第495話 接待って大事だよね


 なんとなくれてしまうシッチュエーションになってしまったが、このまま立ち尽くしているわけにもいかないので、席に帰るリリアナ殿下に軽く頭を下げて、


「それでは次行ってみましょー」


 そこでアスカがゴロリと抽選機を回し、コロリと出てきた玉を俺が手に取って数字を読み上げる。


「今度の数字はー、09、60ではなく09でしたー」


「リーチ!」




 次のリーチはラッティーだった。殿下のリーチから一発でビンゴは本当にまれなことで、いくらラッティーでもそう簡単にはビンゴにはならないだろう。リーチから長くかかるのがビンゴのだいご味だ。


 食堂の中からは、ラッティーのリーチ宣言のほか、ため息や、あったー! とかの声が聞こえてきた。ため息はかなりいいところにいっている場合と全然な場合がある。だいぶ、みんなにも力が入って来たようだ。みんなに見えている賞品はあと四個だけ。もれなく賞品があるとはまだ言っていないので、射幸心しゃこうしん的なものが煽られるのだろう。



「ラッティーからリーチがかかっていますが、それでは、次いきます!」


 アスカが抽選機を回し、コロリと出てきた玉の数字は、


「今度の数字はー、77、77です。ラッティー、どうだったー?」


「わー! ビンゴ! ビンゴ!」


 これも、すごいな。


「それじゃあ、ラッティー、賞品を選んでくれ」


「えへへへ」


 残った四つの賞品から一番右の賞品をラッティーは選んだ。


 ラッティーの選んだ小箱の蓋を開けて、中身をみんなに見せた。最初に金貨をみんなに見せて、次に中に入っていた銀色の指輪をみんなに見えるように持ち上げ、鑑定結果の書かれた紙を取り出して読み上げる。


「見た目タダの銀無垢むくの指輪ですが、鑑定結果は、……。

名称は『水の調しらべ』

ミスリル製の指輪。指にはめた者の精神を安定させる。結果的に装着者の知性が十パーセントから二十パーセント増加する。錯乱、魅了、狂気などの精神的状態異常に絶対耐性」


 この指輪は、今回調べた数々の指輪の中で、おそらくもっとも魔法効果の高いものだ。うーん。いい賞品を選んだな。


 小箱に金貨と指輪と紙切れを戻して、ラッティーに手渡した。小箱を大事そうに受け取ったラッティーは自分の座っていた席に戻って、周りのみんなから拍手されていた。


 こうやって照れながらニコニコ笑っている姿を見ると、確かにまだまだお子さまではあるが、ラッティーにはリリアナ殿下にもある人を引き付けるなにかがある。やはり、生まれ持ったものというか、俺のような下々のものではどうしてもまとうことのできないオーラがあるようだ。そういえば、シャーリーの隣に座っているエメルダさんにもそういったオーラがある。不思議なものだ。



「それでは、次行ってみましょう。そろそろリーチが一度に複数出そうですが、どうでしょう。

 それでは、抽選機、回転!」


 ガラガラ、コロン。


 ……。


 それから、アルマさん、エメルダさんとビンゴが続き、みんなに見えている賞品が一つになった。


「賞品があと一つになりましたが、実は全員に行き渡るようちゃんと用意しています。ご安心ください」


 そう言って、残った人数分の小箱を並べてやったら、あからさまにみんなホッとした顔をした。すでにビンゴの賞品をもらっている四人は余裕で座っている。


 ……。


 結局最後にビンゴになったのはシャーリーだったが、賞品を受け取って、ニコニコ顔で、


「ありがとうございます!」


 と、元気に言って席に戻っていった。


「それでは、みなさん、ゲームも無事終了しましたので、お待ちかねのデザートをお配りしまーす」 


 食事からずいぶん間が空いてしまったが、ビンゴゲームが終わったところでデザートだ。デザートを乗せたワゴンがミラたちによって食堂に運び込まれて、小さめの深皿に入ったお汁粉が配られて行く。


 うちの連中には箸が配られたが、お客さまには熱くないよう、木でできたフォークとスプーンが添えられている。


「『お汁粉』という温かいスープのようなものですが甘いお菓子?と思ってください。中に入っている白くて柔らかい塊は『モチ』と言ってモチ米という特殊な米を潰して固めたものです。初めての方は喉に詰まらせないようお気を付けください」


 みんなが、フーフー言いながらお汁粉を食べている中で、


「しかし、リリアナ殿下が最初にビンゴになったのには驚いたが、喜んでもらえてたようで、ちょうどよかったな」


 俺は、ゆっくりとビンゴ道具を収納に仕舞いながらそうアスカに話しかけたのだが、アスカは小声で、


「殿下は今日の主賓ですから、喜んでいただけるよう私の方で操作しました」


「えっ? 操作?」


「髪の毛を使って出したい数字を抽選機内で見つけ、それが出てくるよう抽選機の回転時操作しました」


「操作してたのか。どうりでアスカがわざわざ抽選機を回していたものな。ふーん、確かに接待は大事だものな。それじゃあ、ラッティーのビンゴもアスカが手を加えたやったのか、いくら何でも、あれもでき過ぎだものな」


「いえ、ラッティーについては、ラッティーに配られたカードを見ていませんので操作自体できません」


「ラッティーについてはやっぱりフーのご利益りやくだったのか?」


「証明はできませんが、可能性は高そうです」



 腑に落ちたような落ちないような感じだが、俺もアスカもお汁粉を食べようと、空けていたリリアナ殿下の近くの席に戻った。


 部屋を暖かくしているが、この季節、温かいお汁粉をすすると、ホッとする。


 昨日、王宮には、勇者たちに食べさせるようにと、昨年同様モチとアン、それにきな粉を届けている。あの連中がどうなろうが構わないが、意地悪をすることも無いし、俺だけ故郷の味を味わっているのもなんだか気がとがめた結果だ。


 同じテーブルのリリアナ殿下は、お汁粉を半分くらい食べた後、左手の薬指の指輪を見ながらニマニマしている。侍女の人たちにとっては、お汁粉は不思議な味だったらしく感想を述べあいながら食べていた。


 今日は食べ物攻撃だ。


「お汁粉のお替わりはまだまだありますが、次は、イチゴアイスクリームですので、ほどほどにしていた方がいいと思います」


 俺がみんなに注意したら、フレデリカ姉さんはもうミラからお替わりを貰って食べていたらしく、慌てていた。聞きなれないアイスクリームという言葉に反応したようだ。


「お腹がパンパンになってもショウタにポーションをもらえばいいから大丈夫よね」


 とか言っているのが聞こえてきた。まあ、その時はその時、何とかなると思いますよ。





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