第500話 グリフォン、初めての狩

[まえがき]

とうとう500話。きましたねー。これも読者にみなさまのおかげです。ありがとうございます。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ブラッキーとホワイティーに狩を教えるため、ミニマップで見つけた対象の元に急ぐ。


 ミニマップ上の赤い点ならモンスターの可能性が高いため、いきなり攻撃しても基本的には問題ないが黄色い中立状態の点の場合、まかり間違えれば、狩に来た人間の可能性もある。今向かっているのはミニマップ上ではやや大きめではあるがその黄色い点なので目で確認する必要がある。点の大きさから言って狩人や冒険者のたぐいではなく大型の猛獣、おそらく熊ではないかと思う。


 熊なら季節的に冬眠していている時期だが、うちにいる白ヘビのようになにかのはずみで冬眠しそこなった熊なのだろう。


 この森では広葉樹は落葉して枝だけになっているが針葉樹は葉をつけているし、広葉樹でも常緑樹もあるようで、枝だけになった木は少ないようだ。下草も枯れたものもあればまだ緑のままのものも生えている。その木々の中をうように俺とアスカが進み、その後を余裕を持ってブラッキーとホワイティーがついてくる。何も教えているわけではないが、二羽とも小さく翼をたたんでほとんど音を立てずに森の中を移動できるようだ。


 木々の間を進んでいくと、二十メートルほど先に対象が見えてきた。思った通り大型の熊だ。少し開けた場所の真ん中で、くすんだ灰色の熊が腰を下ろし後ろ姿で盛んに何かを食べている。


 熊の手の先がチラリと見えたが、赤く見えたところを見ると、仕留めた獲物を食べているのだろう。食事中のところ申し訳ないが、ブラッキーとホワイティーの最初の獲物になってくれ。


 俺たちのいる位置は完全な風下という訳でもないので、おそらくこの熊は俺たちに気づいていると思うが、全く意に介していないようだ。こいつはこの辺りのぬしなのかもしれない。


『ブラッキーとホワイティー、あそこで何か食べているのが「熊」だ。あいつを狩ろう』


『「クマ」わかったー』『「クマー」』


『危なくなったら俺たちで助けるけれど、まずは二羽であいつを仕留めてみろ』


『わかったー』『しとめるー』



 それ以上は特に何も言わなかったが、二羽は音を立てず、大きく迂回うかいして、熊の風下の方に回り込んでいった。本能からの行動なのだろう。見事なものだ。


 熊の方はそういった動きを知ってか知らずか相変わらず何かを食べ続けている。


 バサッ!


 ホワイティーが翼を広げ飛び上がった。熊はその音に振り向き上を見上げた。


 体の大きさ的には熊の半分にも満たないブラッキーがくちばしを先にしてすきを見せた熊に突っ込んでいった。


 斜め後ろからの突撃に驚いた熊が、立ち上がって振り向いたところで、熊の頭上二メートルほどに迫っていたホワイティーが、右の前足で熊の頭を殴りつけた。


 熊は腕を振り上げ頭の上のホワイティーを狙ったものの、あまり上には腕が上がらないようで、むなしく宙を切る。


 殴りつけたホワイティーはそのまま通過し、最後っ屁のごとく後ろ足でもう一度熊の頭を蹴り飛ばした。


 頭から血が流れ出てきたものの、その程度の衝撃では熊は健在だったが、よそ見をしていた熊の脇腹にブラッキーのくちばしが深々と突き刺さった。ブラッキーは突き入れた嘴ひねりながら引き抜きすぐに後ろにバックして熊の反撃から逃れ出た。


 ウガーーー!


 悲鳴のような咆哮を上げる熊。


 今のブラッキーの一撃が何本か太い動脈を切断したのだろう、ドバッ、ドバッと鼓動に合わせたような感じで熊の脇腹から大量の血が噴き出ている。


 ホワイティーは熊の上空を悠々と舞っている。すぐにブラッキーも翼を羽ばたかせて宙に舞った。


 勝負あったようだ。


 しばらくそのまま立ち尽くしていた熊だが、ユラユラ揺れたと思ったらドサッと倒れ込んでそのまま動かなくなった。そのあと、三十秒ほどでミニマップ上の黄色い点が消えた。


 二羽はすぐに熊の横に下りてきたので、俺とアスカも熊の死骸まで走った。


 熊の死骸の脇には内臓を食い荒らされた鹿の残骸があった。


「ブラッキーとホワイティー、二羽ともすごいじゃないか」


「良い連携だった」


『えへへ。お父さんとお母さんが見てたからちょっと頑張っちゃった』『エヘヘヘ、頑張っちゃった』


「この熊は俺が収納しておく。そのうち冒険者ギルドに持っていって換金して、そのお金でブラッキーとホワイティーに記念品を買ってやろう」


『きねんひん?』『きねんひん?』


「お前たちにカッコいいものをそのうち上げるからな」


『うれしー』『はやくほしいー』


「マスター。ブラッキーとホワイティーも早く欲しいでしょうから、私がここで二羽のためにメダルでも作ってやりましょうか?」


「そうだな。アスカが作った方が変なものを買うよりよほど立派なものができるだろうからそのほうがいいか」


「それでは、あまり重くならないようミスリルで作りましょう。マスター、ミスリルのインゴットを二つお願いします」


 アスカは受け取った二本のミスリルのインゴットを各々半分ずつにして、その一つで丸い形のメダルを作った。裏側にはブラッキーと書かれ、表側にはうちの紋章、丸の中に四角、四角の左右両脇にポーション瓶の形が彫り込まれていた。その後ホワイティーのメダルがすぐ作られて、残ったミスリルで、鎖が二本作られた。メダルの上の方二カ所に孔が開けられ、そこに鎖を付けて完成だ。


「マスター、ブラッキーにつけてやってください」


 アスカはホワイティーにつけてやるようだ。


「ブラッキー、少し頭を下げてくれるか?」


 ブラッキーのくちばしは先ほど突撃したとき熊の血で赤くなっていたが、舐めとったようでもうきれいになっている。


 頭を下げたブラッキーに鎖をかけてやったら、少しメダルが胸元に下がったところがピッタリだ。


「どうだ、ブラッキー?」


『エヘヘ、エヘヘ、うれしい』


「ホワイティー、どう?」


『エヘヘ、エヘヘ、うれしい』


 二羽とも相当嬉しそうだ。


「まだ二羽は大きくなりますから、そうしたら鎖を変えてやりましょう」


「そうだな」




 目の前に横たわった熊を収納したが、キルンにいた時俺が仕留めた熊よりよほど大きい熊だ。傷もそんなについていないし、それなりの金額で売れるだろう。


 しかし、この二羽、狩の才能があるな。危なげが全くなく大熊をたおしてしまった。双子とは言え息がぴったりだ。これなら、大丈夫。最初はブラッキーとホワイティーを自然の中で遊ばせてやろうと思っただけだったが、自力で生きていく力も必要と思いこうして狩をさせてみたが、全く心配はいらなかった。一安心だ。


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