第476話 帝都ハムネア見物


 アリシア陛下との挨拶あいさつを兼ねた会談?も終わり、リリアナ殿下、アスカ、俺、それに殿下のお付きの侍女の人一人、合計四人で帝都観光することになった。帝国側が馬車を用意してくれるという話だったが、歩いてみたいというリリアナ殿下の希望で、馬車は断った。スタミナポーションもあれば、ヒールポーションもあるから大丈夫だろう。


 本当に歩けなくなったら、文字通りアスカがお姫さま抱っこすればいいなどと他人任せのことを考えてしまった。もちろんどう見ても軽量級のリリアナ殿下なので俺でもお姫さま抱っこぐらいはできるだろうが、さすがに殿下も嫌だろうし、俺は正直に言えば嫌ではないが照れくさい。



「とりあえず、大通りを散歩してみましょう」


 そうリリアナ殿下が提案したので、四人で帝宮の正面の玄関大ホールから正面広場へ出た。今は無くなってしまった正門から、大通りは帝都を囲む外壁の南門まで続いているのでそれなりに距離のある通りだ。


 アデレートの王都セントラルにある王宮は王都中央に位置しており、王宮から東西南北に大通りが作られているが、西向きの通りが王都の正門に当たる西門に続いている関係で、パレードなどに使用されている。


 ここパルゴールのハムネアの帝宮は、ハムネアの中央ではなく北寄りに位置しており、俺たちが今立っている南北に走る大通りがパレードなどに使用される通りだそうだ。



 馬車は左側通行をしている。車線を示す線などは石畳の上には描いてないが、だいたい上下各三車線、計六車線の大通りだ。今は沿道の建物の三階辺りに旗竿を道側にのばしている作業を行っている。こういった物は高さが揃わないとカッコ悪いが、見た限りまっすぐ旗竿が並んでいる。


「パルゴールでは戴冠式にずいぶんと手間暇かけているのですね」


「アリシアさんはたしか第三皇女だったはずです。その第三皇女がアデレートの援助があったとしても、自力で帝室を復興したわけですから、いまや帝国の英雄です。ただの戴冠式で済ますことはできないでしょう」


 と、アスカの解説が入りリリアナ殿下も納得したようだ。もちろん俺も納得した。


「リリアナ殿下が王位を継ぐときはもっと派手にしますか?」


「何の実績もない私が王位を継ぐだけでもおこがましい話なので、簡単に済ませてしまおうと今のところ思っています」


「殿下、王位を継ぐ権利があったから王位を継ぐ。これは当然のことですし、そこに、国民は実績などを求めていません。国民の求めるのは王位についてからの実績です」


 アスカが急に雄弁になってしまった。


「アスカさんの言う通りでした。ショウタさんもアスカさんも私のためにいま王宮でいろいろ学んでいらっしゃるのですものね」


「そういうことです。できるだけ派手な戴冠式を行って、その戴冠式に恥ずかしくない政治を行えば国民誰もが納得して、幸せにもなります」


 アスカが今日はえらく雄弁だ。最近は王宮に出仕しても何もすることも無いので、アスカとお茶を飲みながら駄弁っているだけだ。お茶は午前と午後の二回侍女の人が運んでくれるのだが、それだと間が持たないので、俺の収納の中に入っているお茶やお菓子、ジュースなどを適当にだして、二人でいただいている。勉強しているとはとても言えない。召喚以前の俺だったら、何もしないことに不安を覚えていたのかもしれないが、この世界の荒波に揉まれたとは言えないまでも、相当面の皮も厚くなってきたようで、その程度のことなど気にならない。



 よい日差しの中、大通りの端を四人で歩いていたら、いま宿泊中の宿屋を通り過ぎて、大通りが膨らんでその通りの真ん中に石像が建っていた。


「何の像なのかな?」


「あの像は、この国を建国したアントレ・パルゴール、アントレI世の像です」


「アスカは、この国の歴史も知っているのか?」


「主要国の歴史も付属校の入試で出題されますので、私も講師をしています関係上そういった物は漏れのないよう押さえています。一人だけで立っているあの像では分かりませんが、相当体の大きかった人物のようです。何でも、身長は二百二十センチを超え、体重も二百四十キロ近くあったそうで『大巨人アントレ』などと呼ばれていたそうです」


 確かにその大きさでは大巨人だ。ただ、付属校の入試にいくら大国の建国者だからと言って身長や体重が試験問題に出るのだろうか? それに、子孫であろうアリシアさんはけっして大柄ではない。


 一度見聞きしたことは確実に覚えてしまうアスカだからこそで、一般人には無理な話だよな。


 帝都の見物がてらの散歩が以前のような社会科見学になっては、リリアナ殿下たちに悪いので、俺がフォローしなくてはと思っていたら、リリアナ殿下が、今のアスカの話を聞いてどうも感心したようだ。


「アスカさんは本当に博識なのですね。私も歴史の先生から主要国の歴史も教わってはいますが、建国者の背の高さなど聞いたことは一度もありませんでした。そういったことを知るとただ事跡を追うだけだった歴史が、何だか生き生きしてきますね」


 なるほど、そういった意味合いで、歴史上の人物の身長・体重をアスカは口にしたわけか。教育は奥が深いってことだな。



「こういっては失礼ですが、リリアナ殿下は、これだけ歩いて少しもお疲れのようではありませんね」


「ショウタさんやアスカさんがいつも駆けまわっていたという話を以前耳にして、それ以来私も体を鍛えています。

 鍛えていると言っても王宮内では走り回れませんので歩いているだけですけど」


「それはいい心がけですね。毎日体を動かしていれば薬など使わずに健康を保てるようです。とはいえ、何かありましたら相談してください。大抵の病気やケガに効く『万能薬』という物を今屋敷の者を使ってかなりの数を作っていますので遠慮は無用です」


「そういえば、『魔界ゲート』前に砦を建設して、魔族の侵攻に備えていますが、『魔界ゲート』が開いて実際に戦いになった時は、亡くなる方やそれ以上に多くの方がケガをされると思います。その時にショウタさんの『万能薬』があれば命を救うことも可能なのでしょうか?」


「『エリクシール』の場合は、死んでいなければあらゆるものが元に戻りますが、万能薬ではそこまで試したことがないのでどの程度の効用があるかはまだ分かりません。

 しかし、ケガをして時間を空けず服用すれば、部位欠損を含む大怪我でも半日もあれば全快すると思います。そのあと半日、食事を大量に摂取すれば元通りになると思います。『魔界ゲート』が開く前にある程度まとまった数の万能薬を提供できると思います」


 話しながら歩いていたら、『魔界ゲート』の話になってしまった。予測される『魔界ゲート』の開放まで半年を切ってきた。あと六カ月。その時、俺はどうするのか。そろそろ考えた方がいいだろう。



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