第479話 帝都見物2、襲撃未遂
砂漠大ネズミはゲテモノ料理なのではないかと思っていたが、名まえさえ知らなければ、極上のシチュー食材だ。硬いにもかかわらず、一度潰れると柔らかくなるあの食感が癖になる。どこで売っているのかアスカに調べてもらって、時間があれば購入してしまおう。あと、シチューの中でトロトロになるまで野菜が煮込まれていたはずだが、どういった野菜が使われていたのか、アスカに調査してもらわなければいけない。
大満足の昼食を終えて店を出て、少し歩いて大通りに戻った。
「もう少し大通りを下ると、先ほどの像のような感じで、道の真ん中に噴水があります」
王女さまと異国の都の噴水か。どこかで聞いたことのあるようなシッチュエーションだな。
少し大通りを下っていくと、道が膨らんだ真ん中が小さな広場になって、その中に池が作られていた。池の中には女性の立像とそのわきに寝そべったライオン像があり、池の真ん中から高さが三メートルほどの噴水が上がっていた。
池は周りを石でできた階段で囲まれていて、階段の上に数人が像に背を向けて腰を掛けていた。
池を覗いたところ、澄んだ水の底にはお金などは沈んではいなかった。海外旅行などに行くとこういった池を見つけると小銭を投げ込む人がいるが、ここではそんな人はいないようだ。
「マスター、季節がらアイスクリームを
いきなり訳の分からない事をアスカが言い始めた。今日の天気も快晴で日差しもあるので冷え込むわけではないが空気は冷たい。アイスクリームは確かにおいしいがさすがに外では食べたくない。
「そんなに寒くはないと言ってももう冬だからな」
「そういう答えが返ってくると思っていました」
アスカが俺にどんな返事を期待していたのは分からないが、どう返事を返すのが正解だったんだろう?
「リリアナ殿下もそろそろお疲れでしょうから、ゆっくり宿屋に向かっていきましょう」
「正直助かります。もう少し体を鍛えておかないとダメですね」
「少しずつでもいいので、欠かさず毎日体を動かしていればそのうち慣れてきますから大丈夫です。本当につらいなら遠慮せずに言ってください。スタミナポーションをはじめ、各種のポーションを持っていますから」
「そこまでつらいわけではありませんが、そう言っていただきありがとうございます。そういえばショウタさんは大陸一の錬金術師さまでしたものね」
「殿下には正直にお話ししますが、たまたま『エリクシール』と相性が良くてあれだけは作ることができますが、他のポーションはほとんど何も作れません。それに『エリクシール』もそれなりに製法が微妙なため、アスカがいなければ私一人では作れないと思います」
「まあ、またご
正直に話したら殿下に怒られてしまった。
まあいいや。今ではヨシュアたちがうちでいろいろなポーションを作っている。そのポーションも、安定した品質と供給量のおかげで、市場ではかなり高い評価を受けているようで増産してくれと商業ギルドにいつも頼まれている。二人の能力的にはまだまだ生産量に余裕があるが、競合する人たちの仕事を奪うようなことまでしたくはないので、いまのところ増産は考えていない。
今回の殿下をお連れしてのパルゴールでの戴冠式列席については、王都から出発してまた王都に戻るまでの殿下の身の安全をお守りする必要があるため、ミニマップの方をかなり
このまま何事もなく、戴冠式を終えて王都に帰還したいものだ。
そんなことを考えながら歩いていたら、後方五十メートルくらいの位置にいきなり敵を表す赤い点がミニマップに現れた。それもいきなり二つ。その二つが並んで俺たちの後を
リリアナ殿下たちを驚かさないよう、小声でアスカに、
『アスカ、敵が現れたようだ』
『こちらも確認しています。敵は若い男女二人組です。マスターは相手の武器を指定して一度収納して、そのあと相手の足元に取り上げた武器を排出してください。いずれ暗器の
『分かった。しかし、拘束した後どうする?』
『おそらく、帝国の官憲が私たちを遠巻きに警護していると思いますから、大丈夫だと思います』
『それもそうだな。それじゃあ、いくぞ』
『はい』
二人組が二十メートルほどに迫ったところで、振り返ることなくミニマップを通じて武装解除してやった。手に持っていたのか懐に隠し持っていたのか、各自がおそらくダガーとか呼ばれる小型の短剣二本と投擲用と思われる太めの針のようなものを持っていた。それが大きなガシャガシャ音を立てて二人組の前に転がった。
通りを行く一般の人も振り返りかなりの注目を集めたなかで、リリアナ殿下も後ろで響いた大きな音に振り返って、
「だれか何か落としたのかしら?」
二人組は、自分たちの足元に大きな音を立てて武器が転がったところで足を止め、それが自分たちの持っていた武器だと気付いてさらに
「隠し持っていた短剣を道に落としたようです。この帝都の中で物騒な連中ですね。
以前、アデレートに、いたるところでこれ見よがしに八角棒を持ち歩いたり振り回したりしていた危ない男がいたようだが、彼は隠し持っていたわけではないのでセーフ。
「私たちは、ショウタさんとアスカさんが守ってくれると信じていますから安心です」
不安や不信感あると守れるものも守れなくなるので、こういった信頼はありがたい。逆にこの信頼には必ず応えなければならないし、応えるつもりだ。
人が集まって来たようなので、振り返って後ろの方を見ると、私服を着た数名に先ほどの二人が取り押さえられていた。その際二人組がどんな連中なのか確認したが、いたって普通の
それだからこそ、どこか組織だったところの実行部隊の可能性が高いと思う。
これはスパイ映画の見過ぎ的な感想ではある。取り押さえられた二人組がどこに連れていかれるのかは知らないが、あまりいい思いはしないだろう。
われわれが帝都に到着してまだ丸一日も経っていないのにもかかわらず、素早い反応だ。隣接するメリナ共和国がらみだとすると対応が早すぎるので、帝都での出先機関の独断ないしは、あらかじめ決められていた行動だったのだろう。
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