第6話 とにかく、おそろしく、旨い。
「そういうことならウチに来るか?」
とメンバーに最終回の迎え方について相談してみたところ、積極的な反応を示してくれたのはイエローの中の人、
してみると、ブルーやピンクは最終回を迎えたいという欲求は希薄なのかな?
最初に最終回を目指すように説明されて、この戦隊に加わるものとばかり思っていたけど、実は違うのかも知れない。
その辺も含めて、黄涯にはいろいろ聞いてみたいところだ。
「説明してくれるのは助かる。戦隊には詳しいのか?」
「いや。俺じゃなくて俺の父ちゃんが詳しいんだ。マニアって奴?」
なんと親世代にまでファンが。
さすがに歴史ある番組だけのことはあるなぁ。
着替え終わって黄涯の後についていくと、彼は校門を通らずに大学へ続く森へと向かって歩き始めた。首をかしげながら、それでもついて行くと黄涯は少し振り返って、こう告げた。
「家は大学に近いんだ。高校の校門から出ると遠回りになる」
僕は周囲の道路状況を頭の中に思い浮かべてみる。
うん、確かにキャンパス内を経由して移動した方が、このあたりでは色々と便利そうだ。
先を行く黄涯の背中を見下ろす形になったことで、改めて彼の背の高さを意識する。
百七十ぐらいかな? 僕はこれでも百八十弱ぐらいはあるからそのぐらいの身長差だろう。横幅は黄涯の方があるね。顔も思い出してみると全体的に丸っこい造りで鼻も丸かった。ハンサムではないけど、愛嬌のある顔立ちというんじゃないかな。
「あ、そうだ。夕飯食べてけよ。その方がゆっくり話も出来るし、きっとそうなるから」
また首だけ振り返って、黄涯が提案してくる。
「いいのかな?」
「俺のためを思って」
何だか理屈がよくわからないけど、たしかにそれぐらい時間を取れれば、色々と話は聞けそうだ。
僕は携帯をとりだして、母さんに連絡することにした。いきなりの予定変更に色々文句を言われたりもしたけど、基本的には転校して間もなく、そういう風に誘われたことを喜んでくれているようだ。
――何しろ、ばらすことができないからなぁ。
「じゃあ、ごちそうになるよ」
「ああ。大学の校門から出て、すぐだからそんなに遠くないからな。帰りは……」
「まぁ、なんとかするよ」
「で、ウチは食堂をやってるんだ」
「なるほど、営業熱心だね」
そこで僕にご飯を食べろと言うことなのだろう。
「違う違う。今説明したのは心構えをしてもらおうってだけの話だよ。裏から入って、飯は俺の部屋で食うことになると思う」
あ、何だかごく自然の流れ。これは早合点した僕が悪かった。追いついて黄涯の横に並び、ちゃんと謝ることにした。
「悪かった。せっかくの好意だったのに」
黄涯はそれを聞くと丸い目をさらに丸くする。そして笑みを浮かべて、
「いや、俺の話の持って行き方が悪かったんだし……お前、もしかして良い奴か?」
そんなこと本人に尋ねられても、返事しようがない。
「エクレンジャー引き受けるなんて、きっとろくな奴じゃないと思ってたんだがな~」
おそらくこれは黄涯自身も含まれているに違いない。
ちょうど良い機会だから、聞いてみるか。
「じゃあ黄涯はそもそもなんだってエクレンジャーを引き受けたんだ?」
「それは……」
その時、大学の門にたどり着いた。そしてその門の向こうには、煌々とした光が漏れている、二階建ての結構大きめの食堂が見受けられる。
店名は……「ゴン」……かな?
☆
さすがの立地条件で、外から窓越しに店内を覗いてみたが、ものすごく繁盛していた。大学生が大挙して夕食を摂りに訪れているのだろう。
「こっちだ」
もちろん、店の玄関口から入るはずもない。
「ちょっと話つけてくるから」
と、先に黄涯が裏の勝手口から家の中に消えてなにやら女性と話をしている。普通に考えて、僕のことを母親に伝えているのだろう。
あと戦隊シリーズのオーソリティであるらしい父親の都合を聞いているのだろう……大丈夫かな?
どう考えても途中で抜け出せるような繁盛ぶりじゃないんだけど。
「――待たせたな。二階だから階段昇って右手だ。先に行っておいてくれ」
一分もしないうちに、黄涯が呼び込んでくれた。
招きに応じてごく普通の扉を抜けておじゃますることにする。出迎えてくれたのは、体格が黄涯によく似た中年女性。お母さんだろう。
「突然おじゃましてすいません」
無難に挨拶しておく。
「いいえ~。気にしないで良いのよ。ゆっくりしていってね」
黄涯の交渉時間の短さから考えると、これは社交辞令ではなく本音なのだろうな。
にこにこと笑っているし、人の良さが窺える。
「じゃあ、遠慮無く。え~っと黄涯君は?」
あいつの下の名前何だったっけ?
「源文はお父さんに話があるって。今日出動だったから、ごちそうになるのよね。ねぇ、えーっと赤月君だっけ。君が新しい人なんでしょう?」
おお、こちらの両親は事情を知っているのか。となると僕としての対応の仕方は一つしかないな。
「すいません。何か勘違いされてませんか?」
正体をばらしてはいけないのである。僕は言われたことは守る主義だ。
「あら? え、え~っと……?」
黄涯での家での対応がわかるな。確かに、家の中で正体ばらすも何もあったもんではないだろうが。
「母ちゃん、俺達は部活やってるわけじゃないんだからさ。赤月、行くぞ」
またも手短に交渉をすませたらしい黄涯がやってくる。
そんなわけで僕はまた黄涯の背中を見ながら行動することとなった。何とも、頼りがいのある背中だ。
洞窟のような薄暗い階段を上り、和室に通される。
外から見た造りだともう少し余裕がありそうだったが、二階は二部屋しかないようだ。二階まで食堂に改造したのかな?
黄涯の部屋は学習机に本棚、部屋の中央にちゃぶ台と結構な数の家具が詰め込まれているが、六畳間ぐらいではあるのかな?
その他に、これは個性だと思える品物は、
「寸胴……?」
本格洋食店がシチューを使うときに使うようなアレである。
「ああ、それは何というか修行用」
「修行?」
「俺は親父の跡を継ぐのが夢なんだ」
「なるほど。で……鍋?」
「料理人の本質は力仕事だっていうのが父ちゃんの持論でな。俺も材料の搬入とか仕込みを手伝ったりはしてるんだ」
なるほど。黄涯の怪力はそういう日頃の行いがあったればこそか。
「お待たせ~」
とほとんどタイムラグなく、お母さんが現れた。
いえ、一つも待っていません。
「お父さん喜んでたわよ~。だからほら」
と言ってまず差し出されたのが、炊飯ジャーだった。
「ご飯は食べ放題で、あとはハヤシライスのルーを持ってくるから」
「あ、じゃあ手伝い――」
「いいからいいから気にしないで。デザートもあるみたいだから」
何という至れり尽くせりか。
「とにかく座れよ。あ~っと、座布団あったかな」
日頃の来客状況が知れる発言ではあったが、無事に座布団は発見され、ハヤシライスのルーも届いた。
そこでとりもなおさずまず飯だ、ということで夕食に取りかかる。
窓の外の景色はすっかりと闇色に染まっていた。
自覚はなかったが、二人して相当おなかが減っていたのだろう。ものも言わずに一皿目を平らげると、二皿目に取りかかる。
しかし旨い。空腹のせいばかりではないだろう。
とにかく、おそろしく、旨い。
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