第三章 悪人がいない

第12話 そのゴミ虫の後を追わせてやる!!

 バン! ババン!!


 スーツ姿の男性がいきなり銃で撃たれた。

 派手に血飛沫が舞い、男性がゆっくりと倒れる。


「兄さーーーーーーーん!!」


 ブルーが叫ぶ。


 正体を明かさないという縛りとどっちを優先させるか迷ったんだけど、ここは盛り上がりを優先。


 たっぷりとプレッシャーを掛けただけあって、思わず本当にお兄さんが死んだと思ってしまうほどの迫力だ。


 きっとマスクの下の先輩の瞳は透明になっているに違いない。


 あ、もちろん、あの男性も命に別状はありません。


 弾着……だったかな。昔の刑事ドラマとかでよく使われた小道具だそうだ。


 協力は例によって、スナックゴンの常連大学生の方々。時々思いもよらぬスキルをお持ちの方がいることである。


 ……深くは追求しないでおこう。


「おのれ、ニュクスめ!!」


 ブルーがマスク越しでもわかる憎悪の眼差しで、レディ・ニュクスとクイーン・キャッスルを睨み付ける。


 お膳立てした僕が断言しよう。


 とんだ濡れ衣もあったものだね。


 しかし何という巡り合わせか、今日の怪人はなんと割り箸鉄砲だった。


 今日の舞台はまたも大学の広場なんだけど、


「何でこんなものが?」


 と、その時は首をひねったね。


 これはあとから聞いたんだけど、大学の食堂は割り箸が取り放題……というのはちょっと違うけどかなり自由になるらしい。


 それで思わず童心に戻って、割り箸鉄砲を作ってしまう“男の子”というものが、結構いるということだ。


 まぁ、それは後日談であって、問題は今の戦闘。

 濡れ衣には間違いないのだが、状況証拠が揃いすぎている秘密結社ニュクス。


 しかも、治療の性質上彼ら――今回に限り彼女ら――は、その濡れ衣を喜んで被らないとといけない。


「バカめ! 我らの作戦を邪魔しようとするからだ!!」


 ありがたいことにクイーン・キャッスルがAパートの説明をしてれた。


 もちろん、その作戦が何だったか、という設定はない。

 クイーン・キャッスルもよくよく空気が読める人だ。


「エクブルー! 兄が一人で逝くのは寂しそうだぞ。お前もすぐにそのゴミ虫の後を追わせてやる!!」


 ゴ、ゴミ虫……!


 おっといけない。


 絶品のアドリブに思わず本気で凹みそうになった。


 後ろのレディ・ニュクスまで引いてるじゃないか。


 ……あの先生のカウンセリングだけは受けたくないな。


「おのれーーーーーーーーー!!!」


 憎しみに彩られた絶叫が広場にこだまする。


 そのまま、とどめの時以外は抜かない約束のエクレンランスを引き抜いて、クイーン・キャッスルに襲いかかる。


「先輩……本気になってないか?」


 イエローが恐ろしいことを言うが、気にしないで置く。


 一本ぐらいエクレンランスの中身が漏れたところで、とどめには影響ないだろうしね。

 クイーン・キャッスルもブルーが間近に迫れば、治療のための調整も効くだろう。


「名乗りはどうするの?」


 グリーンが冷めた声で尋ねてくる。


 うん、そこだね。


 打ち合わせでは弾着のあとに、ブルーから名乗っていくパターンだったんだけど、今の自然な流れは間違いなくこっちだろう。


 このままだとブルーがクイーンを倒してからの流れになりそうだ。

 だけど、それはちょっと困るんだよなぁ。


 ……あ、そうだ。


 僕は皆の目がブルー対クイーンに向けられているのを利用して、今回の協力者、青鹿帯刀たてわきさんに歩み寄った。

 すでに好奇心に負けて、死んでいるはずなのに身を起こしている。


 ちょうど良い。


 僕は彼の耳元でぼそぼそとささやいた。それににんまり笑ってうなずく帯刀さん。


 実に良い協力者だけど、この活動に協力的ってことはどこか壊れてる様に思えるんだよな。


 人間として。


「い、伊舟! 憎しみの心にとらわれてはいけない!!」


 わお、演技派。


「兄さん!」


 クイーンと戦っていた、ブルーが振り返る。


「お前には素晴らしい仲間がいる! 協力してニュクスから街の人を守るんだ!」


 街ではないが、そこは置いておこう。


 ブルーは兄の説得に応じ――というかシナリオを思い出してくれたのだろう――戦列に戻ってきてくれた。


 ここでもう一盛り上がりが欲しい。

 そして僕には怪人を見たときからの腹案があった。


 あの割り箸鉄砲、ゴムが装填されているのだ!


 僕はクイーンに人差し指を曲げて、ブルーを顎で指し示した。


「オホホホ! これは都合が良い。二人まとめて死んでしまうと良いわ!! あの二人を撃ちなさい!!」


 打てば響くような好反応。


「そんなことはさせるものか!!」


 僕がブルーと怪人との射線上に入り、残りの三人もそれに倣った。どっちにしても痛くもかゆくもないのだ。


「みんな!」


 先輩、素なのか演技なのかわからなくなってきてますよ。


 そのタイミングでゴム発射。


 バチーーーン!

 

 僕とイエローあたりの体に当たった。


 もちろん、こちらにダメージは一切無いが、音だけは派手に響いたな。


「見たか、秘密結社ニュクス! これが正義の力だ!!」


 叫びながらブルーがずずいと前に出る。


『悪を押し流す激流の青! エクブルー!!』


 さすがに元リーダー。僕も続かなければ。


『宇宙を駆ける戦いの赤い星! エクレッド!!』

『疲れた身体に黄色いレモン! エクイエロー!!』


 大丈夫なのか? 何かあったのか? まだイエローのエピソード回は消化してないし、まだ挫けないで欲しいのだが。


『女の子の桃色の嬌声を守るため! エクピンク!!』


 こいつは、なんとなくコツを掴みつつあるようだ。


『緑の地球を護るため! エクグリーン!!』


 グリーンの安定度は異常。


 とにかく、これにて今回のシナリオ、九割方は成就している。

 さて、最後にもう一度僕の出番だ。


 どうだ? レディ・ニュクス。

 心躍る展開だろう?


 そんな僕の期待に応えるように、レディ・ニュクスはやっぱり全力の笑顔だ。


 ただ……やっぱり、腑に落ちない。


 が、それは後回しだ。疑問点に対して何もしてないわけじゃないしな。


『ならぬ命を天へと還す! 我ら遊奉戦隊!』


 ――エクレンジャー!!


 あ、毎度のことで悪いですけど戦いには勝ちました。

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