第498話 グリフォン、トレーニング1


 大みそかのパーティーから新年初日、二日、三日と過ぎていき、今日はもう四日だ。


 シャーリーとラッティーは今日から付属校。今は馬車で学校に向かっているところだ。



 俺はアスカと居間のソファーに座って、


「アスカ、三賀日さんがにちも終わってまた普通の日が戻ってきたな」


 アスカは俺がお年玉代わりにあげた指輪を左手の薬指にはめている。俺の知る限り指輪を渡してからずーっとはめているようで、一度も外しているところを見たことはない。


 そうこられると、俺も左手の薬指にあの指輪の片割れを着けなくてはならないような気がして、今まで適当な指にはめていたほかの指輪を右手にすることにして、左手にはその指輪だけをはめておくことにした。そうしておくと、アスカの機嫌がいいような気がなんとなくする。



「明日は、冒険者学校の入学式です。もう4期生ですから早いものです」


「いろいろあったけど、軌道に乗ってよかったな。今日からうちの六人の勉強も再開するんだろ?」


「これまでのように九時から始めます」


「あの六人もいい子ばかりだったな。こういう言い方はあまりよくはないが、孤児奴隷の子にはハズレがないな」


「孤児たちも自覚を持った上で、ちゃんとしつけられていたのでしょう」


「元々素直でいい子たちだったんじゃないか? そう考えると、ちゃんとした両親がいなくなったってことだから、なおさら可哀かわいそうなのか」


「そこについては、私たちではどうすることもできません。彼らの将来が少しでも明るくなるように手助けできるだけです」


「そういうことだな。できることをやってやろう」


「マスター、そろそろ時間ですから、私は教室に行きます」


「おう」


 アスカも居間から出て行ったので、居間の中には俺一人になってしまった。


 新しいむねの教室で授業だ。確かに六人だと生徒が少ないか? これくらいがちょうどいいのか? 教育の専門家じゃないし分らないが、少しもったいないような気もする。夏にはもう少し生徒を増やしてみるか。



 明日は、冒険者学校の入学式。子どもたちの授業がない日だから、アスカと一緒に入学式に顔を出して、それから、ブラッキーとホワイティーを山に連れて行って、自然の中で遊ばせてやってもいいな。


 あの二羽が本気になったらどのくらいの速さで飛ぶことができるのかは分からないが『スカイ・レイ』の全速にはおよばないにしてもそれなりのスピードは出せそうだ。『スカイ・レイ』についてこさせるだけでも運動にもなるしちょうどいいかもしれない。



 授業を終えたアスカに、明日あしたブラッキーとホワイティーを山に連れていけないか尋ねたところ、


「低速で『スカイ・レイ』を飛ばすと、燃費は悪くはなりますが、それ以外の問題はありません。追随ついずいする二羽の様子を見ながら操縦すればいいだけなので、何とでもなるでしょう」


 と、言ってくれた。ようし、明日は二羽を連れて、王都の南の山に行ってみよう。あの二羽も少しずつ狩とか練習した方がいいだろうしな。





 そして翌日、朝の体操とランニングを終えて、桶の水を変えてやりブラッキーとホワイティーにドラゴンの生肉を与えて、


「ブラッキーとホワイティー、今日は俺たちと一緒に遠くまで遊びに行こう」


『遠くまで?』『遠くまで!』


「そう、遠くまで。俺とアスカで飛空艇に乗って空を飛ぶからお前たちはついて来てくれ。飛空艇は分かるだろ? 最初にお前たちを乗せてやったアレだ」


『分かる』『分かる』


「ちょっと用事を済ませた後からだから、それまでここで遊んでてくれればいい」


『はーい』『はーい』


 この二羽も素直だよな。グリフォンの特性なのか、この二羽が特別なのか?




 そのあと朝食をとり、俺とアスカで冒険者学校に。


 久しぶりに駆けて行った。式は九時半ごろの予定なので、朝食を食べて腹ごなしにちょうどいい。


 しばらく学校前で待っていたら、冒険者ギルドが用意してくれた馬車が坂道を下りてきた。今回は馬車が五台だ。迎えに行ったペラたちも同乗している。


 まずペラたちが馬車から降り、その後新入生たちが馬車を降り始める。ペラたちのキビキビした動きに比べるとだらだらとした感じに見えるが、最初はこんなものだろう。


 ここは、この世の果てのような露天掘り跡地のすり鉢の底だ。みんなキョロキョロあたりを見回している。三カ月訓練に耐えることができれば、それなりのものを得ることができるはずだ。頑張ってくれ。


 ギルドの馬車は生徒たちが降りたあとすぐに帰っていった。



「集合!」


 ペラの号令にびっくりした生徒たちが、学校の玄関前にだらだらと集まった。


「四列縦隊で整列!」


 言われてすぐに反応もできないし、どう並ぶのかもすぐには判断できないようだが、すぐに助手の四人が走り回って、隊列を整えていった。


「これから、諸君らは三カ月間この冒険者学校で訓練することになる。訓練はかなり厳しいものになるだろうが、訓練をやりとげることができれば、十分な実力が諸君に備わることは私が保証する。

 私は先日の説明会でも自己紹介をしたが、ペラ、この冒険者学校を創設したそこにおられるコダマ伯爵閣下とエンダー子爵閣下よりこの学校を任されている。そこにいる四名の助手とまかないおよび読み書き、算術を教えてくれる三名が諸君らと三カ月間寝食を共にすることになる。

 すでに、四人ずつのパーティー編成は終わっているはずなので、玄関から二階に上がって各パーティーごとに割り当てられた部屋に荷物を置いて身軽な服装でまたここに十分後に集合! 以上だ。解散!」


 俺の思っているような入学式ではないが、新入生たちは気持ちが引き締まったと思う。


「ペラ、俺たちはこれで失礼するからあとはよろしくな」


「はい!」



 ペラたちを残して、俺とアスカは『スカイ・レイ』で屋敷に戻ることにした。


 屋敷の上空に停止して降下を始めた『スカイ・レイ』を上空で遊んでいたブラッキーとホワイティーが見つけたようで、降下途中、正面キャノピーの前から中をのぞき込んだりし始めた。危なくなければいいんじゃないか?




 

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