第504話 サヤカとモエ、ダンスパーティー


「ねえ、サヤカ?」


「なに?」


「この前の大晦日おおみそかに食べたおもち、覚えてる?」


「それはおぼえてるよ」


「その前のとしもそうだけど、あれって、児玉が送ってくれたのよね?」


「うーん。ふつうに考えればそうなんじゃない? 児玉のほかに、おもちはともかくアンコや砂とうであまくしたきな粉知ってる人なんていないでしょ」


「だよね」


「モエ、どうしたの?」


「なんでもない」




「ねえ、モエ、こんど新年のダンスパーティーがあるっていうじゃない。あたしたちもちょっと顔を出してみる?」


「勝手に出席して大丈夫なの?」


「しょうたい状なんてだれもかくにんしやしないよ。もしおこられたら帰ればいいだけよ。モエはきょうみない?」


「興味ないわけじゃないけど、私はダンスなんか踊れないしサヤカだって踊れないでしょ?」


「ゲーセンのダンスゲームじゃないんだから、おどりたいわけじゃないよ。ただようすを見に行くだけだよ。ダンスパーティーなんだから食べ物は立食だろうから、食べながらダンスを見てればいいのよ。きっとカッコいい人いると思うよ。ダンスにさそわれたらこまるけど、てきとうにことわればいいだけじゃん」


「それじゃあ、行ってみようか。どこかで聞いたこと有るんだけど、食事中の人をダンスに誘うのはマナー違反なんだって」


「それじゃあますますちょうどいいじゃん。あたしはいい男がいないか食べながらみておくよ」


「うん、そうしよ。そのうち侍女の人から詳しい情報を仕入れておく」





 ダンスパーティー当日。


 サヤカもモエも二人とも何着かパーティー用のドレスを用意してもらっているが、どのドレスもスカート部分のすそを勝手に切り詰め、ミニスカートになっている。もちろん、今日二人が着るドレスもミニスカートだ。確かに、ミニスカートのパーティードレスは、元のドレスよりも可愛かわいく見える。


 今は今日の訓練を終えたサヤカとモエがシャワーを終えた後、ダンスパーティーの衣装を着ている最中だ。サヤカは既にドレスを着込んで後は装飾品かざりものいろいろなところ・・・・・・・に取り付けるだけだ。


「ねえ、サヤカ。私のドレスの背中、ひもが何本も出てるでしょ?」


「出てる」


「それをギュッってきつく締め付けて結んでくれない?」


「いいよ。どれ、どれ。

 あれ、モエのブラ、後ろのひもすごくきつそうだけどだいじょうぶなの? むねはぜんぜん大きくなっていないのに変ねー」


「胸のことは放っといて」


「分かったわよ。それじゃあ、しめるよ。ギュッ!」


「ううう。我慢がまん、我慢」


「ギュッ!」


「ううううー。我慢、我慢」


「ギュッ!

 モエ、たれてたひもは全部結んだんだけど、ひもとひもの間から、おにくがはみ出てもり上がってるよ。ブラの脇の上からもおにくがはみ出てるし、モエだいじょうぶなの?」


「それ以上言わないで。上から短めのアウターうわぎを着てごまかすからいいの」


「ふーん。モエ、さいきんスイーツ食べる量、あたしからみても多いと思うよ」


「そうかなー、訓練が最近楽になったからだよ。きっと」


「たしかに、ここのところくんれんは楽になったよね。でも、あたしは服が自分で着れないほど太ってないけどなー」


「もう、サヤカの意地悪!

 上着を持ってっと。それじゃあ、準備も終わったし、そろそろ行こうか?」


「ちょっと待ってよ。まだブローチ着けてないし、ピアスも大きいのに代えてないの」





「パーティー会場は一度行ったことがある大広間だったから、こっちの道が近道よ」


「モエ、そんなに急がなくてもいいじゃん」


「それはそうだけど、早めに行った方が良くない?」


「変わんないよ」





「ちょうど、今パーティーが始まったところじゃない? 音楽が始まっているけど、誰も踊ってないから」


「そうみたいね」


「あれ? 女の子同士が出てきた。二人とも可愛かわいいけど、小さい方の女の子、可愛かわい上に美人。二人ともずいぶんダンスが上手じょうずよ」


「王宮のパーティーに来てるくらいだからきぞくの子女しじょってやつじゃん? 小さい時かられんしゅうしてると思うよ」


「こうやって、ダンスを見ていると、なんだか楽しそうじゃない? そのうち私たちも練習してダンスしない?」


「えー、あたしとモエがおどるの?」


「何言ってるのよ、そんな意味じゃないわよ」


「わかってるわよ。この、小エビの乗ってる小さなパン、おいしい」


「どれどれ。……、ほんと美味おいしい。こっちの黒いの、キャビヤじゃない? どれどれ。……、これも美味しー」


「ねえモエさん、さっきから見てるとモエはあたしの倍は食べてるよ」


「えっ! そんなことないもん」


「自分をだましても、体は正直なんだぞ! エイ!」


「こら! 変なところを突っつかないでよ!」




「こうやって見てても、あんまりいい男はいないわね。そもそも若い男の数も少ないし。今日のダンスパーティーは王室主催って話だから、お見合いパーティーってわけでもないだろうしね」


「世の中にころがっているいい男は、もうだれかにひろわれちゃってると思った方がいいよ」


「そだね」



 しばらくそうやって、ダンスを見ながら料理をつまんでいた二人だったが、何曲目かの曲が変わったところで、タンゴが流れ始めた。


「児玉だ! 誰? 一緒にいる美人は?」


「知らないわよ。このまえ見た時のすっごい美人とはちがうみたいね」


「こっちの方は、日本人的な顔立ちだけど銀髪よ。いずれにせよ、すっごい美人」


「はくしゃくでSランクぼうけん者でぶじゅつ大会ゆうしょうしゃ。そこらの美人が放っておくはずないじゃない」


「そうだろうけど、完全な勝ち組よね」


「本人が努力したけっかなら、いいことじゃん」


「サヤカ、あなた変わったね」


「どういうこと?」


「なんていうか、考え方が大人になってきた? そんな気がする」


「んなわけないじゃん。アハハハ」

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