妖精の羽

恩、羽、(運命)

妖精の羽の修復士が妖精女王の怒りを買うはなし







 あるところに、たいへん手先の器用な男がおりました。取っ手の欠けたポットも足が折れた椅子も彼の手にかかれば元どおり。新品同然の輝きを取り戻します。

 あるとき、男のもとに妖精がやってきました。蝶のように小さく可憐な妖精は、さめざめと泣いていました。彼女の羽は無残に破れていたのです。


 あなたはなんでも直せるのだと聞きました

 どうか私の羽を直してください

 どうか、どうか


 涙ながらに乞う妖精があんまり可哀想なので、男は彼女の願いを叶えてやることにしました。

 蟲の死骸から羽を取り、太くて丈夫な蜘蛛の糸を針に通して、破れた羽をそうっと縫い合わせます。

 出来映えは見事なものでした。ところどころ微妙に色合いの異なる羽は、虹のような輝きを帯びています。

 妖精はたいそう喜んで、男にお礼のキスをすると、森へ帰っていきました。


 その日の晩のことでした。

 妖精女王の使いが男の家を訪ねてきて、妖精の国に攫ってしまいました。女王は男が助けた妖精の美しい羽を見て、自分もそれが欲しくなったのです。

 しかし、深い夜の色を持ち、月の輝きを宿した女王の羽は、どこにも直すところなどありません。それでも羽を欲しがる女王のために、男は渋々ながら飾り羽を作りました。

 妖精の国に咲く柔らかな桃色の花と、葉脈の透けた透明の葉を縫い合わせた美しい羽でした。

 羽の出来映えに満足し、すっかり男を気に入った女王は、男を妖精の国に留めようとしました。

 しかし男は女王の誘いを断って逃げ出します。

 女王はたいそう怒りました。燃え盛る炎のように怒りました。森を逃げる男の耳にも、怒り狂う女王の叫びが轟きます。暗い森の中で帰り道も見失って、もう駄目だと思いました。

 しかしその時、声が聞こえたのです。女王の叫びではありません。もっとかすかな優しい声です。顔を上げると、そこにはあの日助けた妖精が立っていました。


 あなたの家はこっちよ

 ついて来て


 妖精は森の出口まで道案内をしてくれました。別れ際に、彼女は儚く微笑みました。


 私の破れた羽を繕ってくれてありがとう

 これはせめてもの恩返し

 さあ、お逃げなさい

 遠く遠くへお逃げなさい


 男は一目散に駆け出します。遠く遠くへ走ります。そうしてどうにか女王の手から逃れることができました。

 しかし妖精女王の怒りを買った彼の指は、もう二度とものを直すことはありませんでした。呪われた指は焼け落ちた薪のように黒く染まり、触れるものを死の灰に変えるばかり。

 男は分厚い手袋で指を隠し、生涯それを外すことはありませんでした。

 そして男を逃がした妖精は、激昂した女王によって、その羽を、






 ——私の手袋が気になりますか?


 いえ、失礼。じっと見ているようだったので、つい。

 良い手袋でしょう。これは夢食い羊の皮で作られた、軽くて丈夫な優れもので……おや、そんな話が聞きたいわけではない?

 ははあ、なるほど。

 これは私の話じゃないかと、お客さんは疑っているんですね。

 では、その目で確かめてみるといい。私の語った与太話が、現実に起こったことなのか。


 さ、この手袋を外してご覧なさい。



















▶︎外す

▷外さない


運命は回収できませんでした

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