第511話 決戦! 2


『魔界ゲート』の正面に新しく作られた前進拠点はぐるりと四方を強固な外壁で囲まれ、後方のやや高い場所に据え付けられた台座の上の魔導砲の砲列が『魔界ゲート』の少し手前に狙いを定めている。


 魔導砲一門に対し、二名の砲手が配され、『魔界ゲート』が開放されて魔族があふれ出すのを待っている。ここに据え付けられている魔導砲は、アデラ・ベルガーがセントラル大学の助教授時代、騎士団の要請で開発した改良型魔導砲で、これまでの魔導砲に比べ、目標の破壊力が五割ほど強化されている。


 改良型魔導砲の欠点を強いてあげれば、砲の寿命が短くなったことだが、今回の対魔族戦において想定される砲撃戦闘時間から考えて砲の寿命を気にする必要はない。



 魔導砲の前には、一段下がって、マーロン魔術師団長に率いられる攻勢魔術士百名と賢者サヤカ、それを強化補助する補助魔導士二十名が並び、外壁のすぐ近くに百機の大型クロスボウバリスタが五十機ずつ上下二列に並んでいる。大型クロスボウバリスタ二人がかりで操作するため、総数二百名が大型クロスボウバリスタにとりついている。


 その他に、勇者ヒカルとアデレート王国最精鋭の第1騎士団の二十名からなる勇者隊と第2騎士団を中心とする突撃隊四百名と予備部隊二百名が、新拠点西側にある門の後ろに待機している。聖女モエはそれぞれの持ち場をまわり、兵士たちに祝福を与える予定だ。




 三匹の巨龍が上空を旋回し始めた時には、騒然とした前進拠点だが、龍たちは上空で旋回を続けるだけで拠点に対し何もしてこないようなので、兵士たちも落ち着きを取り戻していった。



 時刻が正午に近づき『魔界ゲート』の赤い模様の輝きが一気に増し、ひときわ大きな稲妻が走った。


 ゴゴッ、ゴゴゴゴ!ゴゴゴ。ついに『魔界ゲート』が開き始めた。





「アスカ、そろそろのようだぞ。俺たちももう少し『魔界ゲート』に近づこう」


「はい、マスター」


 俺たちは、前進拠点からの遠距離攻撃を浴びないよう、北東方面から『魔界ゲート』近づいて行った。





「魔導砲発射用意!」


「クロスボウ隊、爆裂ばくれつボルト装着!」


「攻勢魔術士隊、詠唱えいしょう開始」


「突撃隊、突撃準備!」


「聖女さま、祝福をお願いします」




『魔界ゲート』が開き切り、地鳴りのような振動と一緒に魔族がゲートからあふれ出てきた。


 最初にあふれ出た魔族の外見は角のないオーガのようで、真っ黒い胴着のような服を着こみ、服の外に現れた体は青みがかった濃い灰色、赤い目がきょろきょろと動いている。武器は両手持ちのメイスのような鈍器だ。


 ゲートからあふれ出た魔族の中には翼を持つ者もおり、現れるや否や、翼をはためかせ大空に舞い上がっていく。


 しかし、その飛行型の魔族は上空で待ち受けていた三匹のエンシャントドラゴンに、あるものは焼かれ、あるものは氷漬けにされたうえ砕かれ、あるものはまばゆい光の中で消えて行った。





「魔導砲発射!」


 ドーン!


 拠点に並べられた魔導砲が一斉に火をき発射音が重なった。魔族がひとまとめになって砂とともに吹き飛んで行く。


「バリスタ隊、爆裂ボルト発射!」


 ヒューン!


 射程を本来の二倍ほどに伸ばした特別製の大型クロスボウバリスタの弦にはじかれたクロスボウの矢ボルトが何かに命中したとたん爆発し、魔族の手足を吹き飛ばしてゆく。


「攻勢魔術士隊攻撃開始!」


 多くの火球が魔族に向かって放たれ、これまでの攻撃とは違う大きな爆発が起こり、魔族がなぎ倒され焼かれていく。


 さらに別の場所から放たれた炎の渦が魔族を飲み込んでいった。賢者の放ったファイヤーストームだろう。


 魔族側からも、火球が何発か飛んできたが、聖女の祈りにより火球は勢いを弱められ、拠点の外壁を超えることはできなかった。


 焼かれ、吹き飛ばされていく魔族の後ろから、更に魔族が湧き出してくるが勢いは少し収まって来たかに見える。 


 突撃隊に対し、聖女モエが祝福を授ける。


「ブレス・オール!」


 モエは次に出撃する勇者たちの方に走っていく。


「突撃隊、五で門を開く。五、四、三、二、一。今だ!」


 一気に開かれた拠点の西門から第2騎士団を中心とした突撃隊が遠距離攻撃を生き残った魔族の先頭集団に向け突進して行く。彼らは決死隊として、勇者の進撃が魔族に邪魔されないよう魔族の攻撃を受け止める役割を負っているのだ。


