第10話 エクレンジャーは少年の魂を持った君に期待している!

 絡繰りはこうだ。


 ゴンに集まる客達の中には、親父さんの趣味に惹かれてなのか戦隊ファンも多くいるらしい。


 その中にありがたいというか迷惑と言うべきか、エクレンジャーの追っかけもいるらしくて、中には暇をもてあました大学生もいる。


 さらにその中には、車まで所有しているというブルジョワが少なからずいるらしい。


 かねてから移動手段の間抜けさに問題意識を持っていた僕は、親父さんに相談。

 タイミングが合えば、そういった方々の車を提供してもらえないかと打診していたというわけだ。


 その試みは成功して、今回、管多かんたさんという青年――三津佐大の学生ですよ――が快く協力してくれることになった。


 きっと後で、あこがれのヒーローと握手、という流れになるんだろうな。


 バンダナにジージャンというところまでしか確認できないが、いかにもなファッションに身を包んだ管多さんの愛車は白の軽だった。


 もちろん文句なんかつけようもない。


 まず学校に着替えに行って、エクレンジャーに“変身”してから、


「赤月君と、桃生君に聞いてきました。協力者はあなたですね」


 とやる。


 そういう様式美というか、白々しい部分を、お互いがわかった上で処理して山頂へと向かう。


 ここまではなかなかスムーズだったのだが……


「先輩、頭良いですね。これは楽で良い。いっそのこと着替えを搭載したトレーラーか何かを複数用意してもらえればもっと楽になると思うんですけど。あの石上教授、実は大学から冷遇されているんじゃないですかね」


 後部座席に座る桃生――じゃなかったピンクから、なかなかに鋭い指摘。


 こいつ、頭も悪くないんだよなぁ。


 助手席に座る僕は後ろを見ないようにしてうなずいて見せた。


 何しろ後部座席には、ピンクとその女が座っている。


 いや、僕が下品なわけではなく、ピンクの女が自己紹介もせずに、この車に乗り込んでくるから、僕としても他に紹介のしようがないのだ。


「ねぇ、ハルくん。ハルくんなんでしょ?」

「ちがうよ。僕はピンク。あくまでエクピンクなんだ。わかってくれ」


「やだ! 今日ドタキャンしたのはハルくんでしょ。ねぇ、私だけに秘密を明かして。そして仮面を取ってキスしてよ」

「だから、僕はハルくんでないのだよ」


 と、言いながら二人の指が複雑に絡まっている。


 一応、事情を説明しておくと桃生は今日の僕の申し出に、この彼女(ということにしておこう。何人いるのか知らないけど)との約束を後回しにしてしまったらしい。


 桃生の中の優先順位がよくわからないが、それに彼女さんは納得しなかったようだ。


 桃生の部屋を出たところで鉢合わせ。どうにも離れてくれずに現在に至るという今の状況。


 ……ちょうど部屋を訪れに現れたタイミングだったのか、部屋の前にずっといたのかは考えないことにした。


「エ、エクレッド!」


 ハンドルを握りしめ、必要以上の前傾姿勢をとった管多さんが血涙が似合いそうな声音で僕に訴えかけてくる。


「お、俺は今、強制的に大人の階段を上らされています!」


 ……僕にどんな反応を求めてるんだ。


 ああ、いかんいかん。今の僕は戦隊のリーダー、レッドであったのだ。


 親父さんの話によるとレッドがリーダだというパターンも崩れつつあるそうだが、エクレンジャーは、とにかく僕がリーダー設定だ。


 だから、この場で僕が言うべき台詞は……


「耐えるんだ管多さん。エクレンジャーは少年の魂を持った君に期待している!」


 ……中身がない台詞の典型だな。自分でびっくりするほどの空々しさだ。


「そ、そうですよね! 俺、頑張ります!」


 その頑張り方が僕には一向に思いつかないが、とりあえずハンドルを握っていることだけは思い出して欲しい。


 何しろ山道を登っているので、普通の車道を走るよりはハンドルを切る機会が多いのだから。


「あ」


 思わず声を上げてしまった。


 崖に落ちるんじゃないかと、左右に視線を巡らせたときに見てしまったのだ。


 ブルー、イエロー、グリーンの姿を。


 肩で息をしている。

 秘密結社と戦う前に、扱いの格差を巡って戦隊内での死闘が待っていそうだ。


 僕はこの危機を回避する手段を考え始めた。


 何しろ道交法的に彼らを乗せるわけにはいかない。正義の味方が進んで悪事を犯すわけにも行かないだろうからね。


                ☆


 突然だが、ここでAパートのあらすじを説明するぜ!


 エクピンクの正体を探る女子大生、祐子さん(仮名)。

 そんな祐子さんに恋いこがれる男、管多。


 管多は桃生に迫り、このままではエクピンクの正体がばれてしまうかもしれない。


 そんな時、秘密結社ニュクスの襲撃が! 


 今までのわだかまりを捨て、エクピンクに協力してくれる管多。遠く離れた襲撃地点へエクピンクと、フォローに来ていたレッドを連れて行ってくれることに。


 そう! 人の心には皆、正義の心が宿っているんだ!!


 …………みたいな。


「きゃーーーー! ハルくん頑張って!!」


 少しは空気を読まないかな、あの女子大生。


「き、貴様ら! 真面目に戦わんか!」


 ああ。


 窓際疑惑が出ている石上教授の突っ込みが心の安らぎになるなんて。


 今日の担当はジェネラル・ストーンだったんだな。奥の方に見える黒いバンでやってきたのだろう。声に疲労の影はない。


 さて、今日もレディ・ニュクスは曖昧な表情で傍観を決め込むのかな?


「何をしているか! あの女がエクピンクの弱点だ!!」


 え!?


 レディ・ニュクスから突然に鋭い指示が飛んだ。


 しかも何か笑顔になってないか?


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