第461話 社会科見学3


 付属校見学も終わり、門衛の人に礼を言って外にでた。



「次はどこに行くんだっけ?」


「次は王立図書館に行ってみましょう」


「この人数で入って大丈夫かな?」


「保証金はここでも一人頭ひとりあたま金貨一枚のはずですから十九名だと大金貨二枚近くかかりますが、逆に保証金を預け利用料を人数分払いさえすれば問題ないでしょう」


「ちゃんとした図書館を知っておくのは大切だよな。今後、うちの連中がこういった施設を利用するときは補助を出してもいいかもな」


「今の利用料は開館から閉館まで何時間いようが銀貨一枚ですから、その七から八割を補助してはどうでしょう。全額補助をしても大した金額ではありませんが、少しでも身銭を切った方がけじめがついてよいのではないでしょうか」


「それもそうか。そんなヤツはうちにはいないと思うけれど、どうせ自分にとってはタダだからといって、図書館で騒いだりちゃんと利用しない連中も普通なら出てきそうだものな」



 そんな話をして王立図書館に向かっていたら、付属校からそんなに離れていなかったらしくすぐに到着してしまった。


 白い石造りの大きな建物がここにあるのは俺も知ってはいたが、ここが図書館だったとは知らなかった。


 中に入って受付で利用料と保証金を人数分払ってさっそく見学を始めようとしたのだが、子どもの混ざった団体さまだったため、司書の人が察してくれて、図書館の案内を買って出てくれた。おかげで、いろいろ図書館の仕組みなどを教えてもらいながら館内を巡ることができた。


 一通り周り終わったところで、みんなであまり大きな声にならないように、


「ありがとうございました」と礼を言ったら、


「図書館で分からないことがあれば、いつでも聞いてくださいね。こういったことがらを調べたいので図書館のどのあたりの本を読めばいいですか? といった質問も大歓迎です」とか言ってくれた。


 かなり大きな図書館だったので、司書の人の話を聞きながら一回りしただけだが三十分以上かかってしまった。


 少し気になったので、後ろにゾロゾロついてきているうちの連中に今まで図書館に入ったことがあるかと聞いてみたら、マーサ以外は一人もいなかった。仕方のないことかもしれないが、これはこれでびっくりしてしまった。まあ、初めてを経験させてやることができたのはほんとうに良かった。



「アスカ、次はどこに行く?」


「歩いていれば食事の時間になりますから、ゆっくり歩いて『ナイツオブダイヤモンド』にいきましょう。ここからだと少し港方向に戻りますが、時間調整と思ってください」


 アスカ以外、どこをどう歩いているのか気にしていないので、大回りしようが誰にも分らないはずだ。


 俺は走っても疲れない体なので全く苦にならない。問題は十歳、十一歳の六人だが、つらいようならスタミナポーションを飲ませてやればいい。


『ナイツオブダイヤモンド』も商業ギルドもかなり大きな建物なので遠くからも良くわかる。


「もしかして、あの大きな建物が『ナイツオブダイヤモンド』ってところかな?」


「話からすると食堂だろうから、あれはないんじゃない」


「『ナイツオブダイヤモンド』って私は聞いたことがある」


「さすがー。それで結局何なの?」


「何でも王都一の宿屋だそうよ」


「そうなんだ。宿屋の中の食堂って、わたし旅に出たこともなかったから初めて」


「わたしも」


「わたしも」





 俺たちの後ろで、子どもたちが話している。旅行自体なかなか簡単ではないこの世界。子どもなら旅行をしたことのない者も多いだのだろう。今日は旅行ではないが

豪華な食事を食べて大いに旅行気分を味わってくれればいい。


 それから三十分ほど歩いたが、子どもたちも問題なく『ナイツオブダイヤモンド』にたどり着いた。




 車寄せに面した玄関から玄関ホールに入ると高い天井からシャンデリアがぶら下がり、昼間ではあるが魔道具の照明がともされキラキラと輝いている。


 初めての連中は上を向いてシャンデリアを眺めながら、


「きれー」「すごい」


 などと口々に言っていた。


 そしたら今度は、シャンデリアの真下のショーケースの中に入っている銀色のドラゴンに目がいったようだ。シャンデリアの光を反射してキラキラ輝いている。


 これは今年の正月にこれまで世話になった礼として贈ったアスカの作ったミスリルのドラゴンだ。ショーケースの周りには人が近づけないよう綱で周りが囲んであった。今もその近くで、十人ほどの人がミスリル製のドラゴン像を眺めていた。


