第510話 決戦! 1、エンシャントドラゴン


 今三匹のエンシャントドラゴンが北の砂漠の空を舞っている。空は先ほどまで晴れ渡っていたが、急に厚い雲が現れ、昼だというのに辺りは暗くなってしまった。そのうち、雷鳴もとどろき始めた。


『魔界ゲート』の表面の上を走っていた赤い模様から幾筋いくすじもの稲妻の立ち上がり、それが砂の地面に当たると、バシッ! と音がして砂がはじけ飛んでえぐれていく。オゾンと思われる臭いも漂ってきた。見た目にヤバそうな状況だ。




 昼少し前。


 そろそろ『魔界ゲート』に変化が起こるころだ。俺とアスカは艇内で早めに軽く昼食を済ませ、俺はフーを装着して『進撃の八角棒』を手にして準備完了。やはり、フーの眉間が青く輝いている。フーもやる気を出しているのだと思っておこう。


 アスカは以前言っていたように『武術家』シリーズの上下その他を装備し、『大魔導士のローブ』をその上から着て、最後に、二本の『ブラックブレード』を差した『ソードダンサーの剣帯』を着けて完全武装している。


 準備の終わった俺たちは艇外に出た。


『スカイ・レイ』をいつものように収納しようと思ったのだが、俺にもしものことがあった場合を考えて思い直し、収納せずそのままにしておいた。



「アスカ、でっかいドラゴンが飛んできたと思ったら、頭の上でぐるぐる回ってるんだけどどうしたのかな? この前のドラゴンの墓場でドラゴンの死体が光ってたけど何か関係があるのかな?」


「何とも言えませんが、何もせずに『魔界ゲートの』上空でドラゴンが舞っているわけですから、ドラゴンも『魔界ゲート』の開放に関心を持っていることは確かなようです。

 関心を持っていようがいまいが、邪魔だてするようならマスターが魔石を抜いて処分してください。エンシャントドラゴンはいい素材になるので三匹分も手に入ればかなりの収穫になります。

 大きさからみて、上で飛んでるドラゴンはエンシャントドラゴンでしょうから、邪魔立てするなといえば理解するとは思いますがどうします?」


「素材ならあの一匹で十分だから、あいつらにここに何をするためにやってきたのか聞いて、邪魔しないように言ってくれるか?」


「分かりました」




「おーい、そこのドラゴン。私の言葉が聞こえるか? 私はマキナドールだ。その意味が分かるか?」



『マキナドール。魔力無きいにしえの大魔王』


『マキナドールは知らぬが、その計り知れぬ力は無慈悲な死』


『どうした、青龍アドラー、白龍ピアジェ? こんな虫けらはひねりつぶしてすぐに魔族をたおすぞ。まもなく『魔界ゲート』が開く』


『赤龍ヴント、よせ。死にたくなければ、決してあれに敵意を向けてはならぬ。あそこにいるのは、言い伝えにある古の大魔王、そして無慈悲な死と呼ばれた化け物なのだぞ』


『言い伝えなどたわごとだろう?』


『いや、われは一度、いにしえの大魔王を見ておる。その時は我もまだ幼かったのだが、あれに敵意を向けた一族の者は全て首を落とされ死んでしまった。今の我よりよほど強い龍でさえもだ。我は恐ろしさで震えておるしかなかった。それゆえ今生きておる』


『我の眷属けんぞくもほとんどがあれに挑み無残に首を落とされ死んでいった。もう一度言おう、死にたくなければ、決してあれに敵意を向けてはならぬ。黒龍ソーンダイクは愚かにもあれに挑んで死んだに違いない。救いは彼奴きゃつが眷属を持たなかったことだな』


『……』



「アスカ、あいつら頭の上でくるくる回ってるけどどうしちゃったのかな?」


「さあ、私の言葉は理解しているようですが、もう一度言ってみましょう」


「おーい。お前たち、これから『魔界ゲート』が開いて魔族があふれ出てくるのだが、お前たちは何をしにここに来ている? 邪魔をするようならお前たちを先にたおしてしまうぞ」


『申し訳ありません。マキナドール殿。我らは、我らの魂の還る場所を魔族から守るためにここにやって来たのです。決して邪魔などいたしません』


「魂の還る場所とは?」


『我らが最期を迎えるべき聖地です』


「もしかして『アンカー』のあるドラゴンの墓場のことか?」


『そうです。魔族は「アンカー」をわがものにするため『ゲート』を通じてこの世界に現れるのです』


「『アンカー』とは実際のところ何なんだ?」


『「アンカー」はこの星の中心から魔力を汲み上げる井戸です。「アンカー」のおかげで魔力がこの世界に満ちている。「アンカー」が失われれば魔力もやがてこの世界からなくなります』


「マスター、そう言ってますがどうします?」


 いろいろなことが分かったが、今はそれどころではない。


「ドラゴンが魔族をたおすというのなら、アスカも鋼球を使わなくても済むから、空を飛ぶような魔族がいたらそいつら専門で斃してもらったらどうだ?」


「そうですね。そうしましょう」


「おーい、ドラゴン。お前たちは、空を飛ぶ魔族をたおしてくれ。へたに下を攻撃して邪魔はするなよ」


うけたまわった』



「少しは頭のあるドラゴンのようでしたからある程度は役に立ちそうですね」


 エンシャントドラゴンをあごで使うアスカさん、パねーです。






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