第493話 そして年越し4、ビンゴ大会


 俺もアスカも今日はちょっと大人びてシャンパン(注1)を手にしている。


 成年者は良く冷やしたシャンパンの入った長ぼそいグラスを手に。未成年者は良く冷やしたジュースの入ったグラスを手にしている。ジュースをうちで飲むときはコップで飲んでいるが、今日は特別感を出すためコップは用意せず、グラスを用意した。リリアナ殿下もジュースの入ったグラスを持って立ち上ってくれたので、俺が乾杯の発声はっせいを。 


「みなさん、今年もいろいろございましたが、今日は今年あった嫌なことは忘れ、今年あった良かったこと嬉しかったことを思い出し、来年はもっともっと良いことに巡り合うことを願って乾杯!」


 やや甘口の冷たいシャンパンの泡が喉元を通り過ぎていく。


 シャンパンってのどごし爽快で、炭酸ジュースみたいでうまいじゃないか。この日のためにそろえたシャンパンで結構なお値段だったようだが、これなら毎日飲んでもいいな。もはや、いっぱしの酒飲みかもしれない。


 今日は部屋の中の温度をいつもより二度ほど上げているそうだ。もちろん冷たいものをおいしくいただくための室温調整だ。アスカも良く分かっている。


 俺自身うまいと思ったシャンパンは、お客さまにも好評だったようで、各所から、


「おいしい」


「冷たくておいしー」


 などと聞こえてきた。


 お盆の上にシャンパンを注いだグラスを乗っけてお客さまに勧めるミラとソフィアにお声が各所から上がり、氷の入った桶の中に入れられたシャンパン瓶の栓が抜かれていった。


 スポーン!(注2)


 スポーン!


 勢いよくコルク栓が抜けて飛んでいく。本当は布巾ふきんをかけて抜けば栓が飛ぶことはないのだが、栓を飛ばした方が景気がいいので、二人にそのまま栓を抜くように言っている。



 ラッティーが以前どこからか聞いて来て教えてくれたのだが、王都での真のお金持ちのあかしは魔導冷蔵庫、製氷機なのだそうだ。


 置時計と比べれば購入代金は五分の一以下だが、何せランニングコストがかかる。一度中に物を入れてしまえば、点けっぱなしでないと意味がないし、運転にはかなりの魔素を必要とする。


 うちでは予備の魔素貯留器のために俺の部屋に棚を設けていて、空になった魔素貯留器を棚の決められた場所に置いておけば俺が暇なときに魔素を充てんして、充填済みの魔素貯留器の棚の場所に移している。毎日数本、空の魔素貯留器が棚に並ぶが、一本当たり十秒もかからず魔素を充てんできるので、苦にはならない。充填済みの魔素貯留器は二、三十本常に置いてある。


 そのほか、大型の魔素貯留器も一階の錬金室の脇に置いてあり、もしもの時はそこからも主要な設備に魔素が行き渡るようにアスカが魔素用配線コードで繋げてくれている。


 魔素関連のランニングコストは全くないにもかかわらず、氷をふんだんに使える俺のうちは、実感はないがよそ様から見れば真のお金持ちセレブに見えるわけだ。



 食べ物については最初はやはり、サラダや軽い前菜がはけていくようで、大きなボウルに入った各種のサラダ、大皿の上に並べられたカナッペなどがはけていった。


 そのほかにも、白身魚のマリネ、生ガキのレモン添えなども人気があるようでどんどんはけていく。


 料理が少なくなった大皿は、残った料理を小皿に移され、すぐに厨房から運ばれた新しい大皿に取り換えられる。子どもたちもよく働いてくれている。


 来客への挨拶は、リリアナ殿下が到着までに済ませているので、俺は殿下の近くに座って、侍女の人も交えて雑談しているだけだ。アスカの方は、料理の並べられたテーブルの近くに立って、そこで小皿に料理を取り分けてずっと食べている。


