第508話 決戦前夜1、確認
トンネル東口にはすでに寮も完成し、
冒険者学校の卒業生のなかで、『鉄のダンジョン』で稼ぎたいという連中が仮宿舎としていた今の冒険者学校から移ってきている。
彼らは毎朝、朝食をとり、寮で用意した弁当を持って、トンネルを一キロちょっと上って『鉄のダンジョン』に入っていく。四輪車については買い取らせており、チーム名を付けてダンジョン入り口の脇あたりに邪魔にならないよう置かせている。
彼らが持ち帰ったゴーレムの素材についてはペラが管理しており、全部買い取っている。今のところ申告ベースなのだが、専門の人員を雇い入れる予定である。さらにゴーレムの素材置き場から素材を列車に積み替え、トンネル東口を通り王都南駅まで運ぶための人も雇い入れる予定だ。
そういった作業員は当初は王都からの通いになるが、いずれこちらも寮を作る予定だ。
冒険者学校の四期生も順調なようで、もうしばらくすれば卒業実習旅行、そして卒業だ。学校を開いて約一年。ここまで大きなケガもなくやってこれたのは、ペラを始め学校のみんなのおかげだ。ありがたいことである。
夕食後、いつものように居間のソファーで隣に座るアスカに向かって、
「『魔界ゲート』が開くまで、あと三カ月だな」
「かなり正確に予想できるようで、いまのところゲート解放予想日は変更ないようです。ゲートがどうかしましたか?」
「
「はい」
「夢の中で、フーが俺に身に着けてもらって『魔界ゲート』に連れていってほしいと言ってたんだ」
「相手がフーですから、タダの夢ではないのかもしれませんね」
「俺もそう思った。夢だから俺の潜在意識が生んだ
「『魔界ゲート』からどんな敵が現れるのか分からない以上、フーを装着することでマスターの防御力が少しでも上がるならそれに越したことはないと思います」
「そうだよな。俺はそれでいいとして、アスカの方はどうする?」
「私も、今までのような普段着では高速機動に耐えませんから、最初にマスターから頂いた『武術家』シリーズの上下と装備に、『大魔導士のローブ』、その上に『ソードダンサーの剣帯』を着け二本の『ブラックブレード』を差すつもりです」
「それがいいな。それと、万能薬だがヨシュアたちが頑張ってくれてかなりの数が貯まっているだろ。それを北の砦用だと言って騎士団に渡そうと思うんだがどう思う?」
「万能薬もこの屋敷では使いきれないわけですから、その方向でいいと思います」
「できれば、効果の速い『エリクシール』の方がいいんだろうが、数もないし簡単に出していいようなものでもないしな。『エリクシール』はうちの連中のために取っておこう」
「マスター、そういえば北西の山並みの先に、青白い光の柱が立っているといううわさがあります」
「北西の山並みというと?」
「ワイバーンを狩った時の山並みの先のようです」
「というと、あのドラゴンの墓場の方か? あの時もうっすら光の柱が立っていたものな。今頃急に光が強くなったのだとしたら、なにか『魔界ゲート』と関係あるのかな?」
「あの穴の底にあった黒い『アンカー』ですが材質も『魔界ゲート』とそっくりでしたし、関連がある可能性は高いと思います。ただ、どういった関連なのかは分かりません」
「一度行ってみるか。いまの『スカイ・レイ』なら、無理すれば二千メートルは上昇できそうだから、直接あそこまで行けるんじゃないか?」
「そうですね。往復で千五百キロほどですから、半日もあれば往復できます。明日の午後からでも行ってみましょう」
翌日。
六人の生徒たちの受験勉強を見終えたアスカと、昼食は飛行中に艇内でとることにして『スカイ・レイ』でドラゴンの墓場に向かった。
以前ドラゴンの墓場から立ち上がっていた光柱を見た時は、暗がりの中うっすらとしたものだったが、今回は山並みを越えるかなり前から、明るい午後の空を背景にしてもはっきりと青い光の柱を見ることができた。
「何なんだろうな? 行ってみて何かわかればいいがな」
難所である最後の山並みを越えた先は盆地になっていて、その先の台地の真ん中にドラゴンの墓場の穴がある。
光柱はタダの光と分かっていてもその中に『スカイ・レイ』入っていくのはちょっと怖い。
「このまま、『スカイ・レイ』で光柱の中に突っ込んで行って大丈夫かな?」
「ただの光の柱のようですから、大丈夫だと思います。ただ、穴の底には発光源があるでしょうから、慎重に着陸します」
アスカが慎重に操縦するわけだから何も問題ないだろう。
「これより、低速で光柱中央まで進入し、降下します」
アスカのその言葉と同時に『スカイ・レイ』が青い光に包まれ、キャノピーからその光が艇内を照らした。
「『スカイ・レイ』降下します」
『スカイ・レイ』が穴の中心まで進み、そこからゆっくりと降下し始めた。
前回の時と同様、穴の壁面から滝のように水が流れ落ちてしぶきが水煙になり霧のように広がって穴の底を覆っている。底の方は下から青く照らされている関係で水煙は
小さな振動で『スカイ・レイ』が着陸したことが分かった。
キャノピー越しでも、何かが水煙の中で青く輝いているのが見える。
「よし、それじゃあ外に出て様子を見てみよう」
「はい」
タラップを降りて、穴の底に降り立つと、砂地の上に着陸した『スカイ・レイ』のすぐ横に例の『アンカー』があった。『アンカー』が光源なのではないかと思っていたのだが、思った通り『アンカー』が青い光を放っていた。
青い光を受けながら、試しにしゃがんで『アンカー』を手で触ってみたが、前回と違い、魔力が吸われるようなことは無かった。
『アンカー』の強烈な光の他にも、霧の先にいくつも青い光を放っている大きな光源が見える。どうも、ドラゴンの死体も青く光っているようだ。
近づいていくとやはりドラゴンの表面が明るく光っている。
「ドラゴンの死体も光ってたんだな」
「私もドラゴンの死体は数えきれないほど見てきましたがこのように発光する死体は初めてです」
アスカの場合は、ドラゴンの死体を自分で作ったんだろうがな。いずれにせよ謎だ。
「俺には見当もつかないが、これと『魔界ゲート』に何か関連があるのかな?」
「私にも全く思いつけません」
「ここまで来て何もわからなかったけれど、ここにいても濡れるだけだし、そろそろ帰るか?」
「はい。マスター」
『アンカー』とドラゴンの死骸が『魔界ゲート』にどう関連するのか全く思いつけないので、不思議ではあるが、この発光現象はたまたまこの時期に起こった何かの自然?現象だろうと結論付けた。
俺たちは『スカイ・レイ』の中で水煙で濡れた衣服を着替えて、腑に落ちないまま王都に帰っていった。
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