第516話 帰還2


 オオカミらしき大型犬?に囲まれた俺はゆっくり息をいて気持ちを落ち着かせた。


 なんちゃってエアカッターをいつでも使えるよう意識しつつ、ミニマップにも注意を向けて敵の接近を待つ。しげみの中でオオカミが俺の周りをゆっくりと回っているのが分かる。俺のすきでも突こうというのだろう。


 ザザザザザ。


 下草を踏みしめて、正面からオオカミが接近してきた。左右に体をずらせながらの突進だ。オオカミはあと五メートルほどに俺に近づいてきたところでジャンプ。


 ジャンプ中は当然方向転換できないので、オオカミは空中を直進している。


 俺は余裕を持って、なんちゃってエアカッターをオオカミの体の真ん中に縦に発動した。


 オオカミの体が左右に分かれて血や内臓をまき散らせながら俺の体をすり抜けていった。初めて生き物になんちゃってエアカッターを発動したがこいつはエグイってもんじゃないな。


 思いっきりいろんなものを浴びてしまった。俺の体は指輪の撥水はっすい効果のおかげでそれほど汚れはしなかったが着ていた服がびちょびちょだ。


 最初の敵だったので、よく観察しようとしたのが裏目うらめに出てしまった。


 今のオオカミの攻撃に引き続いて後ろの方から俺に二匹ほど迫っていたが、仲間が真っ二つになってしまったところを間近まぢかに見たせいか、その二匹は接近を取りやめて後ろの方にUターンしていった。


 今のできごとが相当ショックだったのか、あれ以降俺を囲んだオオカミたちは全く仕掛しかけてこようとしない。


 じゃあいいや。


 俺を囲んだオオカミを無視して先を急ぐことにした。先ほど浴びた諸々が異臭を放っていて、非常に臭い。これだとオオカミならいつまでも俺の臭いをかぎ分けることができるだろう。


 案の定オオカミを無視して東進する俺の後ろを、オオカミたちが追ってくるようだ。たまに遠吠えが聞こえてくる。このまま進んで人里ひとざとまで出てしまうとマズいので、やはり何とかしなければいけない。


 仕方がない。一発デカいのでおどして追い払おう。


 後ろを振り向いて、適当に瞬発爆弾を三発ほど送り込んでやった。


 ドドドーーン!


 腹に響く音と一緒にオオカミのキャッキャンうるさい悲鳴とたくさんの鳥の羽ばたき音が上がった。


 オオカミたちの鳴き声は散り散りになって段々遠ざかっていった。


 弱いものいじめをしてしまった。


 オオカミは鼻が利くはずなので、いったん遠くまで散って行ったとしても俺がどこにいるのかはわかるのだろうが、あえて近づいてはこないだろう。人の気配や小さな村落があっても近づかないようにして先を急ごう。



 昼休憩を挟んだあたりで雨もみ、少しずつ晴れ間がのぞいてきた。途中にあった沢の脇で汚れた服を脱いで、水の中に入ってさっぱりした。雨で水量が増していたら濁っていたかもしれないが幸いなことに水はきれいに澄んでいた。


『雨にも負けず』を着けたまま水の中に入ったのだが、水の中では特に気にならなかった。水から上がって軽くその場ジャンプしたらすっかり水気が飛んでタオルでの拭き取りがかなり楽だった。何気に便利な指輪だったようだ。



 新しい服を着て、軽く昼食を済ませ、東進再開。オオカミたちはもう追ってきてはいないようだ。



 陽も傾いた夕方近く。知らぬ間に木々の数がまばらになり地面も平坦になってきている。あと、二、三十キロも東進すれば街道に出れそうだ。


 山の中に比べるとかなり移動が楽だ。これなら走ることもできる。日が暮れて真っ暗になるまで頑張って街道を目指そう。



 後ろの山のに陽は沈み、進行方向はかなり暗くなってきた。その代り村落が近くにあるようで畑もあれば道もある。


 もちろん舗装されていない土の道なのだが、道があるのとないのでは走る速さがケタ違いだ。



 後ろの西の空がすっかり暗くなるころ、とうとう街道にたどり着いた。


 街道を右手、南に進めばセントラルだ。『スカイ・レイ』が直進して王都からドラゴンの穴まで七百五十キロの距離だったから、おそらくここからだと、王都まで六百キロ程度はあるだろう。いずれにせよ目途めどは立った。



 辺りはすっかり暗くなったが、星空の下、敷石で舗装された街道は足元がある程度見えるので走れないわけではない。この時間、街道上には馬車も人も見えなかったが、まだまだ走れるので頑張って南へ向けて走ることにした。


 三十分ほどかなりのスピードで走っていたら、前方に街並みが見えてきた。宿場町だ。


 王都ではないので、ちゃんとした風呂はないだろうが、今日は宿屋に泊まろう。


 宿場町に入り、街道沿いに歩いていたら、それなりに大きな宿屋が道に面して建っていた。



 宿屋でシャワーのある部屋を訪ねたら、二人部屋が一つ空いていた。値段はそれなりだったのだろうが、お金についてはあんまり気にならなくなっているので、その部屋を取った。



 案内された部屋で、さっそくシャワーを浴びてさっぱりして、早々にベッドに入った。




 四日目の朝。


 昨日早く寝たせいか暗いうちから目が覚めたので、そのまま起き出した。顔を洗って朝の支度をして朝食をとりに一階の食堂に下りていったらまだやっていなかった。


 朝食はどこでも食べることができるので、街道が馬車などで混まないうちに出発することにした。


 今の時間はおそらく五時前なので、頑張れば日が変わる前には屋敷に戻れそうだ。


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