第13話 「もちろん、僕は消極的だよ」
桃生へのインタビューのあと、ご存じの通り色々と事態が転がった。
そこに光を見いだした僕は、エクレンジャーの環境改革に乗り出した。
改善と言うよりも、やっぱり改革だな。
何しろ善くすべき基礎すらないんだもの。
まず桃生が言っていた着替えと移動とを同時に出来るトレーラーの実現性を探ってみたが――きっぱりと高望みだった。
そのついでに、せめてスーツに通信機をつけて欲しかったが、これも電波法に引っかかりそうなので回避。
移動手段に関しては、今後も濃い人達に協力願えることになっているが、ここに関しては改革と言うほどのことではないだろう。
僕が手をつけた改革は、ずばり中の人の意識改革。
これから先、レディ・ニュクスに喜ばれるように、しかも通信機無しでそれが行えるようになるためには、いかなる局面でも戦隊もののセオリーを外さないように、個々人の質を高めるしかない。
つまりは親父さんの講義を、受けてもらう。
もちろん、メンバーからは陰に日向にと文句は出たが、
「僕がリーダーなんだよね?」
と、その言葉だけで念を押していくと、最後には皆納得してくれた。
いや、ありがたい話だね。
ちなみに僕による説明と、親父さんによる講義が行われるのは青鹿家の大広間だ。
曜日はもちろん日曜日。スナックゴンが学生街の店らしく休み――朝に戦隊ものがあるからかも知れないけど――であるし、何より時間を調整しやすい。
僕らエクレンジャーは暇であることを見込まれて選抜されたのだから、休日に予定はないのだ。いや桃生は知らないけど。
もちろん、どうして講義を受けなければならないのかの説明は、全員集まったところでちゃんとした。
もちろん説得力を増すために、ここ最近の敵の反応も伝える。
……ここまで説明を遅らせたのは、この敵の反応を餌に注意を引こうという計算があったことは否定しないよ。
「レディ・ニュクスが喜んでいた?」
意外――と言うべきか真っ先に反応したのは、緑陸だった。
こいつへのインタビューはまだ行ってないな。
とりあえずこの場は、緑陸に向けてさらに説明しておこう。
「そう。城山先生に確認したところ――」
名前から察してもらえるだろうけど、城山先生こそがクイーン・キャッスルだ。フルネームで言うと城山恵子。
「――今までにはない兆候らしいね。少なくとも退行、ということではないらしい」
「そう……」
何だか残念そうな緑陸。これは緑陸も最終回を望まない理由があるのかな?
さて、それぞれの理由で最終回を迎えることに積極的ではない男衆は……
何だか、どこかの他の学校の制服姿に見える私服で正座している青鹿先輩。
ラフな格好で着の身着のままという感じの黄涯。
自分への投資は惜しみなく、という感じのフェミニンな印象の桃生。
三者三様の有様だったが、この時の皆の表情は共通していた印象がある。
つまり、唖然。
いきなり招集掛けて、どんどん話を先に進めたからだろうか?
だが、今は事態の方がどんどん先に進んでいるのだ。
その辺、自覚を持ってもらいところだね。
「赤月君は……もっと消極的な人だと思ってたわ」
皆の心の内を代弁するかのように口にしたのはパーカー姿の緑陸。なるほど、そんな印象を持たれていたのか。
「もちろん、僕は消極的だよ」
僕は胸を張って答える。その部分は自信がある。
僕は自分からは動かない。
「――僕は言われたことしかやらない。僕は最初に『最終回を迎えるように』と言われたんだ。だからそれをやってるだけだよ。何処に積極的な要素がある?」
「それは――」
何も言い返せないだろう。どこから発せられた意志なのかは知らないけど、依頼したのは間違いなく緑陸だ。
そして、それを撤回する理由も理屈も緑陸にはない。
「……ということなので、僕はこの件に関して最大限の努力を行うと決めています。そして、そのための一手がこの勉強会で、そのための特別講師が黄涯のお父さんですが、その前に青鹿先輩」
「うん?」
「このやり方がレディ・ニュクスに有効かどうかの検証を行いたいので、青鹿先輩に協力していただこうと思いまして」
「僕にか?」
「ご家族に協力をお願いしてください。ヒーローの身内が巻き込まれるのも一つの様式美のようで――そうだったよな、黄涯?」
不意に話を振る。
「お、おお。そうだな。そういう話もあるらしい」
その隙に先輩の様子をうかがうと、僕に向けられているのは明らかな非難の眼差し。
それはそうだろう。
僕は先輩の家庭の事情を聞いている。聞いた上で無理を言って、この大広間を貸してもらい、さらには無茶な要求を突きつけている。
「先輩、可能性を追求していきましょう。お父様は?」
「無理だ」
「お母様」
「論外だな」
「お兄様」
「…………」
周囲は何時の間に僕が先輩の家族構成を把握したのか、と視線で雄弁に語っているが、こんなものちゃんとコミュニケーションとっていれば、すぐにでもわかる話だ。
結局、かつてのエクレンジャーは何もしていなかったんだな。
一方で、押し黙ってしまった先輩。ここは畳みかけるしかない。
「先輩。可能性があるなら、追求してください。恐らくは散々に非難され、その後も叱責を受ける損ばかりのお願いですが、ここは一つ」
いいぞ。
先輩の瞳が透明になってきた。
「……やってみよう」
そんな先輩の返事に、何よりも他の三人が目を剥いた。
それはそうだろう。僕がやったことはおおよそ普通の交渉術の間逆なんだから。
だけど僕はそれについて説明したりはしない。
先輩の性癖――というのかな――を言いふらす趣味はないし、それになにより、これでエクレンジャー内での位付けが決まる。
これをしておくと集団を統率するのが随分と楽になるんだよね。
「――さて、先輩がこれだけ多大な犠牲を払ってくれているんだから、今からの勉強会ぐらいは我慢して欲しい。できるよな」
「は~~~い!」
桃生から元気のよい返事。どうも桃生は女性とよろしくやるよりも、エクレンジャーの活動の方が優先順位が高くなりつつあるようだ。
というわけで、遅れてやってきた――いろいろな資料を用意していたらしい――親父さんの講義で、僕も含めて、この日は全員で戦隊ものの様式美というものをたっぷり学び、先輩が説得して連れてきたお兄さんの帯刀さんと、打ち合わせすることも出来た。
その成果の程はすでにご存じのことと思う。
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