第463話 王立セントラル大学
新人たちにとって、当面目指すのは付属校なのだが、その先はこの王立セントラル大学に行くことになるので、大学の中身自体は分からないものの雰囲気だけはつかめたのではないかと思う。
大学ともなるとかなり構内が広く、建物もたくさん建っている。
とはいえ、学校に対して思い入れなど何もない今の俺からすれば、散策するにはいいのだろうが、あまり面白いものではなかった。俺以外の連中は大学の
空を見れば雲行きも怪しくなってきたし、この分だと雨が降りそうだ。人数分の傘はちゃんとアスカが買ってきて俺の収納庫の中に用意しているので、横殴りの大雨でも降らない限り、これもアスカが買って来て俺が収納している女物の下着の出番はないとは思う。
「ここの敷地には王立セントラル大学に四部ある部の中の、騎士養成部を除いた、文官養成部、魔法・魔術部、技術部の三部と大学の総合事務所が入っています。だいたい、ここら
「私のところに毎日通ってきて勉強しているいるベルガーさんは、ここの魔法陣科を卒業していると言っていました」
と、マーサ。
そういえば、ベルガーさんを最初は魔道具を作る人だと思っていたら魔法陣専門の魔法陣技師だったものな。やはり、大学を出ているからこそ、技師などと名乗っていたんだな。ベルガーさんはかなり見た目の若い人だけど、実はかなりの年齢だったりするのだろうか?
文官養成部や技術部といったいわゆる学部は俺の世界でも対応するものがあるので違和感がないが、この魔法・魔術部だけはどんなことを大学で教えているのか興味はある。だからと言って、その建物が他の大学施設と大きく変わっているかと言えばそんなことはなく、いたって普通の建物が並んでいる。建物自体はいわゆる学科に相当するもので分かれているのだろう。
そういえば、魔法使いだか、魔術師は俺の周りにはあまり見かけない。俺の知っているのは、フレデリカ姉さんとその師匠のベーアさんくらいだ。その二人も魔法は使えるようだが、魔法使いというより錬金術師だ。
あとは、召喚された当初、魔術の講義をしてくれたマーロン先生くらいか。想像しかできないが、マーロン先生は魔術師団の団長でもあるそうだから、相当な魔術師なのだろう。
建物を見ることぐらいしかできないので、少し建物から離れた小道を俺たちはぞろぞろと歩いていた。
ドーン!
そこへいきなり、目の前の建物から爆発音が聞こえた。その建物はこの世界ではモダンなガラス窓だったので、爆発のあったらしい二階の半分くらいの窓ガラスが吹き飛んだようだ。
「みんな大丈夫か?」
「大丈夫です」「びっくりしたけれどそれだけです」
運が良かったのか俺たちの方には破片は飛んでこなかったようでケガをした者はいなかった。モンスターを斃してある程度レベルを上げたものならPAである程度のダメージを防いでくれるのだが、子どもたちにはほとんどないし、他の連中もそんなに差はない。
「マスター、こちらに飛んできて被害を出しそうな破片は私が弾き飛ばしておきました」
運が良かったという訳ではなく、うちのイージスが全て撃ち落としていたようだ。
「俺には破片が飛んでくるところはなんとなく見えたが何も反応できなかった。さすがはアスカだ。大学ともなると、実験なんかも派手になるようだな」
「マスター、さすがに今の爆発は狙っての実験ではなく、なにがしかの事故ではないでしょうか?」
「高価なガラス窓を壊す実験をするわけないか。休日なのに実験をしていたんだろうけど、実験をしていた人は大丈夫かな?」
「何とも言えませんね。休日だけに人的被害は少ないのでしょうが、救助などの事後的対応は遅れそうです」
「それじゃあ、俺たちで中に入って様子を見るしかないか。幸い火事にはなっていないから何とかなるだろう」
「分かりました。マスターと私で中に入るとして、残った者は?」
「それじゃあ、マーサに見ててもらおう。
マーサ、俺とアスカで中にケガ人がいないか確認してくるから、ここから少し下がって、みんなを見ていてくれ」
「分かりました。お気をつけて」
確か宇宙軍とかの幼年学校に通っていたと言っていたマーサに頼んで俺とアスカで爆発の起きた建物の中に入ってケガ人などがいないか確認することにした。何かの事故としても無人で爆発は起こらないだろうから、きっとケガ人はいるはずだ。
「マスター、ミニマップでは一名中にいるようです」
俺の方が先に気づかなくちゃいけなかったな。最近あまり気にしてミニマップを見ていないので失念していた。
「動いていないな。生きてはいるようだが、ケガはしているのだろう。急ごう。そこの出入り口は閉まっているようだから直接二階の窓からだな。アスカ、悪いが先に二階に跳んで、俺を引き上げてくれ」
「はい」
そういったアスカが二階の張り出し部分に跳躍して、そこから俺を髪の毛で吊るして上に持ち上げてくれた。俺のジャンプ力でも張り出しに手は届いたのだろうが、そこからえっちらおっちらよじ登るのはカッコ悪そうなので、アスカに吊り上げてもらったわけだ。
張り出しの上に立って建物の中を覗くとそこは予想通り実験室だったようで、棚が倒れ備品が散乱して、中はメチャクチャになっていた。部屋の真ん中を中心に外側に向かって全方向に物が吹き飛んでいるようなので、そこが爆心地なのだろう。
部屋の隅の方に人が一人仰向けになって倒れていた。白衣を着た女の人のようだ。
もちろん俺ではなくアスカがすぐに駆け寄ってその人を助け起こす。
「目立った外傷は奇跡的にないようです。ただ、骨折などしている可能性がありますし、意識がないようですので、頭部になにがしかの損傷があるかもしれません」
意識はないようだが、今の爆発を至近に受けてよく無傷で済んだものだ。こういうのも強運なのだろう。俺の爆運には劣るかもしれないが十分だ。
「エリクシールもあるが、そこまで
「それでいいでしょう。そのうち大学の関係者も駆けつけてくるでしょうから、それまでここに居ましょう」
アスカに万能薬をスプーンと一緒に一ビン渡して、
「だな。俺は、窓からマーサたちにもう少し下で待っているように伝えておくからアスカはそのままその人の様子を見ててくれ」
「はい」
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