 ダンスパーティーでいつも食べていたのは、ダンスに誘われないためだと思っていたが、それ以上においしいものを食べたかったのかもしれない。


 料理の内容も、軽い物から、ボリュームのあるものに変わっていった。


 重たいものとして、あの砂漠大ネズミのシチューがやはり好評だった。パルゴール名物のシチューだといって、うちでも今日初めて出したものだが、誰もが食べたことのない食感に驚いていた。フレデリカ姉さんとアルマさん、二人のエルフの実年齢は知らないが、二人もまだ食べたことのないものだったようだ。入っている肉がネズミの肉だとは知っているのは、厨房のゴーメイさんと俺とアスカだけだ。あと、リリアナ殿下たちも知っていたか。



 飲食のスピードが鈍ったようで、お手伝いをしてくれていたみんなも手が空いて来たようだ。


 飲んで食べていただけだが、結構時間も経っている。それでは、そろそろ、ビンゴを始めるとしよう。


 殿下にことわって席を立ち、食堂の真ん中、アスカの立っている料理の並べられたテーブルの前までいき、


「アスカ、そろそろ始めよう」


「はい」


「ミラとソフィアはちょっと手伝ってくれるか?」


「はい」「はい」


 俺たちが、食堂の真ん中で何やら始めそうだと気づいた来客たちが会話を止めたようなので、


「それではみなさん。おなかの方も落ち着いてきたと思いますので、これからゲームを始めようと思います」


 基本的に、ゲームという言葉自体なじみの薄い言葉で、リバーシを想像した面々もいたと思う。フレデリカ姉さんたちは首をかしげて顔を見合わせていた。


 収納から、テーブルの上に置いたビンゴ機材一式と紙を貼った衝立を取り出して、初めてのゲームについて説明を始めた。


「まず、これから皆さんにこのカードとペンを一人一組ずつお配りします」


 アスカとミラとソフィアにカードとペンを配ってもらった。インク壺も適当な間隔でテーブルの上に置いていった。リリアナ殿下のあたりにはアスカがいってカードなどを一人一人に渡したようだ。


 カードなどが全員に配られたところで、


「ご覧のように、お配りしたカードには、縦横五マスずつ、合計二十五個のマスがあって、真ん中の一個を除いて、マスの中に0から99までの数字がバラバラに書いてあります」


 書かれた数字の下には『_したせん』が入っているので、ひっくり返して別の数字に読み違えるということはない。


「一度やってみましょう。ここにくるくる回る変な形をした箱がありますが、これを抽選機と言っています。この抽選機をこんなふうに一回転すると、数字の書かれた玉が一つ転がって出てきます」


 ガラリと抽選機を回したら、コロリと玉が一つ出てきた。玉に書かれた数字は32。


「はい、玉に書かれた数字は32でした。忘れないよう、後ろの衝立ついたてに貼った紙に番号を描き込んでおきます。ここで、お手元のカードを見ていただき、もし、カードに書かれた二十四個の数字の中に32があれば、そこにお手元のペンで×印をつけてください」


 数人から、『32、あった!』の声が聞こえた。




[あとがき]

注1:シャンパン

異世界謎翻訳のおかげで、ショウタには瓶内自然発泡のワイン名がシャンパンと聞こえ、ショウタの発したシャンパンという言葉がこの世界の人には、シャンパンに相当する固有の名称に聞こえます。また、謎調整もかかっており、口の形なども各人の認識上、聞き取った音声に沿ったものに変わっています。サンドイッチなどもこれにあたります。


注2:スッポーン

拙作、常闇(とこやみ)の女神 ー目指せ、俺の大神殿!ー

https://kakuyomu.jp/works/1177354055372628058

でも、ちょうどスッポーンをしていたので、こちらでもスッポーンをしてみました。ただあちらのスッポーンはこちらほど平和なものではありません。あちらの主人公は女神さまのはずなんですが、もはや邪神のようなメチャクチャな神さまになっています。



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