 俺たちがぞろぞろとホールに入っていってすぐに、玄関口に立っていたボーイさんが俺たちを追い越して、中に走っていった。そしたら、すぐに支配人さんが小走りにやってきた。


「コダマ伯爵さまにエンダー子爵さま、それにお連れの方々。『ナイツオブダイヤモンド』にお越しくださりありがとうございます。今日もこれからお食事でしょうか?」


「ちょっと大人数で押しかけましたがよろしくお願いします」


「まったく問題ございません。ささ、お席をすぐに作りますので、どうぞ食堂の方に」


 支配人さんが先頭に立って我々を案内してくれてた。席はどこでもよかったのだが、今日は真ん中あたりにテーブルを集めてもらって、縦長のテーブル席にしてもらった。


「テーブルの上のメニューを見て各自で何を食べるか決めてくれ。すぐに注文を取りに係りの人が来るからな。簡単なのは今日の定食かお勧めを単品で数品頼むかだな。デザートもおいしいから、それも食べるつもりで昼食を注文してくれ。飲み物は別だから忘れずに頼めよ」


 こういうアドバイスをしてしまうと、どうしても遠慮がさきに立って「わたしは定食で」ということになる。そのうちメニューを見慣れるようになって、好きなものがはっきりしてくれば、ちゃんとした注文ができるようになるだろう。かく言う俺も今日の定食を注文するけどな。


「それと、メニューには値段が書いてあるが、気にする必要はないからな」


 料金は基本タダなことは、ここではあえて言うまい。アスカのドラゴン像も贈ったことだし、俺自身あまり気兼ねはしていない。聞いたところによると、あれ一つで大金貨千枚の価値があるとかないとか。


 注文を終え、料理を待っているあいだ、六人がしきりに『ナイツオブダイヤモンド』についてスゴイスゴイを連発している。やはり、玄関ホールのシャンデリアとミスリルドラゴンに感動したようだ。マーサもここは初めてのはずだからびっくりしたに違いない。


「初めてここに来たマーサと新しい六人はホールにあったドラゴンにびっくりしたろ?」


「はい。凄く迫力のあるドラゴンですね」とマーサ。


「マーサは死んで丸くなったドラゴンしか見たことがないからな。あの像は生きてる実物とそっくりだけど、無垢の純ミスリル製なんだ」


「あの謎金属ですね」


「そう、そのミスリル。金などよりよほど高価らしい。あの像はミスリルの金属価値として破格だそうだが、今にも動き出しそうな感じが良く出ているので芸術性も高いらしいな」


 製作者であるアスカのいる前でずいぶん持ち上げてやった。持ち上げてはいるが本心から凄い芸術作品だと思う。


「あれの製作者は何を隠そう、このアスカでしたー! はい、拍手はくしゅー


 パチパチハチ。


 半分以上の連中は知っていることなのだが、知らない者にとってはこれこそ驚きだ。アスカが実はすごい芸術家だったとは思ってもみなかっただろう。


 俺だったら、ここでニヤニヤ笑いでもしそうだが、さすがにアスカは無表情を崩さなかった。何となくではあるが嬉しそうな顔つきをしているとは俺なら判断できるレベルである。


 照れているわけではないようだが、アスカがここで話題を変えて、生徒たちに向かって、


「今日のここでの食事は、将来お前たちがこういった改まった場所での食事会などに招待されることもあるだろうから、恥をかかないよう、少しでも場数を踏んでもらうためのものだ。今日はマナーなど気にしなくてもいいが、屋敷での食事で追々教えていくのでそのつもりでいてくれ」


 ここでの食事も、教育の一環だったな。まさにエリート教育を六人に対して行うということが俺にも良く分かった。とにかく耐えて頑張れば来年の入試でサクラの花が咲くはずだ。受験は夏なので、向日葵ひまわりかな。



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