第475話 ご挨拶
デリバリー業務を終えて、アデレートから派遣されている騎士団の人に連れられて、みんなのいる部屋に戻ってきた。いちおうリリアナ殿下の用事も済んだらしく、これからアリシア陛下のもとに非公式に挨拶するため、俺を待っていたそうだ。
因みに、正式なアデレート王国代表としてのリリアナ殿下の祝辞は、戴冠式中、アリシアさんの戴冠が終わり正式に帝位に就いたあと、新皇帝およびパルゴール国民に向けて行われるそうだ。
案内の人に連れられて、かなりの距離を歩いたが、さすがに帝宮内部には俺の知人の知っている人物による破壊の爪痕は残っていなかったようで、少し安心した。知人の知人は俺自身ともいうな。
リリアナ殿下とアスカと俺で訪れた場所は、以前俺とアスカでこの帝宮を急襲した時には一度も通らなかった、帝宮の西側の一室だった。俺たちの通った東側の通路はそれなりに場所によっては大きく壊れているので、復旧に手間取っているのかもしれない。仕方がないよな。
案内の人に招き入れられた部屋には楕円形のテーブルが真ん中に据えてあり、部屋全体は金ピカの装飾とマホガニーっぽい茶色の模様の綺麗な艶のある壁板の張られた部屋だった。天井には格子状に梁が渡され、梁と梁の間の正方形になった天井板には幾何学模様が描かれていた。まさに贅を凝らして貴賓を迎えるための部屋なのだろう。
おそらくアデレートの王宮にもこういった凄い部屋はあるのだろうが俺は入ったことはない。貴賓ではないから当たり前ではある。
アリシアさん、ハンナさん他数名の人が席から立ちあがって、われわれを迎えてくれた。
殿下、俺、アスカの順で一言お祝いの言葉を述べてアリシアさんと握手をしていく。なんだか、国のお偉いさんになったような気がしてきた。以前の俺だったら緊張してアスカに助けを求めていた場面だと容易に想像できるが、不思議なことに今回は何も緊張することも無く握手することができた。俺って、意外とこういうのに向いているのかも?
各々席に着いたところでアリシアさんが、
「みなさんよくお越しくださいました。リリアナさんはアデレート国王の名代ということですので、式当日はよろしくお願いします。ショウタさん、アスカさん、その節はありがとうございました。こうして、帝都で正式な戴冠式をおこなうことができるのもアデレート王国とショウタさんアスカさんのおかげです。それに、今日は式のため大量のお酒をいただき、重ね重ねありがとうございます」
「戴冠式おめでとうございます。お土産のお酒はショウタさんのおかげです。陸路であれほどの量を運ぶには、商隊をいくつも編成する必要がありますが、ショウタさんの収納とアスカさんの操縦する飛空艇の組み合わせで大量の輸送が短時間で可能になりました」
「噂以上の収納量で、驚きました」
と、アリシアさんが言うと、後を引き継いでハンナさんが、抜け目なく俺の収納について探りを入れてきた。
「実際のところ、ショウタさんの収納の限界ってどのくらいなんですか?」
正直に言っても信じてもらえないかもしれないし、あとあと面倒なことになっても困るので、適当にはぐらかすことにした。
「詳しくはお教えできませんが、今回運んだ量程度では収納の方は全く支障ありません。余裕で他の物も運べます。そういえば、飛空艇も収納の中です」
「ショウタさんがいて飛空艇があれば
「ありがとう。リリアナさんはショウタさんたちと飛空艇でご一緒だったそうで羨ましいかぎりです」
「ちょうど、ショウタさんたちも招待されていたそうで、一緒にショウタさんの『スカイ・レイ』に乗せていただきました。温かくて美味しい食事の他に冷たいお菓子も頂きました。シャーベットという氷菓はこれまで何度か頂いたことはありましたが、アイスクリームという氷菓の甘さと舌ざわりはまた格別でした」
「アデレートにはそんな美味しいそうなお菓子があるんですね。この宮殿の厨房でも製氷機という魔道具をアデレートから輸入したはずなので、そういった新しいものを取り入れてほしいのですが、直接私から言う訳にもいきませんから、料理人たちが気を利かせてくれるのを待つしかありません」
「ただの皇女の時は、食事内容などに希望を述べても差しさわりなどありませんでしたが、皇帝にまでなってしまうと、そういった個人的な希望などを口に出せなくなるようです」
「ほんとですか? 確かに私も父からそういった言葉は聞いたことは無かったかもしれません」
「私では、難しいことは分かりませんが、先般ショウタさんは宰相付きの政務官に、アスカさんは同じく政務次官になられましたので、今後は少しずつ王国の仕事をされて行くと思います。
アリシアさんが帝都にお戻りになって寂しい思いをしていましたが、こうして故郷にお戻りになられて晴れの日を迎えられることになり、本当に良かったと思っています」
「リリアナさんは本当にお優しい方なのですね」
「意外とわがままな性格ですから、優しいとかではないと思います。お二人にとっては迷惑かもしれませんが、これから式の前日までショウタさんたちと帝都見物をする約束ですから」
「迷惑などとんでもないです」
「ますます、羨ましい。
私もご一緒できれば良かったんですが、さすがに宮殿から抜け出せませんので、楽しんできてください」
そういった話をしているあいだ、出されたお茶とお茶菓子を黙々と食べていた人物が一人いた。誰がとは言うまい。
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