第474話 戴冠式4、デリバリー業者


 宿屋で割り当てられた部屋に入り、アスカと俺で順に風呂に入りその日は相当早く眠りについた。


 ルームサービスは、各階の階段口に立っている係りの人に頼めばよいのだが、俺の場合、飲み物や軽食、それに着替えなどは大量に収納庫の中にストックしているので、そういったサービスの依頼は不要だ。


 今回、リリアナ殿下の随員のような形でこの国に来ているため、どういった形であれ宿屋や移動にかかる費用などはアデレート王国持ちになっている。


 明日は、八時に殿下たちと下の食堂で朝食とる約束をしている。そのあと、帝宮の一画をアデレート王国から派遣された騎士団員たちが使っているそうなので、一度そちらに顔を出し、その後、新皇帝、アリシア陛下にあいさつに回る予定だ。俺の方は、帝宮内の倉庫に王国からのお土産の嗜好品おさけを収納から降ろしておく仕事がある。





 翌日。


 侍女の人たちは食堂などでは、リリアナ殿下や俺たちとは別のテーブルで食事をとると言っていたそうだが、殿下が一緒で構わないときつく言ったそうで、今朝も六人で同じテーブルを囲んだ。『スカイ・レイ』のような狭い空間では座席で食事するしかないので、こういった気を使う必要は最初からないのだが、通常、殿下と同席して食事することなどない侍女の人はかなり緊張しているようだ。


 席は俺の向かいに殿下、殿下の左右に侍女の人二人、俺の左にアスカ。右に三人目の侍女の人。という形になった。



 軽く朝食を食べて、少しゆっくりしてから、帝宮から差し向けられた馬車が到着したので、それに乗って帝宮に向かった。


 帝宮正面から両翼にかけて俺が外壁を完全破壊してしまった関係で、外壁はない。帝宮を囲む外壁自体、将来的にはあまり意味がなくなるだろうということで、残っている外壁も取り壊し、代わりに植樹して見た目を整えていくそうだ。


 帝宮前の大通りから帝宮が良く見えて、国民に親しまれる政府が演出できて、この方がいいのではないだろうか。外壁を壊した主犯がそんなことを言ってはだめか。


 外壁の再建は諦めたそうだが、俺が外してしまった帝宮の正面玄関ホールの大きな扉はちゃんともとの形に収まっていた。今は開け放たれている。


 その扉に続く階段前で、馬車を降り、出迎えてくれた、アデレートの騎士団の人や帝国の人にリリアナ殿下がにこやかに礼を言いながら、案内の人について、騎士団の入っている一画に向かった。


 現在パルゴールの帝都ハムネアには、アデレートから外務省のお偉いさんと第1騎士団の副団長さんが文武のトップとしてここに詰めているそうだ。


 アデレートの官僚組織上では、おそらく宰相付き政務官の俺がここでは役の上ではトップになるのだろうが、だから何? 状態なので、最初、自己紹介などのあいさつが終わったところで、俺はアスカをその場に置いて、すぐにお土産みやげの置き場所に案内してもらった。


 騎士団の人に案内されたのは、帝宮にいろいろな物資を搬入する通用門の手前の広場だった。戴冠式の前夜から帝都内の各所に樽を置いて戴冠式を祝う国民に提供するので、馬車などで搬出しやすいよう、ここらに並べてくれと言われた。帝国側でも確認の人が来ており、最終確認を両国で行うようだ。そこらへんは俺とは無関係だ。


 俺が異常な容量の収納が可能であることはもはやみんな知っていることなので、今回持ってきたお土産リストかくにんしょを案内の人に渡して、確認してもらいながら樽を並べていった。複数の馬車を同時に取りまわす必要のある広場なのでかなり広い場所だったのだが、三段重ねだと人力では扱いづらいかと思い、縦に二段重ねにして樽を置いていったら、かなりの面積を占めてしまった。まあ、何とかなる何とかなる。


 俺が、作業していたら、帝国側の人もやって来て、そこではなくあっちだとか、いろいろ俺に指図し始めた。


 これには、俺をここに案内してくれた騎士団の人が慌ててしまい、急いでその帝国の人に耳打ちしたところ、平謝りされてしまった。


「まあ、伯爵閣下がこんなところで実労働をすることはあまりありませんから、仕方ないですよ。アハハ」と笑っておいた。


 今回受け渡した品目数は三品目しかなかったため、今回の受領確認書は紙一枚だ。それに写しが一枚。


 品名、ビール。数量、1000樽。

 品名、ワイン。数量、500樽。

 品名、蒸留酒。数量、100樽。ただそれだけだった。


 紙に書いてあるとそれだけだが、樽が目の前に二段重ねに置かれて場所を取っていくと実感がわくようで、案内してくれた人も、数を確認しながら、暑くもないのに汗を拭いていた。高さが一メートル弱、真ん中あたりの太さが七十センチほどの樽だ。かなりの場所を取る。十メーター四方に縦に二段重ねでだいたい五百樽。一樽の重さは樽の重さを含めて約三百キロ弱だそうだ。プロが運搬を担当するのだろうから何とかなるのだろう。あとは任せた。


 今回、俺がお土産を運搬することを申し出たことで、王都内外から酒類をかき集め、王宮の酒蔵からも相当数提供したそうだ。とはいっても数十万人が住む帝都だ。今回のお祭り騒ぎですぐ無くなってしまうだろう。それでも国民には喜ばれるだろう。


 作業を終えて確認書に一応サインをもらっておいたが、伯爵かつ政務官の宅配業者に対して、担当してくれた騎士団員の人が先ほどの帝国の人のこともあったせいか、サインを書きながらかなり恐縮していた。確かに、立場が逆なら、相手がいくら若造といっても、俺でも恐縮したと思う。




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