第464話 魔法陣学科応用魔法陣教室
俺が、窓からマーサたちに向かって、
「今アスカが倒れていた人に万能薬を飲ませたところだから、大学の人が駆け付けてくるまでここで様子を見ている。マーサたちもそこでもう少し待っていてくれ」
そう言って、ケガ人を抱いているアスカのもとに戻るとすでにケガ人は意識が戻ったようで、目を開けていた。
「まだ、体は動かさないように」
何か言おうとしたケガ人だが、アスカにきつく言われたので何も言わずおとなしくなった。
「われわれは、この建物の前をたまたま通りかかった者だが、近くで爆発が起きたのでここに様子を見に来た。あなたがここで倒れていたので『万能薬』というたいていの傷病を完治できるポーションを飲ませたところだ。どこか体の痛むところはあるか?」
その人は、小さな声で、「いいえ」と答えた。
アスカが人一人抱きかかえるくらいでどうなるわけはないだろうが、俺は気を利かせて、そこらに転がっていた椅子を持って来てやった。
「マスター、ありがとうございます」
そう言ってアスカがその人をゆっくり椅子に座らせた。
見た感じ骨には異常はなさそうだし、万能薬を飲ませたのでもう問題はないだろう。とはいえ、まだ話のできる状態ではなさそうだ。
こちらから話しかければ返答しなくてはいけなくなるだろうから話しかけることもできないし、間が持たない状況になってしまった。
もうしばらく待っていたら呼吸も落ち着いているようだし、そろそろ話を聞いてもいいだろうと見切りをつけて、
「ところで、どんなことをしたらあんな爆発が起きるんですか?」
その質問に、一瞬考え込んだ白衣の女性は、部屋の中のありさまと、ガラスの吹き飛んだ窓、それに天井も被害の出ている状況に初めて気づいたようで口を開けて呆けてしまった。爆発が起こり一瞬で気を失って、気付けばこのありさま。それはもうビックリだろう。
そのあと、少し落ち着いた彼女は、ぽつりぽつりと事の
彼女の話では、騎士団からの委託を受けて魔導砲の強化に取り掛かっていたそうで、その実験をしようとして改良魔法陣に魔素を注入したところ、思った以上に強力だったため砲身自体が爆発したそうだ。砲自体は空砲だったことと、砲身の向きが窓方向だったためこの程度の被害で済んだらしい。
俺は、召喚魔法があるのかは知らないが、モンスターの召喚に失敗した
「お二人のお名前をお教えください」
「俺の名まえはショウタ・コダマ」
「私はアスカ・エンダー」
「コダマとエンダー? あれ、もしかして妹がお世話になっているコダマ伯爵さまとエンダー子爵さまですか?」
「あれ? そういうあなたは?」
「申し遅れました。わたしは魔法陣技師をしていますハンナ・ベルガーの姉のアデラ・ベルガーと言います、この大学で助教授をしています。魔法陣学科応用魔法陣教室の室長をしています。もっとも私の教室には今のところ助手もいませんし、この夏生徒が卒業したため今は一人も生徒を受け持っていません。この教室もこの委託研究が終わって、来年新入生が入らなければなくなってしまうかもしれません。そうしたら妹の仕事を手伝って養ってもらうつもりです」
助手もいなければ生徒もいなかったので自分一人で実験をしていたようだ。助手くらいすぐに雇えそうなものだが、さすがに魔法陣に対する素養がなければ、誰でもいいという訳ではないだろう。
しかも、魔法陣の素養があって十分それを扱えるなら、何も大学の助手にならずともいくらでも仕事はあるだろう。現に妹のベルガーさんもそれなりの収入があるようだ。まあ、アデラさんも学校を首になるか辞めるかしても就職先には困らないだろう。なんならうちで雇ってもいいくらいだ。
ベルガーさんからはお姉さんがいるとは聞いていなかったが、そう言われてみれば顔立ちがよく似ている。ような気もする。
俺たちがアデラさんと話していたら、外の方が騒がしくなって、そのうち、部屋の外の方から人が数人走ってくる音が聞こえてきた。やっと大学の人が駆けつけてくれたようだ。
大学の人がやって来たので、俺とアスカで応急処置をしたので、おそらくアデラさんの体の方は大丈夫だろうと言っておいた。あとは、アデラさんが大学の人に説明するだろう。
「それじゃあ、わたしたちはこれで」
そういって、マーサたちのところへ戻っていった。もちろん入って来た時と同じく今は無くなってしまった二階の窓から張り出しに出て、そこから飛び降りたわけだ。飛び上がることは俺ではできないが、跳び下りるのは簡単にできる。
「待たせた。中に居たのは、あのベルガーさんのお姉さんだった。ヨシュアたちが作ってくれた万能薬を飲ませたから、もう大丈夫だろう」
さすがにこのめぐりあわせにはマーサも驚いたようだ。
「そう言えば、ベルガーさんのご両親は健在なのかな? アスカは聞いているかい?」
「聞いてはいませんので、推測ですが、ベルガーさんが一人住まいのところを見ると、ご両親はすでに他界されているか、王都とは別のところに住んでいるのかと思います」
「それだったら、ベルガーさんにこのことは早めに知らせておいた方がいいよな。
ここから、屋敷までの道はみんな分かるかな」
誰も答えないので、誰も分からないようだ。なので、アスカが道を教えてくれた。
「大学の正門を出て、左に三百メートルほど行くと南北に走る大通りに出る。その大通りを北一キロほど進めばいつもの
「はい、それなら簡単ですから間違いありません」
「それじゃあ、俺とアスカはベルガーさんの家に行って今のことを知らせてくるから、みんなは今の道順で屋敷に向かっておいてくれ。おそらく途中で追いつけると思う」
そう言って、俺とアスカはベルガーさんの家まで駆けて行った。十分もかからず到着して、運よく在宅中のベルガーさんに先ほどの爆発事故のことを話しておいた。しきりに礼を言われたが、当たり前のことをしただけなので、気にしないでくれと言っておいた。ベルガーさんは、とりあえずお姉さんの自宅に向かうと言っていた。
俺とアスカは、それだけ伝えて、すぐにシャーリーたちを追いかけてベルガーさんの家をあとにした。
アスカと今日の事故のことを話しながら久しぶりに駆けていく。
「あの砲身は青銅製でしたので、砲身自身の強度が足りなかったため、あのような事故が起きたのでしょう。十分な強度のある砲身ならば、あの実験は成功していたと思います。やはり、材料工学的な素養も必要ですね。とはいえ、おそらく砲身は既存の物を転用したのでしょうから、魔法陣的にはかなり改良されているようです」
「なおさら、部屋の中でなく外でやるべきだったよな」
「マスターの言う通りです。おそらく、実際の魔導砲の発砲は経験したことがなかったのでしょう」
「だろうな。大砲の発砲をどういう形であれ一度でも見たことがあれば部屋の中で発砲はしないものな。ある意味大物ではあるな」
そんな話をして駆けていたら、
そのあと、うちで留守番中のおじさんたちへのお土産に酒屋に寄ってお酒をそれなりの量買ってみんなでそろって屋敷に戻った。
大学での爆発騒ぎでバタバタしてしまったここと、引率されているみんなも何も言わなかったので、冒険者ギルドの見学を忘れてしまった。アスカが忘れるはずはないので、アスカの方はわざとだろう。そのうち機会があれ連れていってやろう。
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