第486話 運の使い方


 思わぬお客さま白ヘビを乗せた『スカイ・レイ』は何事もなく順調に飛行を続けた。


 やや早い時間に収納庫の中に用意していた夕食をみんなに配り、食後少し落ち着いた午後七時。



 陽が沈んですでに一時間以上経っており、星空のもと、前方に王都セントラルの明かりが見えてきた。


 帰還予定時刻は午後六時頃と言っていたので、少し遅れている。そのため王都上空を周回することなく、まっすぐ着陸場として指定されている第3騎士団の訓練場上空まで進み、そこから降下して着陸した。目印にかがり火を周辺でたいてくれていたので、その真ん中に『スカイ・レイ』は着陸した。



「ショウタさん、アスカさん。このたびは本当にお世話になりました。ありがとうございます」「ありがとうございます」


 殿下以下四名に感謝され、


「いえ、こちらこそ楽しい旅をすることができました」とか言っておいた。


 出迎えの人たちに挨拶をすませ、四人の荷物を迎えの人が用意した荷車の上に置き、その上に白ヘビの入った水槽を置いてやった。


 アスカがかなり重たいと言っていたので、どんなものかと思って俺が自分で持ち上げて水槽を艇外に運んだのだが、確かに重かった。俺が重いと感じるくらいだから、数人で取り扱った方がいいと思う。そこらへんは、殿下にも言っておいた。


「それでは、失礼します」


 俺とアスカは『スカイ・レイ』に乗り込み、そのまま屋敷に戻った。




『スカイ・レイ』の着陸時の噴気音が聞こえたのか、屋敷の南の草原くさはらには、うちの連中が揃っていて出迎えてくれた。


「ショウタさま、アスカさま、ご苦労さまです」


 最初に家令のハウゼンさんが頭を下げ、残ったみんなもその後頭を下げた。それがいいことなのかどうか今のところ判断できないが、だんだん、うちも貴族っぽくなってきた。


 俺自身、格式などといったものはそこまで必要なものとは思えないが、世間の考えている普通から大きく逸脱いつだつして勝手気ままに生活していいとも思っていない。わがままを通す必要もないようなところでわがままを通せばいずれ軋轢あつれきが生れると思う。


 その日は、いつもよりだいぶ遅くなってしまったが、帰宅後すぐに風呂に入った。


 約一週間ぶりのお風呂だ。大きな湯舟で足を伸ばすと疲れが取れる。疲れと言っても肉体的な疲れは感じていないので、精神的な疲れだろう。


 襲撃者に対する対応で、それなりに気を張っていたのだが、その程度ではあまり精神的に疲れた感じはしなかった。やはり先ほどまでの精神的な疲れは、アスカの捕まえた白ヘビのせいに違いない。アスカの目の前でのたくったままの形で宙に浮いたいたところを思い出したら鳥肌が立ってきた。


 リリアナ殿下がヘビが可愛いという感覚を持った人だとは思わなかった。


 そんなことを考えて、いつもより長めに風呂に浸かっていたら、アスカも俺と同じくらいに風呂に入ったようだが、俺よりも早く風呂から上がったようだ。


 風呂から上がり、部屋着に着替えたら、ゴーメイさんが夜食にサンドイッチを用意してくれたという。『スカイ・レイ』での夕食が少し早かったので、小腹が空いてきたところだったので丁度良かった。明日の朝にでもパルゴールで仕入れた食材をゴーメイさんに渡さないといけない。



 パルゴール行きの前には屋敷の改修増築も完成して食堂もかなり広くなっている。


 アスカと一緒に夜食のサンドイッチを広くなった食堂で食べていたら、


「パルゴールはどうでした?」


「リリアナ殿下はお元気でしたか?」


「戴冠式は見事でしたか?」


 などと、うちの連中が食堂に集まってきていろいろ聞いてきた。


 一々それに答えていき、ついでなので、お土産みやげをみんなに配っていった。


 一人一人特別なお土産というと差が出てしまうので、いつも女性陣には同じものを選んで買って来ている。男性陣にはいつも通りのお酒だ。


 今回の女性陣へのお土産みやげは、女性用の手袋にした。かなり薄手の革でできた濃い目のベージュの手袋なのだが、さわり心地もいいし結構暖かいらしい。


 屋敷の中がセントラルヒーティングになった関係で、外との寒暖差が大きくなったはずなのでちょうどいいのではないだろうか。


 大きさは大・中・小の三種類。アスカが全員の手の大きさを知っているというので、間違いはないだろう。


 みんなが、パルゴールでの一週間について聞いて来るのだが、まだ子どもの六人もいるし、襲撃があったことなどは話さなかった。


 みんなと話している時間は、あのヘビのことをすっかり忘れることができてたようだ。


「マスターはそんなにヘビが苦手ですか?」


「ああいった長いものはどうも苦手で見るだけでもイヤなんだ。危険がないことが分かっていてもイヤなのものはイヤってあるだろ?」


「私にはそういった感覚はありませんのでよくわかりませんが、マスターが苦手であるということを私が知ったことは、マスターにとって幸運でした」


「アスカさん、何が言いたいの?」


「実は、せっかくの温室ですから何か動物でも飼ってみようかと思って、その第一候補として爬虫類のトカゲかヘビを考えていました。マスターがヘビを嫌がるようでは、トカゲも考えられませんから、無難にとりでも飼いましょう」


 ラッキー! 実にラッキーだった。アスカがヘビでも飼い始めて、俺が知らずに温室に入っていったら大惨事になるところだった。まさに豪運。仕事をしてくれたようだ。


 待てよ、鳥ではなく「鶏」? 何故なぜにニワトリ?




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