第458話 超人類


 アスカにらぬ約束をさせてしまったことは反省したのだが、シャーリーのもらったラブレターのことが解決したわけではない。


「そう言えば、シャーリーに先ほど手紙をもらったのですが、こういったものに返事をするべきなんでしょうか?」


「うん? 何でシャーリーがアスカに手紙を渡すの?」


「付属校に私のファンクラブがあるそうなんですが、そこの女子が私にファンレターを書いて、それをシャーリーが預かって私に手渡したものです」


「ファンレターとはすごいな。シャーリーにはラブレター、アスカにはファンレター。あれ? なんか引っかかるな。ひょっとして、シャーリーがもらったラブレターとは、シャーリーが受け取ったアスカへのファンレターだった可能性がわずかにある。ような気もする」


「ファンレターとラブレターの違いがラッティーに分からないはずはありません」


「それもそうか。ファンレターについては内容にもよるけれど、別に返事は書かなくてもいいんじゃないか。

 それよりシャーリーの方はどうすればいいと思う?」


「そちらの方も、何もしなくていいんじゃないですか。シャーリーもわきまえていますから、シャーリーの判断を信じましょう」


「そんなのでいいのかな? もしも失敗したら取り返しがつかなくなるんじゃないか?」


「マスター、恋愛に失敗や成功があるんですか?」


「俺に経験があるわけじゃないからあくまで想像だけど、後悔しない恋愛が成功で、その逆が失敗だと思う」


「そういった考えも否定はしませんが、恋愛が始まらなければ、人生そのものに失敗しているのではありませんか?」


「そう言われると、未だに恋愛経験のない俺なんか、人生に失敗しているようなものか?」


「その方面についていえば、マスターは確かに失敗中かもしれませんが、最後には成功するかもしれません。しかし、マスターくらいの年齢の人間の男性ですと過度に女性に対して意識してしまうというような情報を私は持っています。ですが、どうもマスターにはそういったところがないようなので、何か身体的、または精神的、またはその両方に問題があるのかもしれません」


「えええーー!!! 俺って普通人じゃないの?」


「外見上は普通人ですが、恋愛感情については、もはや老成しているような感じです」


「老成か。たしかに、女性に対して好きだという感情はあるけれども、じゃあ、それが恋愛感情なのかと言われれば、少し違う気がするものな。男子高校生といえば、人生の中で一番そういった事柄に興味がる年頃だと想像できるけれど、俺の場合、あまりそういったことに執着しゅうちゃくしたいとは思えないからな」


「可能性として考えられるのは、マスターの人類離れしたレベルの高さからくるステータスと異常なまでの魔力量が影響しているのではないでしょうか?」


「どういうこと?」


「つまり、マスターに釣り合う女性が人類には存在しないため、恋愛感情が無意識に制限されているのではないでしょうか」


「それって、俺が普通人じゃないを通り越して人外ってこと? ちょっと前まで『人類最高』とか浮かれていたけれど、俺って、人外だったんだな」


「人外というと大げさですが、言ってみれば超人類でしょうか」


「普通人に戻れるのかな?」


「今の仮説が当たっているなら、マスターが老衰して亡くなる間際まぎわにはレベルや魔力量が人並みになるでしょうから、人類に復帰できると思います」


「それって、意味あるの?」


「分かりません。ですが気の持ちようです」



 アスカの超人類仮説は正しいのかもしれないが、俺が俺自身のことを振り返って考えるに、いつもアスカに頼りっきりでそれがお互いあたり前になっている。


 打算的ではあるが、俺自身がこのぬるま湯状態から抜け出したいと思わなければ、女性に対して恋愛感情を持つことはないと思う。アスカを越える女性が現れればこの考え方も変わるかもしれないが、そういう可能性は皆無なわけだから、ずーっとこのままだ。それでいいと言えばそれでいい。そう思ってしまう俺はやはり老成しているのかも?


 それとも、ふとしたはずみで、どこかの誰かと恋愛するようなことがあるのだろうか? まずないな。


 結局、俺自身についてもどうしようもないし、シャーリーについても何もできない。恋愛などというものはそういうものだと割り切ってしまうしかない。ということにしておこう。将来このことで問題が起こったとしてもアスカが何とかしてくれるだろう。




 シャーリー問題は結論として何もできないし何もしないということで棚上げにして、その翌々日。


 今日は、新人六人の授業はお休み。シャーリーとラッティーの学校も定休日。飛空艇の方も休日のため結局、みんなで王都見物に繰り出すことになった。


 今回は、夕食はゴーメイさんが一人で用意するからミラとソフィアも王都見物に行ってこいと言ってくれたようなので屋敷の女性陣全員を連れていることになる。


 屋敷に残った男性陣には、安直ではあるがお土産にいつものようにお酒でも買って帰るとしよう。昨日アスカは用品店と衣料品店に行って、新人六人用に傘と予備の下着類などを買い込んできた。それを俺がこれまで通り収納している。傘は普通のものだし、いちおう下着は子供向けだったようで、極端なものではなかった。



 屋敷から大通りを通って港の向かって二列縦隊でゾロゾロ歩いていくものだから、結構目立っている。今年の正月、みんなで『ナイツオブダイヤモンド』に行ったときはかなり朝早かったのだが、今日は朝食をとってきたのでそれほど早くはない。


 港の方も朝方の忙しい時間は過ぎているので、人がそんなに多いわけではなかった。




「ここが、セントラル港か、初めて来たけど、大きな船がいっぱいあるんだ」


 やってきたセントラル港。新人六人のうち数人はやはり初めてだったようだ。


「岸壁や桟橋さんばしに横付けしている船は小さな船だけど、沖の方には大きな船が何隻も見えるだろ? 大きな船から小さな船に荷物を乗せ替えて、港に陸揚りくあげしているんだ。どうしてそんなことをしているのか誰かわかるかな?」


「はい! アスカ先生」


「それじゃあ、リリカ」


「港の近くは海が浅いので、大きな船が近づくと、船底ふなぞこが海底に当たってしまうからだと思います」


「正解だ。それでは、どうすればいい?

 だれか分かるかな? それじゃあ、ニナ」


「海底の砂を掘り下げることができれば、大きな船も港に直接入ってこれると思います」


「そうだな。だが、海の底の砂を掘り下げるのはなかなか難しい。今の技術ではこの港全体の海底の砂をさらうには、数十年単位の時間と莫大な費用が掛かるだろう。という訳で面倒だが沖から荷物を小さな船に乗せ換えて運んでいるわけだ」


 今日は見物・・かと思っていたが、社会科の見学・・だったようだ。


 さすがはアスカ先生。




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