僕たちには夢がある

第Ⅰ話 勇者と賢者の最後の修行 


「アーサー!!」


野太い声が中庭から怒号のように流れた。

返事をしないままで居ると何度も自分の名前を呼ぶ声が次第に大きくなっていく。

ついに名前を呼ぶ当人が自分の部屋のドアを乱暴に開けると走ってきたのか肩で息をする友人のジェイクが眉間にしわを寄せて立っていた。

アーサーは読んでいた魔術の本が視界から消えるとゆっくりと顔を上げる。

ジェイクの顔と並んで今読んでいた本が並び取り上げられた事がわかった。


「何度も呼んでいるだろう!!」

「ごめんジェイク、僕は今君の訓練に付き合っている暇はないんだ」

「また貴様はこんな本ばかりで俺と勝負の一つもできないのか!」

「明日学校で魔法の授業が---」

「剣術もあるだろう!!」


話が終わるや否や右腕を強く捕まれ歩かされる。

その拍子で座っていた椅子がガタリと倒れた。




「あら、ジェイク君今日もアーサーと修行?」

「はい!こいつ借ります!」

「この子放っておくとお部屋から中々でなくて困るのよ」


ありがとうね、とアーサーの母親がにっこり笑う顔を横目に小さくため息が出た。

アーサーの気持ちを知ってか知らずかジェイクはどんどんと大きな通路を歩いていく。

今日もきっと日が暮れるまで帰れないだろう。

すれ違い様にメイド達に笑顔で挨拶をするジェイクにアーサーの右腕は掴まれたまま太陽の昇る外へと連れ出された。





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そよそよとアーサーの赤い髪がゆれ小高い丘に連れていかれる。

見上げていた青い空からジェイクへと目を向けると自分同様にそよそよとオレンジ色の髪が動きにつられて揺れていた。

君はいつも元気だな、と小さな背中に問いかけるも返事はなかった。


「明日俺とお前は7歳になる」

「そうだね」

「…」

「僕は勇者、君は賢者だったかな」

「…」

「…」




遠くで鳥の鳴き声が小さく聞こえ二人の間には沈黙が流れる。

勇者は勇者の学校へ、賢者には賢者の専門の学校がある。

その他も弓、大剣、治癒術と種類は豊富で各有名な家柄から排出される。

ジェイクとアーサーは家が近く生まれた当時からずっと一緒だった。

しかし、今回二人の道が大きく分かれる日が迫っていた。

会える距離だった二人の関係は魔王討伐の為に学校の掟によって厳しく拘束され、討伐隊が組まれ学校に備え付けられている寮へと入ることになる。

もちろん強くなればなるほど将来有望として国に管理され帰省できるのはよっぽどの事がない限り叶わなくなってしまう。

そんな二人は由緒ある血筋でありどちらも真剣に勇者、賢者の道を極めようとしている。

ただ双方の違いが初めて生まれたのはつい先月の事であった。

アーサーは勇者よりも賢者に、ジェイクは賢者より勇者に、と二人の意思は別にあった。


「俺がお前みたいに剣術がうまかったらよかった」

「それは僕もだよ、君みたいに魔力があったらいいのに」

「お前、本当争い嫌いだよな」

「君は、本当に元気だな」


本日二度目となる言葉にジェイクはにかっと笑う。

その笑顔にやられてかアーサーも笑う。

ゆっくりとジェイクが手を前に出すと二人の周りにふわふわと赤い球体が浮かぶ。

それを見てアーサーが目を閉じると肺いっぱいに空気を吸った。

コポコポと目の前で水色の剣が出来上がるとアーサーが勢いよく握り振るう。


「火には水、そうだよね」

「俺の火力舐めんなよ!!」


二人が駆け出すと同時にざぁっと風が強く吹いた。

今日で何戦してきたかわからないこの戦いももうこれで最後。

そう思うと次第に二人の中で熱く心が燃えた。

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俺の嫁が魔王の娘だったんだかそんな話聞いてない!!! ふゆう @6kagerou9

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