「――ああいう攻撃だ。打撃は止まるけれど僕たちは力が強くなるわけじゃないからな。ああなると無力だ。そこで登場するのが……」
「俺か……」
「そうなるね。頑張って相手の動きを止めてくれ。動きさえ止めてくれれば、ブルーも協力してくれるだろう」
「了解、リーダー」
さすがにここまで戦っていると、リーダーの威光も浸透してくるというものだ。
「僕はどうしますか?」
何だか最近、女遊びよりも、ますますこの使命の方に比重を置いているらしいピンクから、積極的な申し出。
困ったな。
僕、積極的な人、扱いにくくて苦手なんだけど。
「それじゃあ、例の新兵器の準備を。戦隊ものの兵器といえばピンクが準備するのが伝統らしいから」
「そうでしたか?」
「そうじゃなくても、何かしたいんだろ? 今のところそれしかないぞ。それともレディ・ニュクスとジェネラル・ストーンに喧嘩を売って、戦火を拡大して派手な絵面を作ってみるか?」
「ピンク、粛々と新兵器の準備に入ります」
ピンクはそう言うと、敬礼までして校舎の向こうに消えた。あそこに新兵器がスタンバッているはずだ。
「――私は?」
「いつもと同じだよ。あれだけ鞭が自在に動くんだから、どこかにあの回路があるはずだ。二人が動きを止めたら、いつもの手筈で」
緑陸の問いかけには、簡単に応じておく。
で、いつも通り僕にはやることがない。
おや、あの鞭は二人がかりでも手こずるようだな――っていうか、明らかに城山先生が調子に乗っている。
ブルーを拘束していたはずの鞭はすでに自由を回復し、縦横無尽に空間を制圧していた。これはピンクを行かせた方がよかったかな。
「僕も行って抑える。グリーンはピンクを手伝ってくれ。あいつは非力だ」
「仲が良いわね」
どういう解釈したら、そういうことになるのかじっくりと聞いてみたかったが、真面目なグリーンは早々にピンクの元へと向かってしまった。
そうなると僕も言った手前、あの戦いに参戦しなければならない。
どうにかこうにか覚悟を決めて、鞭の先端が嵐のごとく吹き荒れる空間に走り込む。
ええい!
なんだって、鞭を放してしまったんだ。
とりあえずリーダーらしく、身体を張って受け止めて鞭の嵐を止める。
「今だ!! 押さえ込め!!」
もはやヒーローらしい演技をしている自覚はないが、自然とあふれ出てしまうそんな台詞。僕の言葉に自然に反応するブルーとイエローもこなれてきたね。
クイーン・キャッスルの武器は鞭だけだ。
これを僕が封じて、ブルーとイエローはクイーン・キャッスルの両腕を押さえ込んでしまえば、効果的かつそれほどセクハラでもない。
二人だと最初から無理ゲーだったのかもしれない。
そのまま、しばらくは押し合い引き合いの状態が続くが、もちろんエクレンジャーには反撃の手段がある。
僕たちが膠着状態なのを見て取ったグリーンが、素早くクイーン・キャッスルの右腕に近寄り、そのまま例の回路を外す。
とたんに鞭から力が抜け、僕は解放された。
よしこれで、ピンクの持つ新兵器のところまでいける。
「とどめだ! クイーン・キャッスル!!」
もちろん仲間への合図も忘れない。
何しろ今度の新兵器は、男衆三人が――一人は計算に入れない――反動を殺さないと、そもそもまっすぐ飛ばない。
そうです。
新兵器は五人が抱え込んでぶっ放す、戦隊ものの定番のあれです。
……実のところは、ペットボトルロケットを真横に吹っ飛ばすだけ。
もちろん、それで的に当てようというところまで高望みはしていない。
発射してから数秒後に自爆して、周囲に強烈な光をばらまく造りになっている。
その秒数を距離で覚えている僕たちは、クイーン・キャッスルに銃口を向けた。ビニールパイプ製の銃身はかなり長いが軽く、その代わり基幹部分は結構なギミックが積んであって、なかなかに重い。
もっともこの重さが、発射の時の反動を殺してくれる役目も負っている。
「ゴーグル、セットオン!」
少し前からマスクに実装されていたギミック、遮光用のゴーグルを下ろす。
こればっかりは、格好をつけるためではなくマジで必要だから。
「エクレンランチャー!!」
とりあえず武器名を叫んでおく。
「標準セット!」
「バレル固定!」
「アンカーセット」
「エネルギー充填完了!」
次々と仲間達から声が上がる。ランチャーの真後ろで構えていた僕は叫ぶ。
「エクレンランチャー、エクストリーム……」
「「「「シューーート!!!」」」」」
五人の声が揃い、ペットボトルロケットが水しぶきをまき散らしながらすっ飛んでいく。
そして次の瞬間には強烈な光を発して大爆発。
もはや、スタングレネードと大差がない代物だ。
恐るべし、暇をもてあました大学の研究室。
その閃光の中でクイーン・キャッスルは姿をくらます予定だ。
もちろんそれだけでは、倒された感がないので、そのための仕掛けもある。
『うぎゃあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ』
何という断末魔。
城山先生、渾身の叫び――の録音である。
この音声もまたペットボトルに仕掛けられた細工の一つだ。
これで結構な額の電子機器が逝ってしまわれた。運が良ければ回収できるらしいけど。
やがて閃光も収まり、後はペットボトルの残骸が残るだけというシュールな光景ができあがるわけだが、それだと倒した感が希薄だ。
そこで掟破りながら、今回はこんな手法を選択してみる。
「ならぬ命を天へと還す! 我ら遊奉戦隊!!」
いきなりの名乗り上げ。もちろん打ち合わせ済みなので、仲間達も戸惑うことはない。
「エクレンジャー!!」
謂わばここで戦闘開始にしたわけだ。
僕はそこで、斜に構えてレディ・ニュクスとジェネラル・ストーンに指を突きつける。
「さぁ、大幹部クイーン・キャッスルは倒したぞ! 次は貴様達の番だ!!」
「くっ!」
言霊という考え方が日本にはあってですね。
端的に言うと、言った者勝ちの世界です。はい。
「首領、ここはいったん引くべきです。我々の今の本来の目的はクイーン・キャッスルへの懲罰でした。エクレンジャーがそれを為したのであれば、我々にもう用はないはずです」
「おお、さすがはジェネラル。よくぞ言った。お主こそが我の真の忠臣。よい。ここは引き上げようぞ!」
お見事です、石上教授。
練習では噛み噛みだったからなぁ。今回がうまくいったのなら、あのコスプレによる精神の高揚というものが確かにあるのかもしれない。
が、とにかくエクレンジャーは大きなイベントをクリアした。
別な言い方をすれば――
――これで後戻りは出来なくなったというわけだ。
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