第503話 シャーリーとラッティー、社交界デビュー2
四人でそろって車寄せ近くの出入り口から王宮に入ると、係の人がいて、パーティー会場に案内された。案内された先のパーティー会場は去年の新年のダンスパーティーが開かれた会場と同じ大広間だと思うが確信はない。
パーティー会場の扉は開け放たれていた。
「どうぞ。中にお入りになりしばらくお待ちください」
案内の人はそう言って戻っていった。
会場の中はシャンデリアに明かりがともされ非常に明るい。そろそろパーティーの始まる時間なので、会場には百人近い人がいた。去年と同じ部屋だろうがそうでなかろうが、すっかり忘れ果てた俺にとっては初めて入る部屋だ。何だか見たことがあるようなないような。見たことがあるようだと思っても、デジャヴかも? と思うと自信は無くなる。
「特に
そろって、会場の端の料理などの並んだ
昨年の新年のダンスパーティーでは、露骨にアスカのことを目で追っていた連中がたくさんいたのだが、アスカもすでに王都では有名人なので去年ほど露骨な視線はないようだ。
「マスター、最初の出仕日に
「そうだったか? 全然気づかなかった」
「それで、一応挨拶に行きますか?」
「行くほどでもないだろ。何にしても誰一人名前も顔も覚えていないから挨拶したくてもできないから」
「そうですか。顔と名前は私が覚えていますのでなんとでもできますが」
「気は進まないけれど、そこまでアスカに言われたらパーティーが始まる前に一回りして
そういうことで、アスカの後について挨拶回りだ。もちろん、シャーリーとラッティーも一緒だ。ラッティーはこの国ではアスカの養女で、保護者は俺とアスカということになっている。そのためラッティーに送られてきた招待状もラッティー・エンダー
将来のことを考えれば、ラッティーは本名であるリリム・アトレアの方がいいだろうということで、挨拶回りでラッティーを紹介する時、俺とアスカが
アスカに連れられて五人ほど
「それじゃあ、シャーリー姉さん、一緒に踊ろ?」
ラッティーがシャーリーの手を引いて大広間の真ん中にいこうとするのだが、最初の演奏だったせいで踊る人はまだいないため、かなり目立ちそうだ。
「えー、だれもまだ踊っていないよー」
「その方が、目立っていいの。せっかく来たんだから目立たなきゃ」
「もうー。ラッティーちゃーーん」
そのままラッティーに引きずられるような形でシャーリーが連れていかれ、結局二人で踊り始めた。
すぐに他に何組かダンスを始めたので、シャーリーも少しは落ち着いたみたいだ。嫌がってはいたが、シャーリーのステップは正確で乱れはない。タンゴの鬼の俺がそう評価する。間違いない。ただ、いま演奏されている曲がタンゴでもなくワルツでもない事しか俺には分からないのだがな。
会場の奥の方を見ていたアスカが急に、
「マスター、私たちも踊りますか?」
「タンゴが始まったらな」
アスカも分かっているだろうに、何を今さら。
次のなんだかわからない曲が始まって、シャーリーとラッティーが帰ってきた。顔を赤らめたシャーリーと普段通りのラッティーが対照的だ。
「それで、シャーリーはすこしは落ち着いたのか?」
「落ち着いたような、そうでもないような。よくわからない感じです」
「それでもちゃんと踊れてたからいいんじゃないか?」
「えー、あんなにステップ間違えてたのに?」
ステップを間違っていたということは、シャーリーのステップが完璧だと俺の目には映ったのだが、俺の目に狂いがあったということか? タンゴ
俺はアスカたちと違って、アスカとリリアナ殿下以外の誰からもダンスに誘われない自信があるので、悠然と構えていることができる。アスカとシャーリーはそうでもないようで、テーブルの上の大皿に並べられた料理を小皿に取り分けて食べ始めた。ラッティーもシャーリーから少し分けてもらって食べ始めた。
アスカ目当ての男性が、俺たちの方に近づいて来るのだが、アスカが食事を始めたので遠慮して遠巻きにしている。その連中が知人同士で話している言葉がとぎれとぎれで聞こえてきた。
「……ミスリルの輝き……」
「……白銀の女神……」
……。
うん? 何だ? もしかしてアスカがアイドルに祭り上げられている? 可能性はあるな。今日のアスカの衣装は俺から見ても
そうこうしていたら、曲が変わって、ついにタンゴが始まった。
「マスター、エスコートお願いします」
「喜んで」
俺にしてはいい受けごたえができた。
ふん。ザマー見ろ!
なんとなく優越感を持ったぞ。
アスカの片手を取って、広間の中央に進み出る。
アスカの肩に左手を軽く添え、右手はアスカの左手を下から持ち上げるように持つ。そのときアスカの右手は俺の肩に回されている。
他に何組も踊り始めていたので邪魔にならないよう間隔をとって最初のステップを踏む。
クイック、クイック、クイック、クイック、回りながらスロー。
今日のステップはいつも以上にキレがあって、いいじゃないか。
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