第四章 あるはずない現在
第19話 これは直談判だ
ここで残念なお知らせがあります。
えーーーーー……
躊躇っていても仕方ない。
先に重荷を降ろしてしまおう。
イエローのエピソードですが――全カットで。
いやね。消化したことは消化したんだけどね。
でも考えてみてもらいたい。だいぶん前からこのエピソードは“消化”扱いされてたんだから、ここに来てぐだぐだと説明するのも、なんだと思うんだよね。
あらすじだけは一応説明しておくと、ある店の味に惚れ込んだ女の人が、その店で修行したいと決意する。
それを助けようとするイエローの奮戦記……という態を用いることにした。
黄涯は嫌がったけど、親父さん感涙だったなぁ。
所詮戦闘シーンしかないエクレンジャーの活動だけど、現場には出てきてもらったし。
ここで、ちょっと僕からの種明かしをしておこう。
黄涯があれほどに店の跡を継ぎたいと考えている理由。
もちろん、親父さんの味を守りたいと思う気持ちがあることまで嘘だとは思っていない。当然それもあるだろう。けれど、その想いの何%かは多分、
「早く一人前になりたい」
という想いがあるんじゃないかと思うんだよね。
一人前になって、一人の男として有沢さんに認めてもらいたい――そういう焦りの気持ちがあるんじゃないかと。
黄涯の望む未来は、自分が店を継いで有沢さんと一緒になって……という感じゃないかと。
でも。
だからといって、有沢さんの修行が進むことを嫌がるのは間違ってると思うんだよね。
有沢さんは有沢さんで、自分で選んでこの道に入り修行して、親父さんも真面目に――多分――指導しているんだし。
本当に有沢さんのことを思うなら、ちゃんと応援して、それをクリアしてからの話だと思うわけだよ、僕は。
そんなわけで、そういう態である風を装いました。
もちろん戦闘前にそういうシーンをわざわざやったわけではないけれど、台詞で大体察することが出来るからね。
僕からはそれ以上何か言うこともなかったし、端から見れば黄涯の家業を利用しただけのエピソードに見えるだろう。
しかし、このエピソードが後から見返してみれば、実は深い意味があったということを――誰かが気付くと良いな。
☆
では、今から話すエピソードは何かというと、はばかりながらレッド――つまり僕のエピソードだ。
これは企画、脚本、演出と全部に城山先生の手が入っている。
自分でそれやっちゃうと自作自演になるし、これは本当に助かった。自分がやらなければならない場合を想像してみると――イタイし、引く。
さてと、まずは運だよりになるんだけど、都合の良い戦闘場所が選ばれるまで待たなければならない。
常連の、あの大学の広場じゃ問題があるんだ。まず人目につきすぎるからね。
理想を言えば――高校の屋上はまずいな。
そんなこんなで棒に振ること二回の戦闘。
もっとも、漠然と過ごすのも何なのでアドリブでAパートが想像できるような台詞を散々垂れ流してみた。
その二回共に出てきた石上教授――じゃなかった、ジェネラル・ストーンは、僕が被せまくった濡れ衣に嫌な表情を浮かべたが、レディ・ニュクスの方はノリノリの表情をずっと浮かべている。
悪役志願であることは間違いないんだよなぁ。
あと余談だけど、僕の適当な台詞でAパートを自主製作して、動画投稿サイトに上げ始めている集団も存在しているらしい。
……いや、どういう集団なのかは大体想像付くんだけどね。
それに最近、地元ローカルテレビ局が目をつけたらしくて、何か加工を施して流しそうな勢い、という噂がまことしやかに流れている。
僕が入ってから、そんなに戦ってないけどドラマ一本分ぐらいの分量は戦っていると思うし……よそう。そこは僕の関知するところではないよね。
それよりも二回連続スルーは、敵方よりもメンバーの方に動揺をもたらしたみたいで、
「もっと注文をきつくしてくれても……」
「お前だけ逃げるつもりか」
