第490話 そして年越し1

[まえがき]

誤字報告ありがとうございます。

489話の誤字

「虚仮(こけ)の一念」

誤字報告でご指摘をいただくまで、

「岩をも通す」から「苔の一念」と思っていました。

虚仮(こけ)の意味は未熟な者、愚かなこと、などだそうです。

「コケにする」のコケです。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 年末の準備も進み、冒険者学校の生徒達の方も順調に仕上がって来たそうだ。じきにヤシマダンジョンへの実習旅行が始まる。


 今回の実習旅行では、俺もアスカも参加しない。ヤシマとの往復には、トンネル東口に新客車を繋げた機関車を置いておくので、それをペラに運転させることにした。行き先のヤシマ駅には引き込み線を設けたので、列車は帰るときまでそこに停めておくことができる。もちろん鉄道を運営している商業ギルドには了承してもらっている。


 実習旅行についてペラと打ち合わせをしたところ、


 四十名の生徒達は四人ずつの十パーティーに別れて普段練習しているが、実習旅行でのボス戦ではパーティーを度外視して十名で四組作り各組でボス戦を戦うことにした。リポップには六時間のインターバルが必要なのでボス戦には丸一日近くかかることになる。


 ボス戦は十層のゴブリンロードと二十層のオーガロードの対戦で合計二回あるが、出発日を一日早め、予定日数を四泊五日から一日だけ延ばして五泊六日にすることにした。


 スケジュールがきつくもなるし、一日分運ぶ食料と水は増えるが、その程度は何ともないとペラは言っていた。


 帰還が遅れて水が不足すると危険なので、念のためペラには小型の純水製造器を渡している。純水製造器は小型と言ってもそれなりに重たいもので、ペラ自身の荷物はかなり増える。まあペラならその程度大丈夫だろう。


 年末までに残った俺とアスカの冒険者学校がらみの仕事は、俺の方は定期的な石炭と鉄鉱石の搬出。アスカの方は、新しい生徒にメイスを支給するため三カ月に一度メイスの製造が必要だったが、アスカが一度大量生産したので、それを俺が預かっている。冒険者学校に顔を出した時の倉庫に補充しておくだけでいい。



 冒険者学校の卒業生と、今の在校生から、『鉄のダンジョン』で引き続き仕事がしたいとの要望がある。今では二層より深い階層から転移で一層に戻れるようになっているのでアイアンゴーレムのいる階層で狩りをしても水平移動だけで済む。実入りは確実に増えるはずだ。


 うちで冒険者学校の卒業生をかこっておけば何かいいこともあるだろうという単純な考えから、トンネル東口に寮を建てようということになった。現在宿泊施設がないため十数人程度なら余裕があるので、寮が完成するまでは、実費だけを徴収して冒険者学校に住まわせればいいだろう。


 四輪車については買い取りしてもらう。寮の部屋は今の冒険者学校と同じような四人部屋で十分と『鉄のダンジョン』希望者に言われている。


 四人部屋で最大四十名程度収容できる寮なら、二カ月程度で完成するだろうということで、フォレスタルさんに発注した。


 寮母さんの方も商業ギルドに依頼して募集している。食材や日用品は、冒険者学校同様ヒギンスさんのお店に頼むことにした。確実に商材がはける顧客があると商売に余裕が出るだろう。どんどん大きくなってもらいたい。



 少し早いが今年も年越しのための餅つきも催した。今年初めての六人とマーサ、それに特別参加のベルガー姉妹はきねの重さに驚いていたが、あちらこちらで、『でしょ?』が聞こえてきた。餅は多めに作って、温かいまま収納しているので、硬くなることはない。アンコときな粉も大量に用意している。大みそかの前日辺り、王宮の勇者連中に今年も届けるだけは届けてやろうと思っている。


『でしょ』のラッティーに、『実家にたまには顔を出した方がいいんじゃないか? いつでもアトレアまで連れて行ってやるからな』と言ったら、『大学を卒業するまでは帰らない』とか言われた。今くらいの歳でそこまで気を張る必要はないと思うが、そこは言わないでおいた。


 

 年が明ければ、今年も舞踏会が開かれる。俺もアスカも招待されている。今回はシャーリーとラッティーにも招待状がきた。というか、出仕日のいつもの昼食時にリリアナ殿下に二人を連れていきたいと頼んだら、王宮から正式に招待状が送られてきた。


 二人の衣装はすぐに用意したので、準備万端だ。俺とアスカもそのとき一緒に新しい衣装を作っている。


 ダンスの腕前の方は、練習を始めて以来真面目に取り組んでいるシャーリーもラッティーも当然俺以上だ。若いって素晴らしい。俺はリリアナ殿下と一、二曲踊っておけば義務は果たせるので今の必殺技タンゴ一本で大丈夫だ。



 戴冠式の帰りに捕まえた白ヘビをリリアナ殿下が俺に預けてきた。王宮でしばらく飼っていたのだが、元気がなくなったと言って泣きついてきた格好だ。アスカによると、おそらく室温が低く眠くなっているのではということだった。


 殿下の頼みを断るわけにもいかないので、今はうちの温室に水槽ごとおいている。


 うちの温室は、アスカの作ったセントラルヒーティングでボイラーから温水を引いているため、今の季節の天気の良くない日でも結構温かい。


 そのせいか、白ヘビは元気ににゅるにゅるしているとアスカから報告があった。


 ちなみに預かった白ヘビを温室に入れて以降俺は温室内には立ち入っていない。その代り白ヘビはうちの女子たちには結構な人気のようで、入れ替わり立ち代わり温室に出入りしている。エサは、ブラッキーとホワイティーと同じドラゴンの切り身だが、当然こちらの方は量も少ないし、細切りだ。エサは今のところ決められた量をアスカがやっている。基本はブラッキーとホワイティーにエサをやったあと、朝食前のことなのだが、アスカの後を女子たちがついて温室に入っていく。アスカに頼んで代わってエサやりをしているという話だ。



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