第473話 戴冠式3、帝都到着
[まえがき]
誤字報告ありがとうございます。
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王宮近くの騎士団訓練場から、リリアナ殿下以下の乗客四名を乗せた『スカイ・レイ』はパルゴール帝国の帝都ハムネアに一路飛行を続けている。すでに前方、左右、見渡す限りの砂漠地帯だ。砂漠の上に
「これが、砂漠なんですね。ところどころに緑が見えますが後は黄土色の砂の地面。話に聞いて、本で読んだだけで想像していましたが、こんなに高いところから遠くを見てもどこまでも続いているとは想像していませんでした」
「殿下ならご存じでしょうが、この砂漠の広さは、アデレート王国よりも広いそうです。砂漠の中に水を引いて灌漑ができれば、農業も盛んになって国が栄えるでしょうが、水源がなければ難しいですよね」
「そういえば、父上に聞いた話ですが、鉱山・
「ほう。国内が一応片付けば、こういった砂漠にも水脈を見つけてくれればいいですね」
この世界でも、魔術や魔法は戦いのために発達してきたのだろうが、こういった社会全般に役立つような技術も着実に進歩しているようだ。それもこれも、この国が余裕があるからだろう。
今の国王陛下は、リリアナ殿下が成人すればすぐに王位を譲るとか言っているそうなので、その通りなら、だいたい四年後には殿下が国王として即位することになる。四年ほどでは社会に目立った変化はないだろうが、それでも、そのころには今の勇者たちが『魔界ゲート』を封じているだろうし、世の中全体が明るいムードになっているだろうから、新国王の治世は前途洋々なものになるだろう。
俺も、その治世の中である程度頑張ってやろうなどと最近は思い始めている。
『スカイ・レイ』は順調に飛行を続け、陽もだいぶ傾いてきた。
到着まであと二時間ほどになったところで、西の空に沈んだ。西の空はまだ明るいがすぐに暗くなるだろう。
艇内では、外の天候に関わらず常に照明をつけているので、不自由はない。
アスカによると到着予定時刻は午後六時四十分だそうだ。
宿泊場所が帝宮前の大通りに面した宿屋だったので、着陸場所は、以前俺が爆撃してたあの帝宮前の広場ならよかったのだが、さすがにそれは許されなかったようで、帝都の中心部からやや外れた広場ということになっている。
こういった
その着陸場所から、宿屋に入ってからの食事となると、少し遅くなりそうなので、艇内での夕食ということにしている。
「少し早いですが、そろそろ夕食にしましょう」
夕食は、ちゃんとしたお皿に
コース料理となると、さすがに素人の俺が給仕するのは難しいので、収納から温かい料理をワゴンに乗せていくだけで、あとはお付きの侍女の人たちに任せておいた。
食事の後のアイスクリームは残念ながらバニラは見つからなかったため、イチゴ味と蒸留酒に漬けたレーズンの入ったもので、侍女の人たちがしきりに作り方を聞いてきたが、俺もわからないので、アスカが答えていた。
かなり遠方から、都市の明かりが見えてきた。アスカに聞いたところ、
「ハムネア上空まで、あと八十キロ。着陸まで二十五分です」
離陸前に、預かっていたコート類をお客さまに返して、着てもらった。これで一応準備は整った。俺とアスカは普通の上着程度で十分なので、上にコートなどを着る必要はない。
「まもなくハムネア上空に進入します」
それから、五分ほどで『スカイ・レイ』は空き地に着陸した。
着陸場所にはかがり火が焚いてあった。アスカの操縦なのであまり気にはしていなかったが、夜間の着陸のため帝国側が気を利かせてくれたようだ。
全員『スカイ・レイ』から降りたところで、収納し、着陸場所に集まってきた人たちの方へ移動する。
帝国側から、ハンナさん以下数名の軍人とそれ以外の文官?のような人が十名ほど。王国側からは、騎士団の人が十名ほどが出迎えに来てくれていた。
リリアナ殿下が代表して帝国側の人たちに礼を述べて
アデレート王国も帝都内に大使館を置いていたようだが、クーデター騒ぎの中一度大使館員たちは国に引き上げており、その間大使館そのものが荒らされてしまったようで、復旧工事がまだ終わっていないそうだ。帝国側は大至急復旧工事を行うと言ってくれていたようだが、帝都の復旧を優先してくれと、王国側が断っている。
アデレート王国からのアリシア陛下の戴冠式への参列者は、まだ帝都に到着していないそうだが、そういった
馬車は、俺とアスカで一台、リリアナ殿下たち四人で一台という割り振りで、われわれの馬車の前を帝国側の騎馬が進み、後ろをアデレートの騎士団員たちの乗った馬車が続いた。
帝国側の人たちやアデレートの騎士たちとは宿屋の前で分かれた。宿屋の前の車寄せで待機していた宿屋のボーイさんが荷物をお持ちしますと言ってくれたが、俺が全部の荷物を持っているので、気にしないでくれと言ったら、キョトンとしていた。
玄関を入り、玄関ホールの向こうにカウンターがあったのでそちらに六人そろって歩いていたら、カウンターから宿屋の支配人を名乗るおじさんが小走りに俺たちの方にやって来た。
挨拶もそこそこに、支配人に連れられて、最上階である五階に階段で上った。支配人さんによると、俺とアスカで一スイート、殿下たち四人で一スイートという部屋割りになっているそうだ。当たり前か。
この宿屋にも、魔導式エレベーターはあったのだが、現在は休止しているということだった。理由は、動力として使っている魔素貯留器に魔素を充てんできる人材がいま帝都では圧倒的に不足していることが原因ということだった。俺ならあり余る魔力だか魔素を供給できるが、しゃしゃり出ても仕方がないので黙っていることにした。
階段を最上階まで上るのは、殿下たちには大変だろうかと思ったがそれほどでもなかったようで、階段を上りながらでも普通に会話できた。
「立派な宿屋ですね」
「帝国一と
アスカは、帝国の宿屋のことまで知っているのか。
しかし、戦争とは言わないかもしれないが、クーデターは住民に多大な爪痕を残したものだ。
先に殿下たちのスイートに入り、預かっていた荷物を置いたところで、
「今日はありがとうございました。明日の朝、帝宮に挨拶に参りますが、その後からの市内観光も楽しみにしています」
殿下たちに礼を言われ、その後、俺とアスカは支配人さんに礼を言って自分たちのスイートに入った。
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