「勇者隊、お願いします。

 聖女さま、祝福を」


 聖女モエが勇者隊にむけ祝福を授ける。


「ブレス・オール!」


 聖女の祝福を受けた勇者ヒカルと第1騎士団の精鋭二十名は突撃隊に続き西門から飛び出していった。


 ゲートまでの距離は約二百メートル。勇者隊は、突撃隊が中央部で魔族を抑えている間、西に回り込みながら南にあるゲートを目指す。突撃隊の隊列を擦り抜けてくる魔族を勇者隊から飛び出した騎士が相手をし、勇者ヒカルの前進を阻むものを阻止して行く。この突撃路と魔界ゲート周辺はあらかじめ地表の砂を砦の外壁のように固めており、砂で足が取られないようにしている。






「アスカ、空はドラゴンに任せて大丈夫のようだな」


「そのようですね。上空の敵を撃ち落とすため鋼球を使うと、鋼球の受け渡しでマスターに負担がかかりますからちょうどよかったです」


「おっ、勇者が出てきたようだ。アメリカンフットボールだかのボールを持った選手をまわりの選手が守るような感じだな」


「勇者をゲートに何としてもたどり着けたいみたいですね。何か思惑があるのでしょう。魔族の方ですが、ここまでの戦いを観察したところどうも斬撃ざんげきには強いようです。切った端から繋がってしまうようで、うまく切り飛ばさないと斬撃では効果があまりないようです」


 戦況を眺めながらアスカは魔族を分析していたようだ。


「俺も見てるんだが、どうもあいつら魔石もないみたいだ。それに『鑑定』もできない。やっかいだな。それでどうする?」


「マスターは、高速弾を使った内部破壊攻撃で魔族の体を吹き飛ばしてください。八角棒の打撃も魔族に有効そうですから、近づいた敵は八角棒でたおしてください。私は、『ブラックブレード』を魔族に打ち付け・・・・何とかします」


「斬撃は効きにくいんじゃなかったのか?」


「斬撃はそうですが、衝撃波は効くと思います。刀のみねで衝撃波が魔族の体外に漏れないよう『ブラックブレード』を打ち付けます」


「それより手足の打撃の方が手数が多くないか?」


「ほとんど変わりません。刀を使う方が間合いが広くなる分、結果的に敵をたおす数は増えると思います」


 アスカはそういって二本の『ブラックブレード』を腰でクロスした鞘から抜き放った。

 

「行くぞ、アスカ!」


「はい。マスター」




 俺も『神撃の八角棒』を両手で構えて走り出す。走りながら、


「拠点からの遠距離攻撃も有効そうだな」


「敵がまだ遠距離攻撃を行っていませんから今は一方的ですが、これからどうなるか分かりません。早めにゲートに近づきましょう」


「了解」



 俺たちは砂煙を上げて『魔界ゲート』に向かって走り始めた。突然の砂煙に前進拠点に走り寄る魔族の数匹が気付いたようだが、それがたった二人の人間だと分かり、俺たちを無視して前進拠点に向けて走り続けていった。



 中間地点辺りで混戦が始まり、拠点側の遠距離攻撃が下火になったところを突いて、『魔界ゲート』から湧き出したやや細身の魔族の一群が、大型の火球を放ち始めた。放たれた火球が着弾したのは、混戦の真っただ中で、敵味方見境なく吹き飛ばされた。細身の魔族が次の詠唱を終え、火球が膨らみ始めたところで、アスカが間に合いブラックブレードを振るった。


 ブラックブレードが振るわれた細身の魔族はそれが生み出した衝撃波を体内ですべて吸収した結果、内部を液状になるまで破壊され、自重を支えきれず潰れて行き、黒い霧のようになって消えて行った。眼窩がんかから飛び出した真っ赤な眼球もやがて消えて行った。


 目星めぼしをつけた一群の魔族を一瞬で殲滅せんめつしたアスカは、引き続き『魔界ゲート』から湧き出す魔族を片っ端から黒い霧に変えてゆくのだが、湧き出す魔族の方が多く、アスカの脇をすり抜けて勇者の方へ抜けてゆく魔族が何匹も出始めた。


 俺の方に向かってくる魔族は久しぶりに振るう『神撃の八角棒』で面白いようにはじけ飛んで行く。アスカの見立て通り打撃はかなり有効のようだ。ただ敵の数が多いため、分かってはいても敵の攻撃を後方などから受けてしまう。しかし、フーの防御力は思った以上だったようで、全くダメージを受けずに済んでいる。


 それでも、俺自身にそれほど余裕あるわけではないので、アスカの脇をすり抜けてゆく魔族に対し高速弾や瞬発爆弾を使った内部破壊攻撃までする余裕はなかった。その結果、かなりの数の魔族が、勇者の聖剣に引き寄せられるように勇者隊に向かって行った。


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