第459話 社会科見学


 港に行った俺たちは、今日は王都見物・・のつもりだったのだが、どうも社会科の王都見学・・だったようで、アスカが新人生徒六人に対して質問をして、それに六人が答えている。これそのものがお受験で必要になる知識かというとそうでもない。



 港の岸壁前の通路や倉庫街を見て回りながら、


「港の浚渫しゅんせつは相当な大作業になるだろうし、大型機械もない現状じゃ実際のところどうやって作業するのかも見当もつかない。俺ならおそらく一日もかからずこの港の浚渫できるだろうから、そのうちやってしまおうか?」


「マスター、勝手に港の海底を深くしてしまうと関係者に驚かれますし、いろいろと別の問題が発生すると思います」


「そう言えばそうか。いま大型船から小型船に積み荷を乗せ換えているのも人手に頼っているわけで、それが必要なくなれば仕事がなくなって困る人も出るわけだろうしな」


「それに、岸壁部分や桟橋なども作り変える必要がありますから、ちゃんとその辺の調整も必要です。とはいえ、岸壁も桟橋も石の塊をどこからか都合して持ってくればいいわけですから何とでもなるでしょう」


「なるほど、岸壁も削ってそこに大きな石を置いてやればいいのか。桟橋は桟橋の形に大きな石を置いてやって後で形を整えればいいものな」


「削り取った海底面に砕石を均一に敷いてその上に石の塊を置けば安定するはずです。石の都合は、鉄道工事用に砕石を作るために山を削り取りましたが、あの辺りの岩石は丈夫そうでしたので、それで何とかなるでしょう。結局、マスター一人で何とでもなると思います」


「そのうち、リーシュ宰相にでも提案して見るか」


 俺とアスカが、港湾の整備について話していたら、うちの連中が、ぼーと俺たちを見ていた。


 ひとりラッティーだけがちゃんと思考していたようで、


「ショウタさんとアスカさんがいれば、土木工事はあっという間なんだ。わたしが、アトレアに帰って、アトレアで大きな土木工事がしたいときには二人に頼んでいいかな」


 確かにちゃっかりしているが、その程度のことならラッティーの顔を見るついでにアトレアまで『スカイ・レイ』で飛んで行って、やってやることに問題は何もない。


「その時は、気安く頼んでくれて構わないからな」


「任せておけ」


「ありがとう」


 自分にとってもすごく大変なことならいくらラッティーの頼みでも少し考えてしまうが、自分にとって簡単なことなら、二つ返事で引き受けることができる。



「アスカ、次はどこに行く?」


「次は、シャーリーとラッティーの通っている付属校に行ってみましょう。新人六人のうち何人かは通うことになるでしょうから、今のうちにどんな感じなのか見ていていた方がいいでしょう」


 そういえば、俺とアスカ、それにあそこの生徒のシャーリーとラッティーの四人以外付属校を見た者はうちにはいないかもしれない。


「それじゃあ、ゆっくり歩きながら付属校の方に行ってみるとしよう。ここからだとだいぶ距離があるから、途中で軽食屋にでも寄って休憩してもいいしな」



 そういうことで、またアスカに引率された俺たちがゾロゾロおしゃべりをしながら付属校に向かって歩いていく。港までは俺も引率者だったが、港からだといったん屋敷に帰らないと付属校までの道が分からないので、アスカに引率されているわけだ。


 港から三十分も歩けば、俺とアスカ以外は疲れが出てきたようで、口数が少なくなってきた。マーサも目立つ宇宙服は着ていないので、普通に疲れているようだ。


「アスカ、そろそろ休憩しようか?」


「すぐそこの軽食屋に入って見ましょう。この人数でも今の時間なら入れますし、ある程度評判の店ですから期待してもいいでしょう」


 いままで通ったこともない道に面したお店まで知っているとは、どこで情報を仕入れているのかは知らないけれど、こういったタウン情報もあれば重宝するしニーズはあるよな。新聞社構想に組み込んでもいいかもしれない。売れてくれば広告を載せてくれるよう依頼がくるかもしれないし、そうなればしめたものだ。この六人のうちからでもそういったことに興味を持ってくれたなら、事業として始めたい。第一の理由は俺が新しいニュースを見たいだけなので、収益は度外視でも構わないんだがな。


 俺自身、居酒屋なんて一度も入ったことはないのでただの想像だが、四人掛けのテーブルがたくさん並んだいわゆる居酒屋さんのような感じの店だった。冒険者ギルドのホールの横に設けられている食堂より見た目はきれいだ。ホールが広いため奥の方はやや暗い感じがする。


 そのことをアスカに言ったら、


「この店は、夜は居酒屋になる店です」


 俺の想像通りだった。大したことではないが当たったことが何となく嬉しい。


 店の人にテーブルに案内されたところ、人数が一九人なので、四人用のテーブルを五つ繋げて並べてもらった。


「メニューが壁に貼ってあるようだから、好きなものを頼んでくれ。ただ、まだ歩き回るからあまり重くならないようなものにしたほうがいいぞ」


 ほとんどの連中が軽食のつもりで、サンドイッチとジュースなどを頼んでいた。六人はこういった店が初めてだったようで、何を選んでいいのか戸惑っていたのだが、いちいちお姉さん風を吹かせたいラッティーが仕切って注文していた。


 店では三十分ほど休憩して、また付属校を目指して歩いていく。


 途中、公園のような場所があり、そこを通り抜けていったのだが、その公園の真ん中に、鎧を着た人物の石の像が立っていた。黒い鎧を着た人物の像を以前ルマーニで見た覚えがあるが、この石の像の材質は花崗岩らしく白っぽい。なんとなく安心だ。何でもこの国を初代の王さまが建てた時の功臣の一人だそうだ。その像の周りにはそれなりの人がいて像を見上げていた。


 この像については、お受験で出題される可能性が高いので、ちゃんと逸話などを押さえておかなくてはならないと、アスカ先生が生徒たちに向かっておっしゃっていました。当然ラッティーはアスカから習って知っていたようだが、お受験をしていないシャーリーは知らなかったようだ。というか、アスカとラッティー以外誰も知らない人物だった。いかに凄い人だろうとドラマになったわけでもなく映画になったわけでもない人物のことなど一般人が知るはずないものな。


「いえ、この人物の活躍については多くの劇が作られていますので、一般人でもかなりの人が知っている有名人です」


 だそうです。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る