第494話 ビンゴ大会2、早くもビンゴ


 食事の方はみんな一段落いちだんらくしたようなので、ビンゴゲームを始めた。


 最初に抽選機から出てきた玉に書かれた番号は32。


「『32』がカードに書かれていた人は、忘れずにカードに印を書いてくださいね。

 今の数字がなければ、その回は、外れになります。

 こういった形で、抽選機から出てきた数字をカードに書き込んでいって、縦、横、斜めで五つ並べば『ビンゴ!』。『上がり』ということになります。それで、斜めの場合は真ん中を除いた四つの数字が並べば『ビンゴ!』となります。

 それで、カードの真ん中を含めて数字が四つ並んだ人は手を挙げて大きな声で『リーチ!』と言ってください。『リーチ』というのは次の一手で上がるという意味です。

『リーチ』のあと、五つ並んだら大きな声で『ビンゴ!』と言ってください。『ビンゴ』の順に、賞品を差し上げます。

 商品は、こちらに並んだ小箱に入っています。中はお見せしませんので、自分でお好きな箱をお選びください。中に入っているものは古銭と指輪です。指輪は一応魔法の指輪であまり有用でないものから、それなりのものまで入っています。鑑定結果を紙で書いていますが、正規の物ではありませんので、ご心配ならご自分で鑑定を依頼してください」


 みんな真面目な顔で俺の説明を聞いている。ほとんどの人が手に持ったカードをじっと見ている。『ビンゴ』も『リーチ』もこの世界にはない言葉だろうから呪文だと思って覚えてもらおう。


「それでは、次の数字はー?」


 次からは、助手のアスカが抽選機を回し、俺は出てきた玉をつまみ上げてみんなに見せながら、番号を読み上げる。抽選機を回すのは俺でいいと思ったが、なぜかアスカが、自分が抽選機を回すと言って引き受けてくれたものだ。


「11」


 俺の声に合わせてアスカが後ろの紙に11と書き込む。

 


 またパラパラと『あったー!』の声。


 そこで、六人の子どもたちと一緒の場所に座っていたラッティーが、急に立ち上がって、


「一分だけ待っててー」


 とか言って、バタバタと食堂を出ていった。トイレにでも行ったのかなと思っていたら、息を切らせながらすぐに帰って来て、


「ごめんなさーい。これは運の勝負だから、フーに祈ってきた!」


 これだけ熱心だとご利益があるかもしれないな。


 一度中断したが、ちょうどいいになったろう。


「それでは、次の数字はー?」


 ここで、アスカがゴロリと抽選機を回す。


 コロリと出てきた玉には、


「こんどは78でした」


 そうやって順次、数字を読み上げていったところ、


 六回目で早くもリーチの声がなんとリリアナ殿下から上がった。


 当たり前だが、その声でみんなが殿下に注目したわけで、何だか殿下が顔を赤らめた。そういうことってあるよな。


 白ヘビは幸運のシンボルとか聞いたことがあるようなないような。いい加減なうわさくらいにしか思っていなかったがそうでもなかったか。フーのご利益を期待してお祈りしてきたラッティーの幸運を上回るとは本物かもしれない。


 そして、七回目のゴロリ。


「さあどうでしょう。リリアナ殿下、ビンゴ成るか? 数字の方は? 36、36でしたー」


「ビ、ビンゴ?」


 やや小声で、リリアナ殿下の声が上がった。周囲から歓声と拍手が上がる。


「リリアナ殿下、見事最初のビンゴです。それでは、こちらにいらっしゃって、賞品をお選びください」


 おずおずと食堂の真ん中にやってきた殿下からカードを受け取り数字を一応確認する。もし数字が間違っていても、俺しか確認しない以上、間違っていないことにするので大丈夫。


「数字を確認させていただきました。問題ないようです。

 それでは、殿下、ここに五つある箱の中から一つだけ箱をお選びください」


 この五つの小箱には、上位入賞者のために、ちょっといい指輪を入れている。


 殿下は真ん中の箱を選んだので、俺はその小箱の蓋を開けて、中身をみんなに見せた。一つはあの金貨。もう一つは魔法の指輪だ。中に入れていた指輪の鑑定結果を書いた紙を読み上げる。


「この銀色に輝く指輪。少し青みを帯びた大き目のダイヤモンドがついています。鑑定結果は、……。

名称は『星のきらめき』

ミスリル製の指輪本体に、ダイヤモンドをあしらったもの。永遠の星のきらめきのように、指にはめた者の魅力を引き立てる。

といったものです」


 そういって、金貨と指輪と紙切れを箱に戻して殿下に手渡した。


「ありがとうございます」


 そう言って満面の笑みで箱を受け取る殿下。さっきの指輪などなくても十分魅力的だなーと思ってしまうほどの笑顔だった。


 いやー、しかし白ヘビは本当に幸運のシンボルだったようだ。


「頂いた指輪をいましてもいいですか?」


 そう言われたので、もちろん、


「どうぞ」


 と言ったのだが、そしたら殿下に、


「指輪をはめていただけますか?」


 そう言われてしまった。


 当然断れないので、


「はい。どちらの指におはめしましょうか?」


「うーん。それでは、何となくこの指に」


 薬指を一本だけ伸ばした左手を差し出されてしまった。


 えっ! っと思ったが、この世界には結婚とか婚約で指輪をかわす習慣はないハズだし、まして左の薬指の指輪が特別な意味を持つということはない。ハズだ。たぶん。


 恐る恐る殿下の手を取って指輪を薬指にはめたのだが、殿下の指先はことのほか温かく、そして柔らかだった。


 殿下の顔を見ると、殿下も赤い顔をしている。


 なんだか、食堂の中が静まり返っている。


 えーと、この後、俺はどうすればいいの?


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