第509話 決戦前夜2


 結局、ドラゴンの墓場では『アンカー』とドラゴンのむくろが光っていたということしか分からなかった。



 それからしばらくして、俺は十八歳の誕生日を迎えた。


 今年から、屋敷に努めている人たち以外の誕生日パーティーを俺の誕生日に合わせて行うことにした。屋敷にいる連中はもちろん全員参加だ。大型のホールケーキが何個も用意されたが、どれも将来お菓子屋さんを目指しているミラが焼いてデコレートしたものだったそうだ。


 誕生日プレゼントは俺の方からみんなに配った。第一回目の今回は、何にしようかとアスカに相談したところ、対象が全員女性だったこともあり、月並みではあるが生地代込みのちょっと高めの仕立券を渡しておいた。


 みんなから俺へ誕生日のプレゼントとして、アスカが代表して俺に花束とカードを渡してくれた。カードにはみんなの俺への気持ちが書いてあった。それを見て俺がこの一、二年やってきたことが間違いでなかったし、やってきてよかったと涙が出てしまった。


 探したが、なぜかアスカの気持ちはカードには書いてなかった。はて?






 そして、とうとう、『魔界ゲート』開放予定日?の一週間前。


 出発の日までに準備するものとして、アスカは飛行型の魔族に対応するため投擲とうてき用の鋼球を数百個用意している。


 準備する物はそれだけで済んだが、未知の敵である魔族に挑むわけだから何が起こるかわからないと思い、シャーリーを俺の部屋に呼んで、俺にもしものことが起こった場合について話しておくことにした。もちろんアスカも一緒に聞いている。



「シャーリー。五日後になるが、アスカと俺は仕事で数日留守にする。危険はあまりないと思うが、今後のことも考えてお前に言っておくことがある」


 そういうと、さすがにシャーリーも察したようで表情を引き締めた。


「アスカと俺に同時に何かあった場合は、アルマさんとフレデリカさんにお前の後見こうけんになってもらうよう頼んでおくからそう覚えておいてくれ。

 商業ギルドにあるアスカと俺の口座はすぐにお前が引き継ぐことになる。

 成人したら、お前がコダマ家・エンダー家の当主だ。王宮には届けてある。そしたら今やってる勉強を役立ててくれ。

 家の細かいことはハウゼンさんに任せておけば大丈夫だ。シャーリーは自分のやりたいこと、好きなことをやっていけばいい。

 ただ、孤児奴隷のエルザたち六人のことはよろしく頼むな。

 まあ、アスカに何かあることはないから大丈夫だと思うけどな」


「はい。わかりました」


「あと、これを渡しておく」


 そういって、商業ギルドに頼んでオークションで仕入れたアイテムバッグをシャーリーに手渡した。普段収納を使っている関係で気にもしていなかったが、アイテムバッグは相当高額な品物だった。


「いつまでつかは分からないが、エリクシールやらなにやらが入っている。必要な時はためらわずに使ってくれ。使い方は特に難しくはないが念のためこの紙に書いたから一緒に渡しておく」


「はい。ありがとうございます」


「そんなところかな。アスカ、何かあるか?」


「特にありません。シャーリー、別に緊張しなくていい。マスターに何かあることは万が一にも億が一にもないから心配無用だ」


「そうですよね。いきなりショウタさんにああいったことを言われたので吃驚びっくりしました」


「まあ、あくまで念のためだ。後は、アスカだな」


「はい?」


「アスカ、俺にもしものことがあったら、お前がみんなの面倒をみることになるんだから頼んだぞ」


「マスターが生きている限りマスターのかたわらにいて、マスターの亡くなった後も千年はマスターの係累けいるいのことをみていくと約束していますが、マスターが老衰以外で何かあった後のことは正直分かりません。しかし、マスターに何かあるようなことは私がいる限りあり得ませんから、マスターの頼みは無意味です」


「そうかい。妙に回りくどい言い回しだな。それじゃあ、そういうことにしとくよ」



 真面目まじめな話をしていたんだが、シローがシャーリーを探してプープー言わせながら俺の部屋にやって来たので真面目な話はそれで終わった。




 翌日、俺はアルマさんの屋敷に行き、アルマさんとフレデリカ姉さんにアスカと自分にもしものことが有った場合のことを頼んだ。


 いきなりの話なので凄く驚かれたが、シャーリーのことについては快く了承してもらえた。ついでに、エンシャントドラゴンの血の入った大瓶を数本置いていった。


 ここまでやっておけば、逆にフラグがへし折れるんじゃないだろうか。





 俺とアスカはその四日後。ゲート開放予想日の前日。午後四時ごろ予定通り北の砂漠、『魔界ゲート』を目指し屋敷のみんなの見送りの中『スカイ・レイ』に乗り込んだ。


 フーについては、部屋を出る前に、いったん収納し、試しに装着したところ、一瞬フーの眉間みけんが青く輝いたような気がした。鏡を見ていたわけではないのであくまでそういった気がしただけだ。



「『スカイ・レイ』 発進!」


「『スカイ・レイ』 発進します」




 北の砂漠まで千二百キロの距離を四時間弱。


 出発したのが、夕方近くだったため、到着したのは午後八時過ぎだった。


 北から回り込むように『魔界ゲート』から五キロほど離れた砂漠の窪地くぼちに『スカイ・レイ』は夜間着陸した。


 特に隠れる必要はないが、勇者たちとこの時点で顔を会わせたくなかったので少し離れた場所に『スカイ・レイ』を着陸させたわけだ。


 俺とアスカは『魔界ゲート』の開放予想の明日まで『スカイ・レイ』の中で待機することになる。

 

 こちらからでは、砂の小山が邪魔になって北の砦はもちろん新しい砦も『魔界ゲート』も見えないので、明日あした夜が明けて明るくなっても、向こうからこちらは見えないだろう。



 こういった待ち時間はなかなか速く過ぎて行かないものだ。それでも、アスカと一緒に遅い夕食を『スカイ・レイ』の中でとり、二人でキルンのダンジョンで出会った時からの話をしていたら、知らない間に座席の上で眠っていた。





 翌日。


『スカイ・レイ』のキャノピーから朝日が差し込んで目が覚めた。


 気づいたら、どこに置いてあった毛布なのか分からないが、毛布がかけてあった。


 今日の天気は今のところ快晴。



「マスター、おはようございます」


「アスカ、おはよう」


「夜間、異常はありませんでした」


 いつものようにアスカは不寝番ふしんばんをしていてくれたようだ。



 ゲート開放予定時刻は午後零時。正午だ。


 まずは、濡れたタオルで顔を拭いて、さっぱりして眠気を覚ます。


「よし!」


 いつもなら、朝の日課の体操とランニングの時間なのだが、さすがにここではできないので、軽くストレッチをしてから、朝食の準備をした。準備と言っても、ゴーメイさんの用意してくれた朝食をトレイごと二人分出すだけだ。


「いつ食べてもゴーメイさんの料理はおいしいな」


「うちで雇うことができてよかったですね」


「商業ギルドのリストさんが選んだ人物だしな。他のみんなもうちに来てくれてよかったよ」


「そういったところも、マスターの力かもしれませんね」


「まあ、俺は運だけはいいみたいだからな」






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