第11話 緑色に染めてやる!

「は!? は、いや、し、しかし、具体的に何をどうすれば……」


 突然、命令されたジェネラルも戸惑っている。


 仕方ない。


 そもそもあの人は悪の幹部のコスプレをしてるだけの、大学教授でしかないんだから。

 悪の幹部としての能力は……あったら逆にマズいような気もする。


「怪人に指示を出せ。あの女を誘拐して、エクピンクをこちらの言いなりにするのだ」

「は、は!!」


 と了承しても良いのか? 石上教授。


 さて今まで気にもとめてなかったが、今日の怪人は何だろう?


 一見するとバレーとかバトミントンのネットだけど、場所柄を考えると――霞網かな? よくもまぁ、そんなものを拾ったものだ、レディ・ニュクスも。


 そんな人さらいを行うには最適な怪人に思える見かけなのだが、肝心なものが足りていないために、僕は胸をなで下ろしていた。。


 身体が横に長すぎて、直立するだけで性能の全てを使い果たしている。


 要は人をさらおうとしても、動くこともままならないのだ。

 仮に網の部分にしっかりした芯棒でも通っていたと考えても……歩くことすら面倒そうだ。


 さすがに教授も真っ当な想像力を持ち合わせていたようで、今日の怪人には何も期待できないと悟ったらしい。


「首領!」


 おお、本当にそう呼んでいるのか。


「今日の怪人ではその任務は不可能かと」

「あたしの可愛い怪人が役立たずだとでも言うの!?」

「とんでもない!!」


 ……教授。任務に忠実過ぎはしませんかね。何だか立場が入れ替わって、こちらが傍観者みたいだな。


「こ、これは重要な作戦です! かくなる上は私自ら……」


 いいのか?


 単純に女子大生(多分)に襲いかかる大学教授という構図ができあがるだけなんだが。


 いや、待てよ。


「ピンク!」

「へ?」


 僕と同じく傍観モードに浸っていたピンクが、突然の呼びかけに間抜けた声を出す。


「僕はレディ・ニュクスを抑える(つまりお前は石上教授とサシでやれ)! ジェネラルから町の人を、その女性を守るんだ(お前のケツはお前で拭け)! それがエクレンジャーの使命だ(それっぽく振る舞え。いいな、空気読めよ)!」


 ええい、このスーツ。通信機の一つも付いてないのか。


 言ったからには、僕もレディ・ニュクスにあたらなければならないだろうなぁ。

 ちなみに例の三人はまだ追いついていません。


 ピンクはある程度は空気を読んでくれたようで祐子さん(仮名)の下へと向かっている。


 むしろ管多さんの方が空気を読んで、大人へのエスカレーターだった祐子さん(仮名)をかばっていた。


 うん、これでピンクが普通の人を庇えば、何だか子供の頃に見たシチュエーションが完成するんじゃないかな。


 僕は向かう先のレディ・ニュクスの表情を改めて確認してみた。


 笑ってる。


 きっと僕と同じ考えなんだ。詳しい条件まではわからないが、これはレディ・ニュクスにとっては肯定されるべき事態なのだ。


 さすがに並んで観戦とまでは行かないが、僕とレディ・ニュクスはそろってジェネラル・ストーンの奮闘を見物する。ジェネラルは当たるはずのない距離で適当に腕を振り回していた。


 管多さんはそれを庇う。ピンクが空気を読めていれば、このあとの行動は一択のはず――あいつに戦隊ものの知識はどれぐらいあるんだ?


「待て! 香津美さんに手は出させないぞ!!」


 極めてオーソドックスに参戦しやっがた。


 祐子さん(仮名)の名前がわかったことが成果といえば成果だね。その香津美さんは気楽に黄色い悲鳴など上げているわけだけど。


 だけど、これじゃあダメだ。


 せっかくここまで好条件が揃ったんだ。何とかこれを戦隊もののエピソードとして昇華させないと勿体ない。


「ピンク! お前が二人から教わったことはそれだけじゃないはずだ(もっと、それっぽい台詞を言えよ、この野郎)!!」


 あいつだって“男の子”だった頃はあるはずだ。

 こういう時によく聞いた、台詞の一つでも思い出すんだ。


 それなのに、あの野郎――どん引きしてるな。


「そうですよピンクさん! 俺はあなたに助けてもらったこの命、無駄にはしません!」


 さすがだ管多さん。

 この戦い、絶対に戦隊顧問が必要だよな。


 ……親父さんの図々しい発言を真剣に検討してみるか。


「そ、そうだとも。僕は女の子だけでなく女の子の幸せを、つまりは人類の幸せを守る!!」


 やっとの事で、エクピンクが見得を切る。


 だけど、つまり、とかまとめて正義の宣言をするのはどうだろう?


 それでも急場のこととしては、よく頑張った方なんだろう。


 こういう盛り上がりは僕の記憶を刺激する。

 そして肝心の患者は――


「どうした、レディ・ニュクス? 嬉しそうだな」


 悪の首領のはずが、全力の笑みを浮かべている。


 嬉しいのだ。

 嬉しくて仕方がないのだ。


 治療――だとすれば、まさにこれは正解の道のはず。


「何を言うか! お前達の決心など我の知らぬこと!!」


 うむ。こちらはさすがに安定の悪役台詞。


 悪役……?


 その時、視界の端に光の三原色もどきの集団が。ええ。僕(レッド)が色々と欠けてますね。


 やっと追いついてきたが、その上で戦えとはとても言えない様な疲労困憊ぶり。

 しかし僕にはやらねばならぬことがある。


「ピンク!」


 僕は声を掛けると三人の側に駆け寄った。


 様式美にこだわるなら、三人の方が僕らに近づいてこなければならないはずだが、そこはサービスしようじゃないか。


 僕は強引に三人の間に割り込む。そしてピンクに腕を振って煽り、例のものを始めるように促す。


 今日はピンクのエピソード回。


 主役には、一番に最後の見得を切らせよう……そんな回もあるんじゃないかな? 無かったっけ? いや最後にするのか?


『人の心にピンクの微笑みを! エクピンク!!』


 考え込んでいるうちにピンクが始めてしまった。しかも、今までで一番空気を読んだ名乗りじゃないか。


 ええい、ままよ!


『宇宙を駆ける戦いの赤い星! エクレッド!!』


 ここで僕がパターンを外すと、ピンクが引き立たないからな。


 ……決して即興が出来なかったわけではないよ。


『流水のすばらしさを再認識! 鮮烈の青! エクブルー!!』


 肉体的にはやっぱりMではなかったんですね先輩。


『今からオムライスの黄色が楽しみだ! エクイエロー!!』


 あれ? リクエストできるものなのか?


『緑色に染めてやる! エクグリーン!!』


 主語を! お願いだから主語を言ってくれ緑陸。


 たまにアドリブ入れたと思ったら、なんだこの不穏な名乗りは。


『ならぬ命を天へと還す! 我ら遊奉戦隊! エクレンジャー!』


 お~い、みんな。

 声出していこうじゃないか。


 あ、その後の戦闘には無事勝利です。

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