神是と駮馬2

(子供の処遇を決めあぐねたまま、霊安室に戻ってきた樹。念のために脱走しないよう、電子錠に閉ざされた事務所で下ろしてやると…彼はそのまま座りこんだ。樹の予想に反し、大人しくしている)


駮馬:(しにがみ さんの おへや せまいけど しずか いやなひとたち いないから)


神是:…………おい駮馬。これ持て。


(樹は彼にホワイトボードとペンを渡す)


それで字を書いて俺の質問に答えろ。


駮馬:(ひらがな しか かけないの むずかしい ことも わかん ない)


神是:ああ…それでも構わん。そもそもお前、なんであいつらに追われてた?


駮馬:(にゅーいん こわい だけど しなきゃだめ だって いや だから にげてきた の)


神是:は?入院が必要だと……?そんな患者相手に大捕物してやがったのか。ったくどんくさい野郎共め…


駮馬:(びょーいん きらい こわいひと いやなひと いっぱいいる から)


神是:(しかしカルテを見ても、病名が記されてねーな…。ステータスが"診察中"のまま止まってやがる…)


つまりお前、医者が嫌いなのか?


駮馬:(ちがう の ほんとうに いやなのは おなじ おへやに こわいこが きちゃうこと なの ここ しずかで おちつく の)


神是:落ち着いて居座られても、困る。俺の部屋ではお前に必要な診断、治療ができないからな。気が済んだらさっさと担当の所に戻れ。


駮馬:(おじさん は ぼくの こと なおして くれないの かな)


神是:生憎俺は……医者としてこの病院に勤めてるんじゃねえよ。死んだ人間の担当をするためにいる。


現に、こんだけお前と喋っても…今のお前に入院が必要な理由はさっぱり分からん。受け答えも問題なし、外傷や目立った症状もない。


だからこそ俺んとこで居候させる訳にゃいかんのだ。命に関わる病気かもしれん、投薬や他の治療が必要な病気かもしれん。どんな理由であれ必要と判断されたなら、担当の元で指示に従え。


もしお前が、素直に担当の指示に従うのなら、俺も配慮しよう。体調や治療との兼ね合いを検討しながらにはなるが……


時々この部屋に連れてきてやるよ。基本的に鍵が掛かってるから、俺を含めた医者しかここに立ち入ることはない。


(樹は胸元にぶら下げている身分証を示した。この事務所を閉ざす電子錠も兼ねているからだ)


騒々しいガキんちょ共が居ないから落ち着くんだろ?俺も連中は嫌いだから、お前の気持ちはわかる。


駮馬:(でも おそとでる の こわい たぶん おこられる から)


神是:…………当たり前だろ。


(その時、電子錠を解錠してキモナシが入ってきた。お目当ての人物が大人しくしている様を見て驚いたようだ)


キモナシ:…………え。な、なんで樹の所に愁君が居るの?(樹の事もそうだし、この部屋の事…怖くないのかな?)

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