第496話 大成功。


 真っ白いお皿に乗った赤いイチゴアイスクリームがみんなに配られて行く。今日のお客さまのうち、うちに毎日勉強に来ているベルガー姉妹とリリアナ殿下たちしかアイスクリームを食べたことがないはずだ。


 俺も、意地悪く『アイスクリーム』と言っただけで、中身の説明はしていない。アイスという言葉とクリームという言葉、それにデザートであるという情報から何かしらの氷菓であることは想像できると思うが、初めて食べれば相当驚くだろう。反応が楽しみだ。


 食べたことのあるみんなは全員ニコニコしている。


 そして、ワゴンに乗せられたイチゴアイスクリームが運ばれ、小さな金のスプーンをつけて、みんなに配られて行く。


 今回は、白い皿の真ん中に、丸く削られたイチゴアイスが何段か重ねられて、その上に軽く練乳がかけられている。アイスの脇にはアクセントに黄緑色の綺麗なミントの若葉が添えられている。ミントは去年の春先に仕入れたものを俺が保存していたもので、葉は柔らかく新鮮だ。


 なかなか、凝ったアイスクリームが出てきた。


「初めての方もいらっしゃるでしょうが、氷菓ですので、ける前に召し上がってください」



 アイスを食べ始めたみんなから、


「冷たーい!」


「おいしー!」


「うー!」


「なにこれ、おいしすぎる。これって、いま売り出し中の製氷機で作っているのよね?」


「これまで長生きしてこれほど良かったと思ったことはないぞ。フレデリカ、うちでもその製氷機を買えば作れるのじゃろ?」


「作れるとは思うけれど、私じゃ作れないわよ。食べたくなったら、またここに食べに来ればいいだけよ」


「毎日食べたいとなると毎日お邪魔するということかの?」


「それはそうでしょう」


 うちに食事にきてもらう分には一向に差し支えないが、うちでも毎日食べているわけではないので、そこのところは考慮していただかないとな。




 アイスクリームが終わったところで食器が片付けられ、成人には、甘めのお酒が配られ、未成年には、好みによってジュースやお茶が配られた。


 時刻はだいたい午後八時。少し早いがお開きの時間だ。すでに玄関先には王宮から迎えの馬車が到着している。



「それでは、迎えも来ていますのでそろそろ失礼しますね。今日は本当に楽しかったです。王宮で開かれる新年のダンスパーティーの時もよろしくお願いしますね」


 そう言って殿下が立ち上がり、侍女の人たちが頭を下げたので、みんなでお見送りに殿下に続き玄関ホールに。そこで、うちの者が預かっていた上着などをお返しした。


 そのとき、殿下にコートを手渡したのがヨシュアだった。最初、ハウゼンさんが手にしていたコートだが、ヨシュアがハウゼンさんに代わってもらったようだ。


 コートをヨシュアから受け取ったリリアナ殿下は、頭を下げたままのヨシュアに何も言わなかったが、口元はほほ笑んでいた。殿下のお付きの人からすれば少し複雑かもしれないが、その三人も何も言わず、うちの者から手渡された手荷物やコートを受け取っていた。


 ヨシュアについてはこれで良かったんじゃないだろうか。



 ハウゼンさんが玄関の扉を開き、俺が迎えの馬車の扉を開いて、殿下以下四名が乗り込んだ。窓から軽く手を振る殿下に全員で頭を下げているなか、馬車は警護の騎兵に守られて王宮に帰っていった。




「みなさんの今日の部屋は二階の客室になります。荷物は部屋の方に運んであるので、うちの者に聞いてもらえれば部屋に案内します。そのあとは部屋の中でゆっくりするなり、居間の方で寛ぐなりしてください。客室にも風呂はありますが、大きな風呂は一階にあるのでどちらを使ってもらっても構いません」


 なんだか、団体客を迎えた旅館の従業員になったようだ。ホスト役の仕事も結構大変だ。


 うちの者に連れられて、お客さんたちはぞろぞろと二階に上がっていった。うちのほかの連中は、食堂の後片付けを初めているのだろう。俺は手を出さない方がいいようなので、居間に入ってソファーで寛ぐことに。


 居間に置いてあるテーブルの上には、お客さんたちが風呂上がりにでも飲めるよう各種のお酒や軽食などが置いてある。今日は大みそかなので徹夜で飲む人もいるかも知れない。



 ソファーに座って、首を前後左右に傾けて、首の筋肉を伸ばしていたら、アスカがやって来て、


「マスター、肩が凝っているようですので、おみしましょう」


 そう言って、後ろに回って俺の肩を揉んでくれた。


 ほう。これは気持ちがいい。知らず知らずのうちに相当肩が凝っていたようだ。これだと、おじいさんみたいだが、実際気持ちが良い。


 俺の場合、実際のところほどんど痛くはないが、整体術の時は施術中、体がバキボキいって、かなり痛そうなのだが、施術後は爽快だ。アスカの肩もみマッサージは最初から気持ちいい。何をやってもアスカはうまいな。


 しばらく肩を揉んでもらったところで、


「アスカ、ありがとう。気持ち良かったよ」


「肩が凝った時でも、足がだるくなった時でも、いつでも言ってください」


「これからはそうするよ」



 アスカとそうやって話していたら、風呂上がりのフレデリカ姉さんとアルマさんが居間に入ってきた。


「今日はほんとに楽しかったわ、ありがとうショウタ」


「実にいい湯じゃった。うちにも大きな湯舟が欲しくなったぞい」


 風呂場は大きなのを作っていてほんとに良かった。もちろん地中からくみ上げた温泉ではないが、そんな区別ができない俺にとっては温泉だものな。


 それから、次々今日呼んだお客さんたちがやって来てお礼を言ってくれた。準備はそれなりに大変だったが、やってよかった。大成功だ。


 お客同士では初顔合わせの人たちもいたが、既にみんな打ち解けているようで、お互いに楽しそうに飲み物を飲みながら話をしている。明日は新年、元旦だ。






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