第502話 シャーリーとラッティー、社交界デビュー


 今日は今年も王宮で開かれた新年のダンスパーティー。


 今年は、俺とアスカだけでなく、シャーリーとラッティーも参加する。二人の経験のためリリアナ殿下に頼んで二人も招待してもらったわけだ。


 俺とアスカもこの日のために新しい衣装を揃えたが、シャーリーとラッティーも新しい衣装を揃えている。ラッティーは以前エメルダさんから頂いた衣装がたくさんあるので必要ないと言っていたが、それはそれこれはこれ。保護者としてはできることはしてやりたいので、ラッティーにも新しい衣装を揃えさせた。


 シャーリーのドレスは紺に近い青い絹のサテン。サテンと言われて俺が分かるわけはないのだが、光沢があって見た目に豪華だ。


 ラッティーのドレスはエンジに近い赤い絹のサテン。こちらも光沢があって豪華だ。


 二人とも薄く化粧をしている。


 こういったドレスを着ると、シャーリーはもちろんラッティーでさえ大人びて見える。特にラッティーがパーティーの用意をして出てきたところを最初見た時、子どもの顔つきに大人びた服のアンバランスさにちょっとドキッとしてしまった。


 靴は二人とも磨き上げられた黒のエナメル靴を履いている。


 装飾品としては特に何も用意しなかったのだが、なぜか二人ともこの前のビンゴの賞品の指輪を左手の薬指にしている。


 そういえば、今回うちの女性陣はアスカも含めてみんななぜか左手の薬指に今回の指輪をはめていた。みんなリリアナ殿下のマネでもしているのか? そういえば俺も左手の薬指にはアスカと同じ指輪をしていた。


 俺も靴はエナメルの黒い革靴だ。今日のズボンは白。ちょっとオサレだ。下が白いズボンなのでシャツの方は水色のものにした。その上からいつもの黒い絹製のサッシュで締めた。


 上着は黒で裾はやや長め。刺繍が入っているが生地と同じ黒糸の刺繍のため目立たない。そのかわり生地全体が立体的な感じが出ている。と仕立て屋さんから聞いている。




 アスカは髪の毛が銀色なので、今回も銀糸ぎんしの幾何学模様の刺繍入った光沢のある白のロングドレスだ。ただ、今回は銀糸の他に金糸も入ってアクセントになっている。足元もいつものように銀色の革靴だ。やはりアスカには銀色がよく似合う。前回のパーティーでは装飾品をちゃんとつけていたが、今回はあの指輪だけで十分だと言ってそれ以外何も身に着けていない。装飾品が有ろうがなかろうが美人であることには変わりないので、今日もダンスに誘おうとするヤカラが大勢やってきそうだ。



 いまは四人でサージェントさんの馬車に乗って王宮に向かっている。時刻は午後六時少し前。空はすっかり暗くなっている。開会の少し前に到着するつもりで屋敷を出ている。



「私大丈夫かなー?」


「シャーリー姉さん、全然大丈夫だよ。ダンスするだけだし、だれかとお話すなら学校の話をしてればいいだけだよ。どうしてもいやなら、ずーっと食べててもいいんだから」


「ラッティーちゃんはドキドキしないの?」


「全然」


「ラッティーちゃんは、王女さまだもんね」


「王女さまでも小国の王女さまなんか全然偉くないよ。そんなのより、大国アデレート王国の貴族のお嬢さまの方がよほど偉いと思うよ」


「アハハ。ラッティーちゃんの言う通りだったとしても、周りはみんな貴族の人なんだよ」


「困ったなー」


「シャーリー、最初は緊張するかもしれないけれど、ラッティーの言う通り気楽に構えていればいいんだよ。そうだなー、一度踊ってしまえばなんてことがないってわかると思うぞ。俺が相手になってもいいけれど、俺だとタンゴしか踊れないしなー」


「それなら、シャーリー姉さん、わたしと踊ろうよ。練習でいつも一緒に踊っているから大丈夫、大丈夫」


「えー、ラッティーちゃんと踊るのー? 女同士で人前で踊るの、おかしくないかな?」


「平気だよ。今の時代は女同士でも男同士でもぜーんぜん平気」


 居間に置いてあったという妙な本の影響があるのかもしれないが、いまの時代は俺の思っている以上に開かれているようだ。


「そうかもね。わかった。それじゃあ、最初にラッティーちゃんと踊って気持ちを落ち着かせる」


 さすがはラッティー、将来の女王さまは口がうまいな。俺が笑っていたら、ラッティーに、


「ショウタさんどうかした?」


「何でもない。ラッティーは誰かからダンスを誘われたらちゃんと踊るんだ?」


「それはそうよ。本当はダンスだとおしゃべりできないから無駄むだなんだけど、誘われて断るとそれはそれで変な評判が立っても困るもの」


「おしゃべり優先?」


「そう。せっかくだから、アトレアの宣伝をしておくの。将来何が役立つか分からないから今のうちにできることはやっておかなくちゃ」


 すごいな。ここまではっきりした考えを持った者はうちにはおそらくラッティーしかいないな。


 いいことではあるが、あまり露骨ろこつなのは引かれる可能性もある。ただ、見た目がお子さまだから、一生懸命けんめいで可愛いという評価になる可能性の方が高そうだが。



 馬車が王宮の車寄せに停まったので、御者のサージェントさんに礼を言いながら馬車を降り、いつもの出入り口に入っていく。


 いずれにせよ、今日はシャーリーとラッティーの社交界デビューということだな。


 少し前にリーシュ宰相に聞いたのだが、侯爵家などでは持ち回りのような形で年中パーティーを開いているそうだ。実は俺とアスカを招待したいという侯爵家がいくつもあるそうだが、リーシュ宰相の方でそういった接触はしないよう国王命で通達を出したのだそうだ。リリアナ殿下の補佐役に妙な派閥に入られては困るからだと説明された。それはそうだ。俺にとっては実際ありがたい。


 シャーリーが不安がっている分、シャーリーには悪いが俺は逆に落ち着いている。必殺技タンゴは健在だしな。


『クイック、クイック、クイック、クイック、回りながらスロー』


よーし、このリズムだ。行ける。これなら今日も問題ない。


『スロー、クイック、クイック、スロー、クイック、クイック』


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