第16話 眠れない夜
枕を抱えてクロゥインは何度目かの寝返りをうった。
『クロック』の生活魔法で、時間を確認すれば夜の22時33分と空間に表示された。
20時にはベッドに入るのに、もう2時間以上も眠れていない。
自室の広いベッドにごろんごろんと転がるも、まだまだ眠れる気がしない。
「ああー、もう、あいつらのせいじゃないか」
クロゥインは上半身を起こすと、頭をかきむしった。
グアラニーたちを帰した後、夕食を食べながらはたと気づいてしまったのだ。やつらが人食い種だということを。
「やっつけた、とか撃退した、とか。あいつらがそれで終わるわけないよなぁ」
つまり、やつらと出会った襲撃者はすべからく、やつらの胃袋の中だということだ。101人で行動していたのだし、1人2人食ったくらいで落ち着くとは思えない。
この街の人間には手をだしていないようだが、それは以前にクロゥインが禁止したからだ。街の外など範疇外、しかも巫女を攫った敵でもある。何人いたのかはしらないが、出会えば食われているに違いない。
もしかしたら、たまたま深淵の大森林にいた者たちも食っているのかもしれない。
それを止めるのは、確かに難しいだろう。
所詮、冒険者だって弱肉強食の世界だ。討伐中やクエスト中に命を落とす者も多い。
できるだけ死者を少なくするために、仮ではあるがギルドマスターになった。ダグラスや志を同じくする同志を集め試行錯誤に制度を設けてやってきたわけだが、その試みがすべてうまくいくとは限らない。
そして、魔族は基本、人間とは相いれない存在だ。食いたいと言われれば制限をつけることはできるが、禁止することまではできないのだ。
ジレンマを抱えて再度、ため息を吐いた。
冒険者ギルドマスターで、魔王で、市長で。
どの立場も仮だと騒いではいるものの、それなりの仕事をしてきてはいる。
早いもので10年たつのだから。
低反発の枕を抱きしめてぼすんと顔を埋める。ふんわりと鼻をくすぐるのはハーブの爽やかな香りだ。
デミトリアスの采配のもと、悪魔のメイドが気遣って、クロゥインの寝台を整えてくれている。
こうして安眠できるようにいろいろと気遣って工夫してくれていることも知っている。
だから、報いるためにも歩んできたはずだったのに。
自分がついている立場同士が軋轢を生むだなんて想像もしなかった。
自分の庇護下にあるのなら守りたいと思って突き進んできたはずなのに。
あの日。
あの100人を失ったときに、自分の関係する場所だけは守れるようになりたいと思ったはずだったのに。
魔族も人間も冒険者も。
すべてを守りたいだなんて、無理な話なのだろうか。
深々とため息を吐いたとき、ふっと地獄耳はすすり泣きの声を拾った。近くで聞こえる気はする。場所を探ってみれば、階下の真ん中の部屋だった。
クロゥインは一瞬ためらいつつ、転移魔法で部屋まで跳んだのだった。
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