「ここ最近面白くありませんね」
「今度は何を企んでるの?」
何だか僕がラスボスみたいな慕われっぷりだね。
が、そんなスルーも二回で終わった。
これはこれで運が良いと言うべきだろう。
場所は大学の構内であることは間違いない。ただいつもの広場ではなく、何かしらの建物と建物とを繋ぐ地上三階の渡り廊下。
ここなら都合が良い、と今日の当番であるクイーン・キャッスルは恐らく判断したのだろう。彼女がここに戦場を誘導した可能性もある。
彼女からの合図は特になかったが、彼女が出てきたことで、これが計画の始まりであることは、すぐに気付くことが出来た。
そんなわけで、まずは今日の怪人の確認だ。
え~と、人型に見える。これは珍しい、と思ったがそれもそのはず今日の素材は捨てられたTシャツらしい。
真っ赤で、ビビッドで、リリカルで、エキセントリックで「ご奉仕するニャン」と吹き出しでしゃべっている何者かが描かれたTシャツだ。
……何故そのTシャツを捨てたかは理解した。
だが何故それを、学校まで持ってくるのか。そしてそれを改めてここで捨てるのか。
「私、アレの相手はイヤ」
「右に同じく」
「右に同じだ」
「右に同じです」
確かにグリーンの位置は、エクレンジャーの並びでは一番右だけどね。
実はそれならそれで、やりやすくはあるんだよね、この際。
「秘密結社ニュクス! 今度こそ先手を抑えたぞ! 何を企んだのかは知らないが、今ここで貴様達の野望は潰えた!!」
「おのれエクレッド! どうしてこの場所がわかった!!」
クイーン・キャッスルのノリの良さはもちろん、シナリオありきでのことだ。
だけどまぁ、何にも知らされてない他のメンバーと、レディ・ニュクスは焦るよね。
もちろん、この戸惑いも計算の内だ。
僕は呆然としている仲間を尻目に、Tシャツ怪人に突っ込む。
この怪人もなかなか都合が良い。レディ・ニュクスから僕の姿を隠すブラインドになってくれる。
さて、そろそろ来るはずだ。
「エクレッド! 調子に乗るなーーー!!」
良い絶叫だ!!
手筈通り足下に襲いかかってきた鞭の先をかわし――いや、もちろんかわさなくても当たらないんだけど――僕はわざとらしくバランスを崩す。
そしてそのまま、たたらを踏んでレディ・ニュクスにタックルを決めた。
高校生が、準教授に襲いかかる図――ではなくて、戦隊のリーダーがついに悪の首領に一撃を食らわせた図、と脳内処理していただけると助かるね。
あっちこっち出っ張った身体に組み付いて、無感動でいられるほど僕も朴念仁ではないので、ちょっとやましい気分になる。
だけど、実はここから先こそが、さらなる脳内処理を必要とするところだ。
僕はレディ・ニュクスをお姫様だっこに抱え上げると、そのまま渡り廊下から空中へとダイブした。いつかの緑陸の言葉と、これまでの戦いの経験則を信じての行動だ。
一人で飛び降りる分には、それでも足から着地する自信はあった。
だけど、人一人抱えると勝手が違う。
僕は格好の良い着地はあきらめて、身を投げ出してレディ・ニュクスの身体を守る。
端から見れば、もつれ合って落ちてきたように見えてくれれば――勝手にストーリーが付いてくるだろう。
幸いスーツの性能に嘘偽りはなく、僕たちは怪我一つ無く無事に着地することが出来た。
それどころか本当に落下の時の衝撃がない。
着地したとわかったのは、身体に重みを感じたからだ。
改めてとんでもない性能だね、このスーツは。
「き、き、き、貴様、何を!」
「話がしたい」
レディ・ニュクスが狼狽することは分かり切っていたことなので、それに付き合うつもりはない。単刀直入に用件を切り出す。
「僕が最終回を迎えようと動いていたことは理解できているはずだ。そのための相談がある。これは直談判だ」
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