第472話 戴冠式2、飛空艇でのサービス
『スカイ・レイ』は第3騎士団の訓練場から、リリアナ殿下と侍女の人三名を乗せて発進した。四名を乗せた時には艇内は十分暖かくなっていたので、コートなどは俺が預かったおいた。
「ショウタさん、アスカさん、これから一週間、よろしくお願いします」
殿下に続いて、三人のお付きの人が頭を下げる。
「よろしくお願いします」
「任せてください。これからパルゴール帝国の帝都ハムネアまで約十時間の旅となります。殿下もお付きのみなさんもお
四人が座席に着いたことを確認し、すぐに『スカイ・レイ』は上昇を始めた。
上空に上がった『スカイ・レイ』はいつものようにゆっくりと王都上空を一周してから西のかなたパルゴールに向かう。
『スカイ・レイ』が旋回を終えて西に向けた水平飛行になったところで、まずは大きなトレイに温かいおしぼりを人数分載せて座席を回った。おしぼりは小さなトレイの上にのっけている。さらに、
伯爵閣下のサービスに侍女の人たちはかなり恐縮して手伝いたいと言ってくれたが、どうせ俺が収納から出す必要はあるわけだし、慣れない人が飛行中に立ち働くと危険などと言って納得させた。
常に全乗客の状況を把握しているはずのアスカが、乗客に危険が及ぶような急旋回などの操縦をするはずはないし、平地の上を高度千メートルあたりで飛行する『スカイ・レイ』がいままでエアポケット的な乱気流に入ったことなど一度もない。飛行中にそういった危険はないと思っているが、いちおう俺の仕事ということにしてしまった。
おしぼりを回収しつつ、今度は飲み物を配っていった。
アスカが操縦している
「殿下、右手に見える山並みにワイバーンが多数生息していて、周辺に危害を加えていたようだったので、以前冒険者ギルドの依頼を受けて討伐したんですが、その時ワイバーンの卵を見つけました。その一つを王都の『なんでもMONちゃん』というお店に譲って、ふ化させたんですが、まだ売れてないようです」
「ワイバーンというと、空を飛ぶオオトカゲとかドラゴンもどき、とか言われているモンスターですよね」
「そうなんですが、『なんでもMONちゃん』の店主さんがテイムのスキルを持っていて、テイムされたモンスターは人を襲うようなことはないそうなんです。しかも食事不要なうえ、粗相もしない。まさにペットとして最高だと、店長が言ってました。実はうちにもシローと言って犬型のモンスターのスノー・ハスキーの幼体を飼っているんですが、かわいいものですよ」
「トカゲはちょっと遠慮しますが、犬型のモンスターですか。いいですね。そういえば、ショウタさんのお屋敷では、グリフォンを飼っていらっしゃるんですよね? そのグリフォンも『なんでもMONちゃん』で?」
「いえ、グリフォンはモンスターではないので、テイムができるかどうかは分かりませんが、生まれたてくらいの時からうちで飼っていますので、私とアスカには良くなついています。私のことは『お父さん』、アスカのことは『お母さん』とか、声ではなくて直接頭の中に語りかけてくるんです」
「お二人のことを、お父さん、お母さん。ということはお二人をご夫婦と認識しているということでしょうか?」
「うーん、そこまでの考えはなく、ただ、男の保護者のことを『お父さん』、女の保護者のことを『お母さん』と言葉で表しているのだと思います」
ここで、なぜか、『スカイ・レイ』がカクッと揺れた。
「気流が乱れているようです」と、アスカが前を向いたまま説明してくれた。
こんな高度で、
「ご夫婦と認識しているわけではないのですね、安心しました」
「安心?」
「いえ、気にしないでください」
「それではそろそろ昼食にしましょう。
アスカ、これから昼食にするけれど、さっきのように気流が乱れることがあるかな?」
「それはもうないと思います」
それは良かった。いきなり乱気流だと食事なんかできないものな。アスカがそう言い切るのならそういったことは起こらないだろうから安心だ。
今回の昼食は、飛行機の機内食を真似て、トレイの中に小型の四角い器を並べその中に料理を少量ずつ盛ったものだ。それに、ナイフとフォークを付けている。コース料理ではもちろんないので、ナイフやフォークも一種類しかないがそこは我慢していただく。
座席脇の小テーブルをお客さまの座席の前にセットし直して、白いクロスをかけて、昼食のトレイとナイフもフォークとスプーンを置いていき、飲み物のオーダーを聞いて並べていく。
「これも、ショウタさんのお屋敷の料理人さんがお作りになったお料理なのですね。温かくてしかもいい香り。いくら料理人さんの腕前が良くても、作って時間が経てば味が落ちますが、ショウタさんの収納のおかげで、旅行中にもかかわらず、作りたてのおいしさを味わえて幸せです」
「これしか取り柄がないもので、恐縮です」
俺とアスカの昼食は簡単にサンドイッチで済ませた。アスカにサンドイッチを渡しながら俺もサンドイッチをほおばる。だいたいのタイミングはつかめているので、飲み物も適当に渡してやる。
食後には、
新鮮なイチゴは初夏の旬な時期に大量に仕入れたものを俺が保管していたからだ。イチゴに限らず、旬の果物や野菜はたくさん俺が収納しているので、うちでは旬の食材を使った料理が年中食べられるという寸法だ。
昼食がみんな終わったようなので、食事の終わったトレイなどを片付けながら、赤味の強いピンク色のイチゴのシャーベットが乗った白いお皿と小さめのスプーンをお客さまに配っていく。
王都では冷蔵魔道具が普及し始めていて、こういった氷菓もぼちぼち市中に出回っているようだが、ここまでのものはないだろう。
「おいしー! もしかして、ショウタさんやアスカさんは毎日こんなおいしいものを食べていらっしゃるのですか?」
「毎日はさすがに食べることはできません。週に一度くらいです。到着前の夕食のデザートにはアイスクリームという、クリームを凍らせてシャーベットのようにしたものをお出ししますので期待しててください」
「はい!」
リリアナ殿下以下四名が揃って返事をしてくれた。
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